英ロールス・ロイスが取り組む船の自動航行、2035年には完全無人化へ

2018.01.30
リスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

ロールス・ロイスと言えば高級車が思い浮かぶかもしれませんが、高級車を作っているロールス・ロイス(正式にはロールス・ロイス・モーターカーズ)とは別に、航空機用エンジンなどを開発するロールス・ロイス(同ロールス・ロイス・ホールディングス)が存在します。そのロールス・ロイスと、日本の海運大手の商船三井が2017年12月、船舶に装着する障害物認識システムの共同開発で手を組みました。なぜロールス・ロイスなのでしょうか(トップ画像はロールス・ロイスのプレス向け資料より)。

安全確保や環境負荷の軽減などが船舶の自動航行を求める

実は、商船三井もロールス・ロイスも、船舶の安全な運航や、より効率的な運航のために、船舶の自動航行の実現に取り組んでいます。今回、商船三井がロールス・ロイスと共同開発するのは、「アドバイス型障害物認識システム(IAS:Intelligence Awareness System)」と呼ぶ仕組みです。船舶用レーダーなどのほかに、各種センサーでデータを得ることで、周囲を航行する船や障害物など検知し、操船者に的確な周辺情報をリアルタイムに提供することを目指します。

共同開発では、グループ企業の「フェリーさんふらわあ」が瀬戸内海で運航するフェリーにIASを搭載し、実証実験にも取り組みます。IAS自体は、船員を支援するための仕組みですが、航行海域の気象や航路情報などのデータと組み合わせ、AI(人工知能)を適用すれば、自動航行の基盤技術につながると期待しています。実験場所の瀬戸内海は、常に多くの船舶が航行し、世界でも有数の混雑海域になっており、様々な海域データを取得したい考えです。

船舶の航行支援システムとしては既に、航行情報と気象情報から、より最適な航路を導き出す仕組みが運用されています。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の「Sea-Navi」などです。ただ既存の仕組みの目的は、燃料消費量やCO2排出量の削減で、衝突回避などを含む自動航行ではありません。

自動運航が実現できれば、次のような下のメリットが期待できます。

●無人化により1回の航行に必要な船員(船長や乗組員、料理人など)の人件費を削減できる
●船員の居住区画が不要になり船の積載効率が高まる
●船舶全体の仕組がシンプルになり、信頼性と生産性が向上し、構築と運用コストが削減される

ロールス・ロイスでは、船舶のIoT(モノのインターネット)化を図り、船およびその周辺状態を常に把握したい考えです。各種機器や積荷の状態を遠隔地から監視し、問題が発生すれば、その原因を遠隔監視センターで分析し、即座に対応することを考えています。2020年には陸上からの遠隔操作により最小限の船員で句稿できる船舶を開発。2035年には完全に無人で航行できる船舶を開発する計画です(動画1)。

動画1:ロールス・ロイスが描く貨物船の自動航行を紹介するビデオ(2分49秒)

フィンランドの資金援助機関が約9億円を提供

ロールス・ロイスの自動航行船の開発プロジェクトは「AAWA(Advanced Autonomous Waterborne Applications Initiative)」と名付けられ、同社のほかに、大学や船舶の設計者、機器メーカーなどの有識者が参画しています。テクノロジーとイノベーションに向けた資金を援助するフィンランドの「Take」から660万ユーロ(約9億円)の資金提供も受けています。

船舶の自動航行では、周囲の状況に応じて、船舶が安全に航行し衝突を回避できるように制御できなければなりません。その実現に向けてAAWAは、次の3つを重要課題に挙げて研究開発を進めています。

重点課題1:複数センサーの融合

衝突回避には、海洋の状況を正確に把握する必要があります。そのためには1つのセンサーだけでなく、複数種のセンサーで得た情報を組み合わせて分析しなければなりません。また、衝突を回避するための針路を決めるには、センサーで得られる情報が正確であることが前提です。

この点についてAAWAは、自動車の自動運転向けに開発されているテクノロジーが、船舶にも適用できると考えています。自動車の自動運転と船舶の自動航行をナビゲートするシステムの構成は、ほぼ同じですし、個々の要素技術はすでに存在しているからです。むしろ、より大型な船舶の実運航が求める性能と信頼性を合理的なコストで実現するためのテクノロジーの選択や組み合わせ方が重要だとしています。

重点課題2:制御アルゴリズム

ロールス・ロイスが目指す自動航行は、陸上からの遠隔操作と自動航行を組み合わせたハイブリッド型を想定しています。多数の船舶が航行する湾内はオペレーターが遠隔操作し、外洋に出ると自動航行に切替える形です。外洋でも周囲の状況によっては、遠隔操作に切り替えられることが必要だとしています。

外洋では、航路を複数の区間に区切り、その区間ごとに自動か遠隔操作かをきめていきます。基本的な考え方は、最新情報から導き出した針路が、計画からどれだけ外れているかで判断するもので、許容範囲を超えている度合いからオペレーターの関与度を決定します(動画2)。

動画2:自動航行船を対象にした遠隔操作センターを紹介するビデオ(分秒)

重点課題3:ネットワークの接続性

自動航行とオペレーターによる遠隔制御を組み合わせるためには、船舶とコントロールルームが常にネットワークでつながっていなければなりません。外洋では、陸上のカバーが中心の通信網は利用できません。そのため、衛星通信を利用することになりますが、衛星通信は気象状況に左右されやすい通信方式です。

そのためロールス・ロイスでは、やり取りする画像を加工し通信量を減らしたり、複数の船舶が集まっている場合は、リーダーとなる船舶にのみ通信し、他の船舶とは、船舶同士が通信して情報を共有する仕組みなどを検討しています。

自動航行の船舶は海洋情報を把握するセンサーにも

自動運転と言えば、乗用車やトラックが思い浮かびます(関連記事『トヨタが考える自動運転のあるべき姿』『ここまで進んでいるトラックの自動運転技術』)。ですが、ロールス・ロイスの取り組みにあるように、船舶においてもかなりの技術開発が進んでいます。課題はありますが、実用化も、そう遠い先のことではなさそうです。

船舶の自動航行が実現すれば、上述したように、航行の安全性やコスト削減などが期待できます。さらに、IoT化が進んだ船舶により、これまでデータが不十分だった外洋の情報が得られるようになります。運航状況からは、荷物のトレーサビリティが改善し流通ビジネスにおけるサービスの拡大が考えられる。また、これまで現場に出向かなければ分からなかった海洋資源や外洋の生態系といった情報の収集によって、新たなイノベーションにつながるかもしれません。

執筆者:西田 祐規(Digital Innovation Lab)、志度 昌宏(DIGITAL X)

EVENTイベント