ECの売上高は3年で2倍以上、スマホアプリを重視するアダストリアのオムニチャネル戦略

2018.05.24
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製造型小売業(SPA)のアダストリアという会社をご存じでしょうか。国内に約1400店舗、中国や韓国、台湾、アメリカにも約100店舗を有するファッション業界大手です。社名があまり知られていないのは、ブランド展開をしているから。ネットビジネスにも注力し、ここ3年でネット事業の売上高を2倍以上に伸ばしました。店舗とネットを組み合わせることをオムニチャネル戦略などと呼びますが、アダストリアはどんな戦略を採っているのでしょうか。

SPAの強みを23のマルチブランドで顧客に届ける

アダストリアは、カジュアル衣料や生活雑貨を中心としたファッションブランドを掲げ、ショッピングモールやファッションビルなどに店舗を出しています。ブランド数は20種を超えます。20〜30歳代の男女と2〜6歳の子どもを対象とした「GLOBAL WORK」、25〜35歳の男女を対象とした「niko and…」、20〜30歳代の女性に向けてファッションとカルチャーを発信する「LOWRYS FARM」など。これらのブランドであれば、どこかで見かけたことがあるかもしれません。

同社の2018年2月期の売上高は2227億円。最近はネットビジネスにも注力し、さらなる規模の拡大を図っています。そんな同社のオムニチャネル戦略について、WEB営業部部長の田中 順一 氏が解説しました(写真1)。「イーコマースフェア2018」(主催:UBMジャパン)での講演がそれです。同氏の講演内容から、アダストリアがオムニチャネル戦略において重視している点を紹介します。


写真1:アダストリアのオムニチャネル戦略を解説するWEB営業部部長の田中 順一 氏

田中氏によれば、オムニチャネル戦略の前提となるアダストリアの強みの1つは、20を超えるマルチブランドです。これらのブランドは、年齢層やテイスト、価格帯が異なるほか、服飾雑貨やアパレル、生活雑貨など商品カテゴリーも多岐に渡っています(図1)。これにより、「多様な顧客ニーズに対応できる。出店場所や店舗の面積も、市場の変化に合わせて柔軟に対応できる」(田中氏)というわけです。


図1:アダストリアのマルチブランド戦略の概念(同社の会社紹介リーフレットより)

もう1つの強みが製造型小売業(SPA)であることです。田中氏は、「企画から生産、物流、実店舗とオンラインでの販売まで一気通貫で商品を顧客に届けられる。これがオリジナリテイとスピードにつながっている」と説明します。

ECの売上高は3年で2倍以上に

そんなアダストリアが近年、注力しているのがネットビジネスです。2018年2月期のネットビジネスの売上高は333億円で、3年前の2倍以上に伸びました。全売上高に占める割合も16.6%に達しています(図2)。


図2:アダストリアのネットビジネスの推移(同社2018年2018年2月期決算説明会資料より)

同社のネットビジネスは、自社サイト「[.st](ドットエスティ)」での展開と、「ZOZOTOWN」などの大手オンラインモールを使った展開とがあり、それぞれで戦略が異なります。自社サイトでは、「会員を育成し、ロイヤルカスタマーに育てるための戦略が中心」(田中氏)なのに対し、オンラインモールは「その集客力を生かし、新規顧客の獲得や、ブランドの認知・体験、在庫消化のための戦略が中心」(同)です。

自社サイト[.st]の年間PV(ページ閲覧)数は2017年末時点で15億件、年間の訪問者(UU:ユニークユーザー)数は約4000万人でした。登録会員数は2013年の100万人が、2017年12月に600万人を、2018年2月には約700万にまで増えています。ほとんどは女性ですが、マルチブランド展開により、年齢層は20代〜40代まで「いずれかに偏ることなく、バランスが取れている」(田中氏)と言います。

ユーザープロファイルの中で特に大切にしているのが、「実店舗とサイトの両方を使っている顧客だ」と田中氏は説明します。ここに相当する顧客が、「2017年度の売上高の40%を占めている」(同)からです。実店舗とサイトの両方を利用する顧客は「年間の購入回数が圧倒的に多く、その割合はさらに増える」と田中氏は見ています。

実は、この実店舗とサイトの両方を利用する顧客を優良顧客として育てることこそが、アダストリアのオムニチャネル戦略なのです(図3)。集客力がある実店舗で新規顧客を獲得し、商品を実際に体験してもらったうえで、利便性の高い自社サイト[.st]を利用してもらうというシナリオです。


図3:アダストリアのネットビジネスの重点施策(同社2018年2018年2月期決算説明会資料より)

実店舗とEC両方を利用する顧客を増やすための施策

実店舗と自社サイトの両方を利用してくれる顧客を増やすためには、会員数だけではなく、購入回数を増やすことが重要になります。会員数を増やすための施策としてアダストリアでは、実店舗とサイトの会員IDを連携させています。

もちろんID連携だけでは会員数は増えません。「いかに簡単に会員登録してもらえる仕組みを作る必要がある」と田中氏は強調します。具体的には、仮登録の仕組みを用意し、実店舗のスタッフが商品の購入客に会員登録を進めるようにしました。会員数獲得をKPI(重要成果判断指標)に置くブランドもあるなど「全社を挙げて顧客の会員化に努めている」(田中氏)のです。

そのうえで、会員特典や会員証の使い勝手を良くするために、スマートフォン用アプリケーションに注力するようになりました。自社サイトへのアクセスの「90%以上がスマホによるアクセス」(田中氏)ということもありますが、「スマホアプリをオムニチャネルのハブにする」(同)という戦略があるからです。延べダウンロード数は220万に達しています。

スマホアプリを提供する最大のメリットを田中氏は、「ログイン状態が持続すること」だと説明します。ブラウザでは「ログインするという手間がかかり、顧客1人ひとりに向けたパーソナライズ化も難しくなる」(同)と言います。同社では、会員のランクに応じてスマホアプリのデザインや色まで変えています。「デザインを変えることで、より良い接客につなげられる」と田中氏は強調します。

ほかにも、優良顧客に対しては、マルチブランドのうち、いつも購入するブランドだけを表示する「フォロー機能」を提供したり、購入した商品に紐付けたスタイリング例を表示したりする機能も搭載しています。「さまざまな仕掛けをスマホアプリに採り入れることで、『ブラウザはマス、アプリは顧客1人ひとりの世界を作るためのハブ』にしたい」と田中氏は意気込みを語ります。

内製化で“当たり前”をしっかりと速くやる

プラスアルファの取り組みとして、「当たり前だと言われることに、しっかり取り組んだ」と田中氏は言います。その1つが、生地の透け感や伸縮性といった商品の詳細情報の充実。掲載する写真点数も増やしたほか、最近は動画も導入しています。

さらに、スタッフが商品を実際に着用しているスタイリング写真を、その商品に紐付けて掲載したり、ログイン状態になるとサイズを比較できる機能や商品レビューを検索できる機能を追加したりもしています。同社サイトには年間200万件のレビューが書き込まれますが、「自分の体型に近い人のレビューを見る傾向がある」(田中氏)と言います。田中氏は、「顧客が求める機能を作り込むことが、ネットで商品を見て実店舗を訪れるという行動を生む」と強調します。

これらの取り組みにおいては、特にスピードにこだわる部分は内製化を進めています。その一環として、商品の撮影スタジオを自社で設けました。自社サイトに掲載する商品の画像はすべて、自前のスタジオで撮影しています。各ブランドの特色を強調し、差別化を図るのが目的ですが、「商品画像のクオリティも掲載スピードも大幅に上がった」と、田中氏は語ります。

今後は、各種のデータ分析にも取り組んで行くほか、[.st]を「他社ブランドの商品も扱うモールへと発展させていきたい」と田中氏は明かします。そこでは「どんな価値を顧客に提供できるのかについて、チャンスとロマンを感じる」(同)とも言います。[.st]の進化を含め、アダストリアのオムニチャネル戦略がどう変わっていくのかに注目したいところです。

執筆者:中村 仁美(ITジャーナリスト)

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