世界有数のハイテク企業やスタートアップ企業、ベンチャーキャピタル(VC)などが集まる米シリコンバレー。そのシリコンバレーで、スタートアップ企業と大手企業のマッチングを図っているのが米Plug and Play(以下、PnP)です。DropboxやPaypalといった成功者も、このPnPから誕生しました。そのPnPが2017年11月、日本に進出します。どんなサービスが展開されるのでしょうか。
PnPは、スタートアップ企業にとってのエコシステムを形成し、イノベーションを起こす“ハブ”の機能を担うことを目的に2006年に創業しました。具体的なサービスとして、(1)投資やメンタリングを通したスタートアップのアクセラレーション、(2)スタートアップと大手企業のマッチング、(3)コワーキングスペースの提供、(4)ネットワーキングイベントの開催を提供しています(動画1)。
動画1:Plug and playの紹介ビデオ(1分30秒)
PnPを卒業したスタートアップ企業には、DropboxやPaypalのほか、音楽の検索アプリを手がけるSoundHoundやローン審査のLending Clubなどがあります。一方、彼らとのマッチングなどを期待しPnPとパートナーシップを結ぶ大手企業も170社以上に上ります。大手企業は、スタートアップと協業を始めるきっかけや、関係を深める手段として、PnPのアクセラレーションプログラムやネットワーキングイベント、個別セッションを利用しています。
アクセラレーションプログラムは、FinTechやIoT(モノのインターネット)、Food & Beverage(食品・飲料)などビジネス領域ごとに開催されています。米シリコンバレーでは2017年以降、Supply Chain、Logistics、Sustainability、Real Estateといった新領域も追加されています。
PnPは既に、シリコンバレーだけでなく、世界10カ国22都市で事業を展開しています。そして2017年8月、「Plug and Play Japan」を11カ国目、23番目の都市として東京で2017年11月に設立すると発表しました。シリコンバレーのPnPで長年、IoTのアクセラレーションプログラムと日本企業とのパートナーシップに従事してきたPhillip Vincent(フィリップ・ビンセント)氏が日本に移り、PnP Japanを牽引します(写真1)。
写真1: Plug and play Japanのトップを務める予定のPhillip Vincent氏
PnP Japan の広さは約800平方メートルを確保する予定です。シリコンバレー同様にコワーキングスペースを提供し、スタートアップ企業と大手企業、VCの活発な交流をうながしていきます。アクセラレーションプログラムとしては、Fintechと、IoT、InsureTechの3領域から始めます。2018年以降、大手企業のニーズやスタートアップ企業の注力領域、市場動向を考慮しながら複数のプログラムを追加していきます。
参加するスタートアップ企業は、日本からが半分、海外からが半分が目安です。シードステージ、つまり起業したばかりでコンセプトやビジネスモデルはあるものの実際の製品やサービスがないスタートアップ企業も対象に、まずは年間10社、2020年までに年間50社に投資するのが目標です。
パートナーとなる日本の大手企業は、富士通、三菱東京UFJ銀行、東急不動産、電通、パナソニック、SOMPOホールディングス、フジクラの7社と、参画検討中の数社を加えた10社ほどで開始される見込みです。実は日本企業は、シリコンバレーのPnPでは既に33社がパートナーシップを結んでいます。これは米国企業に次いで2番目に多い数です。
PnP Japanでも最終的には33社以上とのパートナー獲得を目標にします。将来的には、PnP Japanで成功した日本企業には、シリコンバレーでもパートナーになってもらい、さらに多くのスタートアップ企業との接点を提供したい考えです。
PnP Japanの開設が発表された日、シリコンバレーのPnP本社では「日本コミュニティイベント」も開催されました。PnPとパートナー契約を結んでいる日本企業4社の代表者が、それぞれの取り組みについて語り合いました(写真2)。モデレーターは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のシリコンバレー事務所長を務める亀山 慎之介 氏が務めました。代表者の発言の骨子を以下に紹介します。
シードステージでの出会いが魅力:三菱東京UFJ銀行
PnPでFinTechのアクセラレーションプログラムのパートナーになっているのが三菱東京UFJ銀行です。齊藤 健一 氏が率いるデジタルトランスフォーメーションディビジョンアメリカグローバルイノベーションチームは、FinTechで最先端を行く米サンフランシスコを拠点に、FinTech領域の新しい技術やサービスの動向を調査しています。そのうえで、日本やタイ、シンガポール、ヨーロッパなどにある各拠点と連携しながら、新しいビジネスを開発したり既存ビジネスを改善したりしています。
三菱東京UFJ銀行にとって、FinTech領域のスタートアップ企業は「競合ではなく協業パートナー」(齊藤氏)の位置付けです。PnPのFintechアクセラレーションプログラムに参加することで、「他社がまだ目をつけていないシードステージの企業と早期の協業を模索し、新しいビジネスにつなげたい」(同)考えです。「ハイレベルなシードステージのスタートアップを見つけられるのがPnPの強み」(同)だとしています(写真3)。
写真3:三菱東京UFJ銀行のデジタルトランスフォーメーションディビジョンアメリカグローバルイノベーションチームの齊藤 健一チーム長
顧客の共創に寄り添うことが自社共創の第1歩:富士通
富士通は、IoTのアクセラレーションプログラムのパートナーになっています。恩地 正裕 氏が率いる米国富士通研究所のリサーチチームは、SI(システムインテグレーション)ビジネスを手がける部門に属しています。顧客企業の課題解決を手がける同社は、「顧客のオープンイノベーション活動に寄り添うことが、当社自身のオープンイノベーションの第1歩になる」(恩地氏)と考えます。
その一環で、東京・蒲田に「PLY」という共創施設を開設。2016年5月の開設以降、約150のイベントを開催し、延べ2万人が利用しました。アクセラレーションプログラムも顧客の事業領域に合わせ4回主催しました。延べ150社ほどのスタートアップ企業が応募し、20社程度と協業したといいます。PnPのネットワーキングイベントで出会った企業を含む米国のスタートアップ企業、約10社が応募しています(写真4)。
企業風土を変え意思決定速度を高める:Sompoホールディングス
InsureTechのアクセラレーションプログラムのパートナーになっているのが損保ジャパンです。貝原 太郎 氏が属する「Sompo Digital Lab」は、SOMPOホールディングスのデジタルビジネス分野を担当するR&D組織として2016年4月に設置されました。東京とシリコンバレーの2拠点に40人超のメンバーがいますが、およそ半数は「役員も含め中途採用」(貝原 太郎シニアマネージャー)だそうです。
貝原氏によれば、保険業界は「規制や商習慣で固まってしまっており、顧客に対してもベストではない商品を非効率に提供している状態」。そのためSOMPOホールディングスでは、「少子高齢化や自然災害、テロや貧困問題などによって、個人の価値観や産業構造が変わってくるなかで、顧客にとって最良の保険商品を届ける」(同)こと目指します。PnPは、「企業風土を変え、意思決定のスピードを高めるために、日本のスタッフにオープンイノベーションの風を感じ取ってもらうための場所」(同)という位置付けです(写真5)。
写真5:Sompo Digital Labの貝原太郎シニアマネージャー
事業部が自ら参加する:パナソニック
パナソニックは2010年頃よりPnPとパートナー関係にあります。「Brand&Retail」「Food&Beverage」「 Travel&Hospitality」「SupplyChain」など、複数のアクセラレーションプログラムに参画しています。当初はR&DチームだけがPnPを利用していましたが今では「複数の事業部が自らPnPのアクセラレーションプログラムに参加している」(Panasonic R&D Company of Americaの近藤典弘ディレクター)といいます。
パナソニックにとってオープンイノベーションの第1歩は、「外部に目を向け、フィルタリングをかけずに聞く耳を持つこと」(近藤氏)です。PnPのアクセラレーションプログラムでは、「スタートアップだけでなく、大企業やVCなどと様々なネットワークを構築し、様々なビジネスや技術に関するアイデアが得られる」(同)といいます。プログラムに参加する他社大手は同社顧客でもあるだけに「パナソニックにとっては顧客との共創の場でもある」(同)のです(写真6)。
写真6:Panasonic R&D Company of Americaの近藤典弘ディレクター
各社がこのように利用するPnPの機能/サービスがPnP Japanとして日本に上陸します。日本でのパートナーシップなどが今後どのように進展していくのか興味は尽きません。
執筆者:鎌松 香奈子(Digital Innovation Lab)
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