5年後のテック業界に日本の姿はあるか〜CES 2017に見る危機感〜(前編)

2017.02.23
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毎年1月初旬、お正月気分も覚めやらぬ中、世界中から17万人もの人々が大挙して押し寄せるイベントをご存知でしょうか?米ラスベガスで開催される「CES」です。来訪者の目的はもちろん、ギャンブルや休養ではありません。彼らを引きつけて止まないのは、CESで展示される最先端テクノロジーと、その応用例です。2017年のCESで何が起こっていたのかを前後編に分けてご紹介します。

あらゆる産業の最先端テクノロジーから近未来を見通す

CES(通称セス。正式名称はシー・イー・エス)」は2017年、1967年の初開催から50年目を迎えました。CESを主催しているCTA(Consumer Technology Association)の発表によると、「CES 2017」の参加者数は以下のようになっています(いずれも2016年実績に基づく予測値)。

●参加総数:158の国と地域から17万7000人(うち5万4000人が米国外から)
●出展者数:3800社(うち20%が設立3年以内のスタートアップ)
●バイヤー:3万3000人
●投資家(投資銀行、ベンチャーキャピタル、エンジェル):1800人
●メディア:78カ国から7500人

従来CESは「Consumer Electronics Show」の頭文字をとったもので、家電の総合見本市でした。それが近年は「テクノロジーのショーケース」という表現がふさわしいイベントになり、正式名称も「CES(シー・イー・エス)」に変更。自動車やスポーツ関連用品など、あらゆる産業の最先端テクノロジーが展示される場へと変貌を遂げています。

例えばトヨタ自動車は、今回のCES2017で、最新のコンセプトカー「Concept-i(コンセプト・アイ)」を初めてお披露目しました(写真1)。インテリア/エクステリアともに斬新なデザインが施され、AI(人工知能)との融合を打ち出しています。同社の初お目見えが、自動車産業の本場である米デトロイトで開かれるモーターショーではなくCESだったことは、CESが家電以外に多くの産業を飲み込んでいるという象徴とも言えるでしょう。

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写真1:トヨタ自動車の最新コンセプトカー「Concept-i(コンセプト・アイ)」を紹介するレポーターの様子

加えて、いずれの展示にも一貫して共通しているのは、10年先、20年先の製品やテクノロジーではなく、比較的近い将来、すなわち1〜2年後、長くても5年以内に私達の生活や職場にもたらされる技術や製品だということです。ですので、来場者はCESから近未来を見通そうとし、出店者は近未来の市場におけるプレゼンス(存在価値)の向上を掛けています。トヨタだけでなく全産業からの出店者が新製品発表の照準をCESに定めているのは、そのためです。

CESの会場は大きく3つに分かれています。(1)家電や自動車など比較的成熟した産業を中心とした「TECH EAST」、(2)クラウドファンディングで製品を開発しているようなスタートアップ企業や、家電の枠を超えた製品が展示される「TECH WEST」、(3)最も新しい会場の「TECH SOUTH」です(図1)。いずれの会場も広いうえに、それぞれが数キロも離れています。開催期間の4日間(プレス専用の2日間を加えても6日間)では、とてもすべての展示は見られません。さらに各種のセッションが頻繁に開催されています。にもかかわらず、会場間の公共交通機関は発達しておらず、CES専用バスも非常に混みます、タクシーや「Uber」などが主な移動手段になりますが、徒歩も現実的な選択です。筆者は会期中、毎日平均3万5000歩も歩きました。

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図1:CESの会場地図(出所:CES 2017公式サイト)

トップトレンドは「音声認識」、スマートホーム関連機器が百花繚乱

CESでは例年、メディアを対象としたセッションが本番前に開かれます。その中で毎年扱われるテーマの1つに「今年の注目すべきトレンド(Trend To Watch)」があります。CESを主催するCTAが、その年に盛り上がるであろうトレンドを紹介します。2017年のトレンドの筆頭に挙がったのが「Voice Recognition(音声認識技術)」です。この分野は本サイトでも2016年末に『「Hey Siri」「OK, Google」そして「Alexa」、音声での操作が当たり前に』として取り上げたばかりです。

展示会場では、このトレンドを、いわゆるスマートホームの文脈で体現した展示が多数見られました。中でも米Amazonが提供するクラウドベースの音声認識サービス「Alexa」をベースにした製品の展示が実に700種にも及びました。このこと自体は既に多くのメディアで取り上げられていますが、筆者が実際に見て、触れた機器を中心に、そのインパクトの大きさを改めて紹介します。

スマートホームの中核ポジションを狙う家電の1つが冷蔵庫です。韓国のLG電子やSamsungがAlexa対応の冷蔵庫をそれぞれ発表しました。動画1は、LGのスマート冷蔵庫です。「SMART INSTAVIEW」というドアを2度ノックするとドアの一部がシースルーになり扉を開けなくても中身が見える機能に加え、Alexaによって音声で操作できます。冷蔵庫内にある食材を使って調理できるレシピの提案を受けたり、Amazon.com経由で食材を発注したりが可能です。食材を保存するという機能を提供する冷蔵庫が、タッチパネルや音声認識に対応することで、全く別の機能を持ち始めました。

動画1:韓国LG電子がCES2017に展示したスマート冷蔵庫の紹介ビデオ

総合家電メーカーの顔も持つ米GEは、「C by GE」と呼ぶスマート電球の新製品を展示しました(動画2)。卓上ライトにAlexaが搭載されることに特段のメリットは見えて来ませんが、将来、例えばテーブルやドアのノブにまで音声認識デバイスが搭載されてしまう前に、リビングの一角に自社のAlexa搭載機器を置いておきたいというメーカーの意志が感じられます。その洗練されたデザインは、住空間の照明が基本的に間接照明である欧米のライフスタイルには自然になじむのかもしれません。

動画2:Alexaを搭載した米GEのスマート電球の紹介ビデオ

多数の機器が対応したAmazon Alexaですが、その元祖は同社自身の「Amazon echo」です。写真2の左は、CESの会期後に立ち寄った、筆者のアメリカ人の友人宅のリビングに“普通に”置かれていたEchoの小型版「echo dot」です。その友人は、テクノロジーに特に関心が高いわけではないだけに、そこにechoがあったことには余計に驚きました。友人は音声で室内の間接照明のオン/オフを確認したり、私の翌日のフライトのために天候を確認したりしていました。echoユーザーにとっては、音声による機器の操作は既に自然な行為になっているようです。

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写真2:米Amazon.com自身のAlexa搭載デバイスである「echo dash」(左)と、中国UBTECHのAlexa搭載パーソナルアシスタントロボの「Lynx」

ただCESでは、人型のパーソナルアシスタントロボにもAlexaが搭載されていました。中国・深セン発の新興ロボティクス企業UBTECHの「Lynx」が、それです(写真2の右)。音声に反応して動作するのはもちろんのことながら、搭載するカメラで発話者を認識するといった機能を持っています。筒状で無機質なAmazon echoと対話するよりは、こうしたロボットとの対話の方が、ずっと自然なように思えました。

日本発のAlexa搭載デバイスの展示は1点もなし

これら音声入力の応用例をみれば、音声による機器の操作や情報へのアクセスは、もはや当然の流れのように思えます。実は、この記事も一部はiPhoneの音声入力機能を使って書いています。米Googleのオフィスソフト「Google Docs」上に保管した下書きにiPhone上でタップして音声入力しているのです。入力されるさまをMac上でリアルタイムに確認しながら、変換ミスがあった漢字やアルファベットだけをMacのキーボードから修正しています。かなり前から「最近の大学生の一部は卒業論文を携帯(スマホ)で書く」と言われていましたが、今なら音声入力で論文を書いている学生もいるかもしれません。

音声という古くて新しいユーザーインタフェースが、私達の生活の一部になることは、これまでのキーボードやタッチパネルからの手を使ったコンピューターとの対話から解き放たれるパラダイムシフトだと言えるでしょう。だとすれば、Alexaに対応した機器が日本企業からは1点も発表されていなかったことは、Alexaが日本語には正式対応していない点を差し引いても残念でなりません。これがタイトルにもある「5年後のテック業界に日本の姿はあるか」という危機感にもつながっています。

CES2017の終了後、日本独自の音声認識プラットフォームを構築するという動きが報道されました。ですが、そうこうしている間にもCES2017でAlexa搭載機器を発表したメーカーは知見をどんどん溜め込んでいきます。音声によるユーザーインタフェースがどのように進化しているのかは、次回のCES 2018で注目すべき大きなポイントの1つになるでしょう。

後編では視点を変え、大手メーカーやスタートアップ企業にとってCESがどのような価値を持つ場になっているかを中心に紹介します。

執筆者:森澤 友和(フィラメント COO)

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