3泊4日でシリコンバレーを歩く(後編)、スタートアップ企業の支援施設も各地に

2017.01.26
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デジタルビジネスの最前線を見聞する目的で、わずか3泊4日の日程で訪れた米国のシリコンバレー。前編では、世界初の無人レストラン「eatsa」など、現地のスタートアップ企業などが手がける新しい店舗などを紹介しました。後編では、そうしたスタートアップ企業をサポートする企業の取り組みを、写真を交えながら報告します。

AWSのスタートアップ支援施設「AWS Popup Loft」

まず紹介するのは、米Amazon Web Service(AWS)がスタートアップ企業サポートのために運営している「AWS Popup Loft」です(写真1)。訪問した日には2階のイベントスペースで「NetApp and AWS:Embracing and Thriving in the Cloud」というイベントが開催されていました。技術的な質問にAWSの専門家が答えてくれます。

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写真1:AWSが運営するスタートアップ支援施設「AWS Popup Loft」の外観と内部

同種の施設の例に漏れず、Popup Loftでも飲み物や食べ物が用意されています(写真2)。AWSに関して何でも質問でき、テクニカルセッションが聞け、飲食もできる空間を無料で提供し、気軽に足を運べるようにしているわけです。日本のクラウドサービス事業者も、このような場を提供し、自社のサービスに触れてもらう機会を作ることが大切だと思いました。

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写真2:AWS Popup Loftでのイベントの様子。軽食やスナックが用意され自由に食べながら参加できる

デザイン思考を日々実践する「SAP Palo Alto Labs」

独SAPが運営する「Palo Alto Labs」も訪問しました(写真3)。SAPといえば、企業向けのシステムであるERP(統合基幹業務システム)ソフトウェアの老舗ですが、シリコンバレーでは最大の“外資系”企業。そしてPalo Alto Labsは、同社の新規ビジネスとなる「NEW SAP」の開発拠点です。米スタンフォード大学にイノベーションを生み出す「d.School」を設立したり、「HANAHAUS」というカフェ兼コワーキングスペースを運営したりと、いわゆるデザイン思考の先進企業として知られています。SAP社内では従業員の行動様式の基盤として、デザイン思考が深く浸透しているという話でした。オフィスの内装からも、そうした点が伺えます。

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写真3:独SAPが運営する「Palo Alto Labs」。来訪者を歓迎するサインボードにも遊び心が。日々アイデアピッチが開かれている

ちなみにデザイン思考とは“人”に焦点を当て、テクノロジーやビジネスを考える前に、まず人が何を欲しているのか(Desirability)を徹底的に考え、プロトタイプを早期に開発・試行するなどして磨き上げるメソドロジー(方法論)です。通常の事業計画や製品開発では、技術的に可能か(Feasibility)とお金になるか(Viability)だけを考えがちなのに比べ、より本質的でイノベーションにつながりやすいとされます。AppleやGoogle、Facebookも採用しています。

Labsでの議論の中で印象に残ったのは「破壊的イノベーションにはシグナルがあり、それは『おもちゃ』から始まる」ということです。SAPでもPalo Alto Labsの設立当初は、独本社のERP部隊からは「ERP以外はおもちゃだ」などと揶揄されていたといいます。ソーシャルメディアやモバイル、一部のクラウドなども当初は「企業では使えない“おもちゃ”だ」と思われていたかも知れませんが、今ではエンタープライズITに欠かせない仕組みになっています。

施設内を見学して目に付いたのが、ホワイトボードの多さです(写真4)。ホワイトボードとポストイットであふれ、廊下にもホワイトボードが並んでいました。ふんだんにあるせいか、ホワイトボードに書いたものをすぐには消さないようです。会議室の稼働率が高い日本とは逆ですね。日本ではプリントしたりスマホで撮ったりして記録に残すにせよ、会議が終わったらホワイトボードはすぐに消さなければなりません。後から前回の議論から再開というわけにはいきませんが、SAPのやり方ならアイデアを付け加えるなどもできます。

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写真4:SAPの「Palo Alto Labs」の内部。むき出しの天井は「不完全な創りの方がアイデアが生まれる」との考えから。至るところにホワイトボードが置かれ、メモとポストイットであふれている

イノベータを生み出してきた「Plug and Play Tech Center」

最後に「Plug and Play Tech Center(PnP)」を紹介しましょう。2006年に開設されたベンチャー企業のインキュベーションスペースで、ここから決済サービスのPayPalやオンラインストレージのDropboxが産まれたことでも知られています(関連記事)。各国から多くの訪問者が訪れるため、彼らに対する案内ツアーなども日常的に実施されています。日本からは、企業からの出張者に加え、種々のイベントに合わせたツアーや大学主催の学生ツアーなどによる訪問者もあるとのことです。政府機関からの訪問者も多く、イノベーションを重要視するオバマ大統領も訪れたと聞きました。今やシリコンバレーを知る上では外せない名所といった雰囲気もあります。

建物内に入ると、PayPalをはじめとするローンチしたスタートアップが多数いることが示されています。オフィス内は企業別にセクションが割り当てられ、天井近くのパネルで、どの企業なのかが分かるようになっています(写真5)。毎日、日本でいうセミナーや勉強会に相当する様々なミートアップ(Meet up)が開かれ、知見を深めたり人脈を作ったりが自然にできる環境を生みだされているのです。

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写真5:「Plug and Play Tech Center(PnP)」のエントランスには、ここから巣立ったスタータップのロゴが多数並ぶ。ミートアップが日々開かれ(右上)、オフィススペースも広い

訪問当日は独メルセデスがスポンサーになって、IoT Mobilityに関する議論をしていました。このことから推察されるように、PnPは様々なスポンサー企業の支援を受けて運営されています(写真6)。スポンサー企業にとっては、優秀な人材やスタートアップ企業をいち早くキャッチアップできるメリットがあるというエコシステムが成立しているわけです。日本企業も支援しています。

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写真6:壁に掲示されたスポンサー企業のロゴ。日本企業も少なくない

いかがだったでしょうか?前編と後編を通して紹介した企業や施設については、知識としてはある程度知っていましたが、実際に見てみれば、やはり違っていました。筆者は以前、ハッカソンで産まれたアイデアをビジネス化するための活動に関わったことがありますが、今回の訪問で、その際にユーザーから予想もしない反応が返ってきたことを思い出しました。ユーザーの生の声は“宝”です。サービスをいかに早くユーザーに見せ、フィードバックをもらいながら、ブラッシュアップしていくための仕組みが、シリコンバレーには根付いていることを痛感したのです。SAPが取り組んでいるデザイン思考は、ぜひとも日々の仕事に取り入れたいとも思いました。読者の皆さんにも、機会を作って現地を見に行くことをお勧めします。

執筆者:中村 政和(Digital Innovation Lab)

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