5年後のテック業界に日本の姿はあるか〜CES 2017に見る危機感〜(後編)

2017.02.28
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1〜2年後、長くても5年以内に私達の生活がどう変わるのかを占う“場”となったCES。前編では2017年に最も注目されるであろう音声認識を中心に、スマートホーム関連製品の中からいくつかを紹介しました。後半では、多数の技術や製品、サービスを出展している大手企業あるいはスタートアップ企業にとって、CESという“場”が提供している価値について紹介します。

CESに押し寄せる17万人、みな本気度が高い

前編でも、お伝えしたように、CESは家電に限らないテクノロジー全般のトレードショーです。他のトレードショーよりも“本気”の参加者が多く集まると言われています(写真1)。出展者は高額のブース出展料を出してでもアピールしたい商品を引っさげて参加しています。バイヤーは、魅力ある商品であれば直ぐにでも取り扱いたいと意気込んでいます。投資家も、他の投資家による手垢が付いていない投資先がないかを血眼になって探しています。飛行機代や、会期中は高騰しているホテル代、食費なども加味すれば、そうそう気軽には参加できません。夜も、各種のパーティーに参加したり、ホテルのスイートルームを貸し切って実施されるプライベートセッションに参加したりと、ネットワーキングに余念がありません。様々な意味で参加者の“本気”が問われているのです。

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写真1:“本気”の参加者であふれるCES2017の会場の様子

フランス政府によるスタートアップ支援策が圧倒的な存在感

そうしたCES2017の会場にあって、大きな存在感を示していたのが、フランス政府によるスタートアップ支援策「フレンチテック(La French Tech)」でした。家電の枠を超えた製品が展示される「Tech West」の一角に600を超えるスタートアップ企業が集まる「Eureka Park(エウレカパーク)」に、100以上のスタートアップが大西洋を越えてやって来たのです。ピンクの雄鶏のロゴを配した共通のブースデザインが通路の奥まで続く様は圧巻です(写真2)。La French TechのTwitterには、「そう、フランスのスタートアップはEureka Parkを占拠してる!」とのツイートがありましたが、それは紛れもない事実でした。

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写真2:共通のブースデザインが続く「La French Tech」の展示エリア

いずれの出展企業の製品もデザイン性の高さが際立っている辺りは、さすがフランスといったところでしょうか。中でも、特に筆者の目を引いたのがスマートシャワーヘッドの「HYDRAO」。何がどうスマートなのかといえば、シャワーヘッドについたカラフルなLEDで使用量の過多を警告したり、シャワーヘッドとペアリングされたアプリケーションで水道水の使用状況をモニタリングできたりすること(動画1)。ヘッドに内蔵されたタービンを水圧で回して発電するためバッテリーは不要とのことです。聞くところによれば、フランスでは一部の地域で時期によって深刻な水不足に見舞われることがあります。水資源が豊かな日本ではあまり見られない着眼点です。製品はEU圏内では既に90ユーロ(1万1000円弱)で販売されています。

動画1:スマートシャワーヘッドの「HYDRAO」の紹介ビデオ

La French Techのエリアでは、自国のスタートアップをCESで最大限アピールしようとする意気込みが感じられました。筆者は帰国後、フランスのスタートアップ企業の国際舞台での台頭について、フランス人投資家で今は日本で投資活動を展開しているMark Bivens氏に聞く機会を得ました。同氏によると、フランスのスタートアップ環境も、かつては以下のように日本と良く似ていたそうです。

●スタートアップのエコシステムがない、またはエコシステムの機能や存在する地域に偏りがある
●国や地方政府によるサポートが限られている
●自国内にそこそこの市場と需要があり、起業家が自国外の市場に意識を向けない傾向にある
●英語によるコミュニケーションが苦手

これらは、まるっきり日本の状況ではありませんか!英語によるコミュニケーションが苦手な点は意外でしたが、La French TechのWebサイトを訪れてみると、洗練されたデザインではありますが、英語表示に切り替えられるオプションなどはトップページには見当たりません。なるほどです。別途、在日フランス大使館の経済参事官からうかがった話では、フランスのスタートアップの状況が変わってきたのは、ここ数年のこと。外国人技術者に対する労働ビザ発給の緩和措置や、La French Techによる海外進出サポートが奏功し、よいサイクルが回ってきたようです。首都パリだけでなく、リヨンやノルマンディー、壮大な山並みを持つアルプス地域などフランス全土のスタートアップ企業を支援できる体制を数年かけて築いてきたのです。

FBIやMr.President!も現れる!

ほかにもTech Westの会場では、日本の展示会では目にしないであろうブースにも出会えました。1階ホールで見つけたのは、見覚えのある3つの文字。なんとFBIのブースがあるではありませんか(写真4)。別に悪いことはしていないのですが、恐る恐る出展理由を聞けば、国際的な展示会は産業スパイや技術流出のきっかけになり得るからとのこと。自社の技術をしっかりと守るための相談を受け付けているのです。頼もし過ぎる!! 管理体制がしっかりしていない若い企業であればあるほど後手になりがちな領域です。米国籍の企業が主な対象のようですが、日本企業もCESの華々しい面を見るだけでなく、様々な面でのセキュリティにも、しっかりと意識していただきたいと思いました。ブースでいただいた「FBI特別捜査官(Special Agent)」の名刺は、持っているだけで魔除けになりそうです。

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写真3:自社技術を守るための相談を受けて付けているFBIのブース

こんなそっくりさんもいました(写真4)。アーティストや政治家など歴史的な人物の直筆サイン入りポスターなどを証明書付きで販売しているブースでのことです。写真では、愛想よく応えてくれているように見えますが、実際には多くを語ってはもらえず、結局は誰だったのか、何の目的でCESに来ているのかは謎のままでした。

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写真4:会場内で見つけた某氏のそっくりさん

自国でのビジネスだけでは構築が難しいコネクションを築け

いかがだったでしょうか。CESは自国でのビジネス展開だけでは構築が難しいコネクションを築ける貴重な“場”でもあります。日本から今回、初出展したprimesapの木村 岳社長は、周到に準備したうえでCESに臨んだといいます(写真5)。結果、「CESをフェイスツーフェイスのコミュニケーションの場ととらえ、自社ブースでのアピールだけでなく、こちらから他社ブースに出向くようにした。導入している技術や、これから必要になる技術について直接ディスカッションすることで、自社のロードマップを一気に3年分進められそうな感触が得られた」(木村社長)ようです。同社は、IoT(モノのインターネット)デバイスなどを使いエイジング(加齢)の最適化やスポーツの成績向上などに向けたサービスを展開しています。

ces_2_5写真5:CESに初出展したprimesapの木村 岳社長(左)と筆者

メディアとして初参加した筆者も、いくつかのプライベートセッションにお招きいただいたり、なかなか会えない投資家や起業家、人気のテックレポーターと夕食を共にしたりすることで、多くの方と親しくなれました。いずれの出展者も、日中の展示疲れをものともせず積極的にネットワークを広げていました。パーティー慣れした欧米人はなおのこと積極的に交流しているようでした。

上記で紹介したフランス企業の製品は、デザイン性や機能性で確かに優れている点はあります。ですが、日本のスタートアップと比べた場合、製品そのものに圧倒的な差があるようには感じられませんでした。それだけにCESでの日本企業の存在感が、あまりに小さいことは残念でなりません。CESが近未来を映す場所だとすれば、数年後のTech業界での日本の存在は、どうなっているのでしょうか。

しかし、フランス政府のLa French Techの取り組みでも触れたように、日本だけが特別な環境にあるわけでもありません。今後のテック業界のエコシステムの発達によっては、来年以降のCESでは大きな存在感を示せるかもしれません。2018年のCESは、2017年より4日遅い1月9日からスタートします。お年玉と呼ぶには少し遅くなりますが、どんな近未来を見せてくれるか、今から楽しみで仕方がありません。

執筆者:森澤 友和(フィラメント COO)

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