0から1を生み出し新たな価値を創造する、現代風イノベーションの進め方

2016.05.13
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企業と顧客、パートナー、さらには生活者などが一体となって価値を生み出すオープンイノベーション−−。社会構造が大きく変化していく中で、これまでにも増してセクターを越えた協働による新たな価値づくりが求められています。そこでの日本企業は、最も重要で高いポテンシャルを持っていると言われる一方で“弱い”とされている力があります。様々なステークホルダーと共に0から1を生み出す力です。

何もないところから創造するという行為は、決して簡単なことではありません。不確実性が高いため見通しが立たたない作業の連続でもあり、成功確率もとても低いものです。強い事業領域が確立している企業であれば、新しい価値をつくろうと息巻いても既存事業と比較・評価され簡単に消えてしまうのが実態です。なぜなら、次なる事業となる可能性のある最初のアイデアは、極めて未成熟で脆いものだからです。これが「既存企業からはイノベーションを起こすのが難しい」といわれてきた理由です。しかし今、この未成熟で脆いアイデアをかたちにするための取り組みは一昔前よりも格段にハードルが下がってきています。

価値創造へのハードルが下がった2つの理由

既存企業発のイノベーションが以前より容易になった理由の1つが、新しいビジネスを創るための方法論が確立されつつあるということです。新しいビジネスやサービスを開発するというと、卓越した才能の持ち主だけが担うことと思われる方も多いかもしれません。これが昨今では、仮説・検証・方向転換という試行錯誤を繰り返しながら、素早く失敗と学習を繰り返すことで、不確実性を大きく低減し、成功の確率を高めていくというアプローチが、徐々に有用になりつつあると言われているのです。

この点を従来型の企画のやり方と対比させたものが表1です。前提、アプローチ方法、アウトプットのそれぞれで大きく異なっています。

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表1:従来の企画の進め方と、0から1を創造する企画の進め方の比較

もう1つの理由には、イノベーションのためのコストが格段に下がったことが挙げられます。素早く安価にプロトタイピングを行うためのツール、例えば3Dプリンターやシングルボードコンピューターは凄い勢いでコストダウンされています。そして、そういったツールを活用して制作したプロトタイプなどを実際に試して計測・評価するための方法論やツールも多数生み出されています。クラウドコンピューティングとWebベースの開発環境やコミュニケーションツールは、単にコストだけでなく迅速なチーム作業を可能にしました。いざ製品化という際にも、インターネットを介した資金調達も可能になりました。いわゆるクラウドファンディングです。

それだけではありません。プロモーションにかかるコストもWebを駆使すれば、ほぼかからないといえるかもしれません。なぜなら、ソーシャルメディアの普及によって、ユーザーが「価値がある」と判断したサービスは、ユーザーが瞬く間に世界に広めてくれるからです。

実践現場と概念空間を行き来する試行錯誤の方法論

価値創造において、筆者たちが最も重視しているのは、実践現場と概念空間を行き来しながらチームで作り上げていくということです。実践現場とは、実際の生活者やユーザーがいるところで具象化する場を指します。概念空間は、思いや体験を抽象化し共感を生む場のことです。

実際には、現場の課題をフィールドワークで洞察し、そこから本質的な問い(検討テーマ)を設定し、いくつかの具体的なアイデアを創出します。そこから無数のアイデアを俯瞰しながら統合化・抽象化を行うことでコンセプトを磨き上げ、実際のものづくりと検証、つまりプロトタイプに入っていきます。ここまでに数カ月かけることもあれば、極めて短期間で実施することもあります。

ユーザーや市場の評価を受けながらコンセプトを見直す、プロトタイピングを繰り返す、ビジネスモデルを発展させサービスプロセスを定義していく──。このように、実践現場と概念空間を何度も何度も行き来します。具体と抽象、発散と収束を繰り返しながら、本当に解決すべき課題は何か、提供価値は何なのかをプロジェクトメンバー全員で問いかけ、解を探っていきます。こうしていく中で、アイデアが社会的価値になり、実装されていくと考えます(図1)。

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図1:実践現場と概念空間を行き来する試行錯誤の概念

共創プロジェクトに欠かせない多様性と対話と共体験

試行錯誤型の方法論を適用するにあたって重要なことがあります。それは「共創プロジェクト」として推進するということです。共創プロジェクトとは、課題と原因の因果関係が複雑で、解決策も1つだけでないような類の課題に対し、企業や顧客、パートナー、生活者など多様なステークホルダーと共に解決を試みる取り組みを筆者らが名付けたものです。

共創プロジェクトでは、社会や企業を変革する新しいビジネスやサービスを生み出すだけでなく、その土壌となるコミュニティ作りを重視しています。継続的にチャレンジし続けるためには、ビジョンや存在意義を強く共有し、試行錯誤を共に繰り返せるプレーヤーとのフラットな関係性作りが極めて大切だと考えるからです。

そのために筆者らが大切にしているポイントが3つあります。それは(1)多様性、(2)対話、(3)共体験です。多様性とは、相互の共感をキーとして、人々の多様な価値観、バックグラウンド、専門性を取り込むことを意味しています。未来を的確に予測し続けられる人の登場を待つのではなく、非線形の未来を自分たちの手によって創り上げることが求められています。固定観念にとらわれることなく様々な未来の可能性を探るためには、多様性が不可欠だと考えます。

この多様性を引き出すために大切なのが対話です。多種多様な意見を受け入れ、相手を受け入れ、自分の感じたことを伝え返すことを指しています。前例もなく、問題や課題が複雑に絡み合えば合うほど、相手が論じていることを打ち負かす「討論」や結論を出すための「議論」でもない対話が、課題の設定や解決策の糸口を見いだすうえでは有効になります。

3つ目の共体験とは、同じ時間と空間を主客一体になって過ごすことを意味します。0から1を生み出すとき、そこに関わる様々なプレーヤーが、非言語情報も含めた文脈を頭だけでなく身体全体で感じとることが欠かせません。そのため、筆者らが実施する共創プロジェクトでは、共通のテーマに対してステークホルダーが一堂に会して取り組むことを重視します。期間が短かったとしても思いを共通化し、創造的なアウトプットを生み出せるような仕掛けを採り入れています。

最近各地でも実施例が増えているハッカソンやアイデアソンなども、こうした考え方に沿う活動だと言えます。多くの企業が自ら実践知を獲得すべく、多種多様なプロジェクトを立ち上げ、取り組み始めています。

執筆者プロフィール
佐々木 哲也(富士通総研 産業・エネルギー事業部 チーフシニアコンサルタント)
製造業や通信業の企画業務を中心としたコンサルティングを手掛ける。複数の企業や団体の技術、アイデアを組み合わせて革新的な製品やサービスを生み出す「オープンイノベーション」に、企業や研究機関と共同で取り組んでいる。

黒木 昭博(富士通総研 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント)
製造業のICT中期計画策定や新規サービス企画・開発を中心としたコンサルティングを手掛ける。企業と顧客が一体となって価値を生み出す「共創」を促進する手法の研究開発や実践にも取り組んでいる。修士(経営学)。

注:本記事は、富士通総研が発行する『知創の杜、2016 Vol3』に掲載された『0から1を生みだし、新たな価値を創造する』を本サイト用に再編集したものです。

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