靴は3Dプリンターで作る、独アディダスが2018年末に10万足を“印刷”

2017.10.12
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「オーダーメードのシューズ」と聞いて、職人が一足ずつ手作りするというイメージは、もう古いのかもしれません。ドイツの大手スポーツ用品メーカーアディダスが3Dプリンターを使ったランニング用シューズを販売します。2017年4月には関係者向けに既に300足が提供され、この秋冬には5000足以上を一般消費者向けに販売。2018年には10万足にまで拡大する予定です。

17年分のデータを分析しミッドソールを”印刷”

アディダスが本格販売する3Dプリンターで作るのは、「Futurecraft 4D Runner」と名付けられたランニングシューズです(動画1)。同社が「スピードファクトリー」と呼ぶ新しい製造方法で作る「Futurecraft」シリーズの集大成だとしています。

動画1:3Dプリンターで作るランニングシューズ「Futurecraft 4D Runner」の紹介ビデオ(1分19秒)

3Dプリンターで生産するのは、ミッドソールと呼ばれる靴底の内側にある衝撃吸収材の部分です。17年分のランニングデータを分析し、これまでの試作や成形の工程を不要にすることで、よりスピーディに高性能なシューズを製造できるようにします。

実はアディダスは、2014 年から3Dプリンターによる靴の製造方法を調査し、翌2015年に初の 3D プリントによる製品「Futurecraft 3D Runner」を発売しています。ただ、そこで採用していた3D プリントの技術では、十分な製造速度と規模が得られないほか、外見や色彩面でも品質を高められず、素材にも制限があったとしています。

Futurecraft 4D Runnerでは、新しいテクノロジーを活用することで、量産規模の拡大と、ミッドソールとして必要な機能の両立を図っています。単一の構成部品であることから、動作やクッション性、安定性、そして快適性といった面で利用者のニーズに正確に対処できるとしています。

アディダスが新たに採用する3Dプリント技術

それほどまでにアディダスが期待する3Dプリント技術とは、どのようなものなのでしょうか。それは米Carbonが開発する「Digital Light Synthesis(デジタルライト合成)」と呼ばれる手法です。Carbonは注目のスタートアップ企業の1社です。GEやFord、コダック、ジョンソン&ジョンソンといった米国企業や独BMWなどが次々とパートナーシップを締結しています。

Digital Light Synthesisは、光と酸素を用いる方法で、「CLIP(Continuous Liquid Interface Production)」と呼ぶ3Dプリンティング技術に基づいています。酸素透過性を持つ光学系を組み合わせるデジタル光投影法を使います。従来の添加物を使った方法では脆弱な部分がありましたが、熱活性化可能な化学物質を埋め込むことで、それを克服したとしています。

新しい手法では、光造成技術によって製品を上から下へと印刷します(動画2)。これにより、より複雑な造成を正確に実現できるようになりました。Carbonによれば、従来の光造形法による3Dプリンターと比べ、高解像度の印刷対象を25~100倍早く作れます。そこにアディダスは着目し、量産を視野に入れた製造技術として採用したというわけです。

動画2:Digital Light Synthesisの動作原理の説明ビデオ(2分31秒)

Carbonの3Dプリンティング技術は既に実用例が出てきています。アラバマ州ハンツビルに本拠を置く歯科技工所のオーラル・アーツが、その1社。歯科模型の全生産量の60%を2カ月でCLIPによる生産に切り替えました。

ITベンダー大手の米Oracleの研究所では、マイクロサーバーを大規模ネットワークに組み込むために必要な部品の生産をCarbonに依頼しました。従来の3Dプリンターでは、Oracleが求める品質には届かず、納期も何カ月もかかっていました。これをCLIP技術に切り替えたところ、材料特性は高まり、必要な1万個の部品を数日で生産できたとしています。

各社スポーツメーカーの取り組み

スポーツ用品メーカー各社は、3Dプリンターで生産するシューズの開発に取り組んでいます。日本で初めて3Dプリンターを使ったランニングシューズを展示したのは米ニューバランスの日本法人です。「Zante Generate」というランニングシューズ用のミッドソールを、粉末状の素材にレーザー照射して焼結させる粉末焼結積層造形(SLS)法で作りました。米国で44足を限定発売しています。

2017年5月には、中国の大手プロスポーツ用ブランド「Peak」がニューバランスと同じSLS技術で、3Dプリンターで作成したランニングシューズ「Future I」を北京で発表しました。中国では初の3Dプリンティングによるシューズです。こうした中で、量産化にメドを付けたアディダスの動きには、各界が注目しているわけです。

Carbonの共同創立者でありCEOのジョセフ・デシモーニ博士は、「3Dプリントの技術がありながら、製造工程は、デザイン、試作、ツール、製造の4つのステップに従ってきた。Carbonの技術は、このサイクルを止めて、デザインから製造へ直接進められるようにした。技術者とデザイナーが従来は不可能だったデザインを可能にし、製品ラインナップを進化させられる」と話します。

2016年、日本国内で使われる3Dプリンターの用途は「試作品」が 59.1%と過半数でした(『3Dプリンタ世界市場に関する調査』矢野経済研究所調べ)。デシモーニ博士の言と比べれば、まだまだ3Dプリンターによる製造サイクルの改革にまでは進展していないようです。量産に取りかかるアディダスの動きは、製品のデザインから製造までの製造サイクルが変化し始めたことの象徴と言えそうです。

執筆者:二宮 太一(Digital Innovation Lab)、高橋ちさ(ジャーナリスト)

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