スタートアップ支援の米Plug and playが日本進出(後編)、日本企業の課題を解消できるか

2017.10.03
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スタートアップ企業と大手企業のマッチングを図る米Plug and Play(以下、PnP)が2017年11月、日本に進出します(前編参照)。PnPでは2〜3年前からPnP Japanの構想を描き始めたといいます。その背景には、オープンイノベーション(共創)に向けた日本企業の課題と、日本企業がシリコンバレーで苦戦している姿があったようです。

スタートアップ企業から見た日本は課題が多い

PnPでは、スタートアップ企業との“出会い”を求める大手企業などを「パートナー」と呼びます。パートナー企業は自社や顧客企業のニーズに即したアクセラレーションプログラムに参加し、スタートアップ企業は自社の事業に関連するテーマのプログラムに応募します。パートナー企業は、応募してきたスタートアップ企業の中から実際に協業する相手を見つけ出し、具体的な新サービスやビジネスの開発に取り組むという流れです(図1)。


図1:Plug and playのアクセラレーションプログラムの流れ(PnP Japanのホームページより)

現在、PnPのパートナー数は170を超えますが、うち33社が日本企業です。PnPで日本企業とのパートナーシップを担当するKoji Ed Miyazaki氏によれば、「日本企業がPnPに期待する効果は様々」です(写真1)。シリコンバレーのスタートアップ企業を見つけたい、PnPが持つグローバルネットワークを通して米国以外のスタートアップ企業を見つけたい、優秀なスタートアップを日本へ招致したいなどです。


写真1:PnPで日本企業とのパートナーシップを担当するKoji Ed Miyazaki氏。お気に入りのピンクの靴下は、PnPのロゴが入るPnPオリジナル製品

一方でMiyazaki氏は、日本企業が海外のスタートアップ企業とビジネスを進めるには、以下のような、いくつかの課題があると指摘します。

課題1:スタートアップ企業に対する日本市場の魅力

日本に拠点を構えるベンチャーキャピタル(VC)によるスタートアップ企業への投資額は、米国のVCの投資額と比べると2%程度に過ぎません。これでは、スタートアップが日本に進出しようとは考えません。結果、日本企業と協業したり日本へ進出したりするのは、事業が軌道に乗りグローバル展開を考え始める「グロースステージ」を迎えた企業に限られます。

課題2:日本企業の意思決定におけるスピード感

シリコンバレーでは年間に何万ものスタートアップ企業が生まれては消滅していきます。それだけにオープンイノベーション(共創)で成功するには、“スピード”が最も重要な要因の1つになります。日本企業も共創に向けた組織を立ち上げ、シリコンバレーにも拠点を置いて活動を強化しています。しかし、以下のような事情から、日本企業との協業を避けるスタートアップ企業が少なくありません。

・シリコンバレーに駐在するメンバーに権限や予算がなく、日本にいるメンバーや意思決定者と連携しなければならない
・意思決定者が日本にいるため、意思決定まで至らない、あるいはスピードが失われる
・シリコンバレーのメンバーと連携しても、実際に活動する際に日本側の専任担当者(キャッチャー)がいない。いても人事異動などで担当者がひんぱんに変わる

課題3:企業発アクセラレーションプログラムの限界

2014年頃より、様々な業種の日本企業がオープンイノベーションを加速するために独自のアクセラレーションプログラムを立ち上げています。大手企業と協業できる貴重なチャンスではあるものの、残念ながら、提携できる企業が1社に限られたり、スタートアップ企業からみれば超大手でもなければ主催企業を認識できないといった問題があります。

独シュトゥットガルトでの成功例がPnP Japanの参照モデル

これらの課題を解消するためにPnPが出した結論がPnP Japanの開設なのです。しかし“ベンチャー後進国”とも言われる日本でPnP Japanは成功するのでしょうか。そうした疑問に対し、PnPの創業者であり現CEOのSaeed Amidi(サイード・アミディ)氏は、2016年に独シュトゥットガルトに開設した「Plug and Play Stuttgart」の成功例を挙げます(写真2)。

写真2:Plug and playの創業者兼CEOのSaeed Amidi氏

PnP Stuttgartは当初、独Daimler AG傘下の独メルセデス・ベンツ(以下メルセデス)だけをパートナーとして立ち上げられました。第1回のアクセラレーションプログラムには、13のスタートアップ企業が参加し、共同パイロットを15個、開発しました。結果として、スタートアップ企業の3社がそれぞれ1000万ドルの出資を受け、うち1社は仏Peugeot(プジョー)に買収されたのです。

これを受け第2回のアクセラレーションプログラムでは、メルセデスのほかに独ポルシェ、米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)など10社がパートナーとして参画。スタートアップ企業は10カ国から28社が集まり、62の共同パイロットを開発するなど、勢いを増しました。

従来の自動車開発では、アイデアが生まれてから実際の製品ができあがるまで4年がかかると言われています。これに対しメルセデスは今、新型のメルセデス・ベンツSクラスのパイロット製品を100日で、完成車を12カ月で開発できるようになっています。これがPnPによって引き起こされたイノベーションです。

PnP Japanの当初計画では、PnP Stuttgart同様、大手企業1社とのジョイントベンチャー形式による立ち上げが検討されていました。しかし、PnPが掲げる“オープンイノベーション”のマインドをより強く打ち出すために、PnPジャパンではPnP Stuttgartとは異なり、シリコンバレー本社やPnP Stuttgartの2回目のプログラム同様に、全業種からパートナーを広く募るモデルを採用することになりました。

日本にPnPがあることが意思決定速度を変える

PnP Japanの進出が、日本企業へもたらす利点は大きく2つが考えられます。1つは、日本企業の意思決定スピードを速めることです。PnP Japanがあれば、日本企業のエグゼクティブたちもスタートアップ企業と実際に会うことが容易になるからです。エグゼクティブがスタートアップ企業と面会し、彼らが持つ価値を肌で感じたり他社の成功事例を身近に感じたりできれば、彼らがオープンイノベーション(共創)にコミットすることで、意思決定のスピードは速まると期待できます。

もう1つは、より多くの日本企業がオープンイノベーションの活動に取り組めこと。シリコンバレーにオフィスを構えたり人材を送り込んだりすることは決して容易ではありません。それがPnP Japanがあれば、その敷居は低くなるからです。PnP Japanや、そこに集まる海外のスタートアップ企業などを通してグローバルな動きに触れることも可能です。

ただ、こうした利点を手にするには、「エグゼクティブの関与が重要だ」とPnP創業者のAmidi氏は強調します。PnP Stuttgartにおけるメルセデスの場合、「8人いるボードメンバー中4人がPnPとのパートナーシップに深くかかわっている。さらにCEOのDieter Zetsche(ディーター・ツェッチェ)氏は自らトラック配車サービスを手がけるブラジルのスタートアップ企業のメンターになっている」(同)ほどです。

日本でも最近、アクセラレーションプログラムやコンサルティングなどを提供する企業が増えています。PnPは、そうした企業に対しても「競合ではなく、いかに協力できるかを常に考えている」(Miyazaki氏)と言います。グローバルでの成功体験を持つPnPの日本進出で、日本のオープンイノベーションがどう変わっていくのか、東京はスタートアップにとって“フレンドリー”な都市になれるのか、2017年11月の開設以降もPnP Japanからは目が離せません。

執筆者:鎌松 香奈子(Digital Innovation Lab)

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