AIでなくなるのは「仕事」ではなく「タスク」、あなたの毎日がワクワクになる!?

2016.10.20
リスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

AI(人工知能)のビジネス活用への期待が高まる一方で、今後のAI技術の進展によって多くの仕事がなくなるとの見方も強まっています。「10年後になくなる仕事」「AIに奪われる仕事」といった記事を目にした方も少なくないことでしょう。しかし、本当に私たちの仕事がAIに置き換わっていくのでしょうか。そうした中、コンサルティング会社の米マッキンゼーアンドカンパニーが異なる見方からなる記事を発表しました。同記事では、AIが置き換えるのは「タスク」だとしています。同レポートを紹介しながら、私たちの仕事とAIとの関係を改めて考えてみましょう。

既に機械に置き換わりつつある職業も

「10年後になくなる仕事」「AIに奪われる仕事」といった記事のベースになっているのは、英オックスフォード大学の准教授であるオズボーン氏が2013年に発表した論文です。米国の職業701種を対象に、AIやロボットなど将来、それらの職業を代替できる技術の可能性を分析した研究です。そこから「なくなる仕事ランキング」などが作られました。みなさんも、ランキングにご自身の職業が入っていないか、不安に思いながらも見入ったのではないでしょうか。

オズボーン氏の論文に挙がっている「なくなる仕事」の上位には、小売店販売員、会計士、一番事務員、セールス担当者、一般秘書、飲食カウンター接客係、商店レジ打ち係や切符販売員などが並びます。既に、レジ係や切符販売員などは、セルフサービス型のPOSレジや、切符の自販機あるいはICカード対応の改札ゲートなどによって、AIとは関係なく担当者数が減ってきています。AIがなくても、こうなのですから、クイズ王やプロ棋士チャンピオンなどにも勝利するAIが登場した今となっては、私たちの仕事が消えても不思議ではないと思えてきます。

そうした中で、コンサルティング会社の米マッキンゼーアンドカンパニーが自身のWebサイトで公開したのが『Where machines could replace humans—and where they can’t (yet):機械は人のどこを置換できるのか、そして(まだ)どこができないのか』と題する記事です。この記事の特徴は、置き換えられる対象として、職業単位ではなく、日常業務で行っている「タスク(小さな仕事の単位)」に着目した点。米国の労働省が持つデータベース「O*NET」と労働統計局が持つデータから、800以上の職業における2000種類のタスクについて、現時点で提示されている技術を使って、どれだけ自動化が図れるかを定量化しています。最終的な結果は2017年に発表される予定です。

自動化しやすいタスクの割合は業種によって異なる

分析では、タスクは大きく(1)人のマネジメント、(2)専門的な知識の適用、(3)ステークホルダーとのやり取り、(4)予測不能な肉体作業、(5)データ収集、(6)データ処理、(7)予測できる肉体作業の7つに分類されています。自動化できる割合の全体平均としては、(1)人のマネジメントの9%から(7)予測できる作業の78%まで、(1)から(7)の順に自動化が容易という結果になっています。繰り返し実施するルール化や定型化が容易なタスクほど自動化が進むという“当然な”結果でしょう。

ただ今回の記事では、これらのタスクが占める割合は、業種によって大きく異なることを示しています(図1)。

task_1
図1:が発表したAIが置き換えるタスクのインフォグラフィクス(出所:『Where machines could replace humans—and where they can’t (yet)』、米マッキンゼーアンドカンパニー)

例えば、自動化しやすい「予測できる肉体作業」は、宿泊/飲食業では全体の半数に迫りますが、金融/保険では、ほんの数%に過ぎません。逆に自動化が難しい「人のマネジメント」にしても、多くの業種では10%未満ですが、教育サービスでは20%を超えています。つまり、いずれの業種においても、その仕事がなくなってしまうというのではなく、自動化が容易なタスクからAIやロボットに置き換えられていきながら、新たな業務プロセスが構成されるということでしょう。

日常の暮らしは様々なタスクから成り立っている

マッキンゼーの論文は仕事を対象にしたものですが、この考え方は私たちの日々の生活にも当てはまるのではないでしょうか。それを確かめるために筆者の1人である奥出の1日を例に、どんなタスクが発生しているのかを書き出してみたのが図2です。

task_2
図2:奥出のある1日から書き出した日常生活を構成しているタスク

奥出は、共働きで3人の子供を育てています。その毎日は、起床後のゴミ出しや朝食の準備、お弁当作り、子供の送り向かえ、夕食の支度、入浴などと続き、すべてのタスクを挙げようとすれば切りがありません。個人差はあるでしょうが、日常生活のタスクは、3大家事と呼ばれる「掃除」「洗濯」「料理」を中心に、「子供の世話」や「買い物」などから構成されていると言えそうです。

これらのタスクにみれば、既にタスクの一部はAIの普及を待たずして、機械によって置き換えられていることが分かります。洗濯に洗濯機を使うのは当然ですし、皿洗いのための食洗機や、掃除のための「ルンバ」といったロボット掃除機も特段に珍しい機械ではなくなってきています。さらには、洗濯物を畳んで収納までこなす全自動洗濯機の「Landroid」(開発は日本のセブン・ドリーマーズ・ラボラトリー)や調理を全自動化する「MoleyRobotics」(同、英Moley Robotics)といったAIを搭載する機械の市販計画も進んでいます(動画1、動画2)。これらの仕組みが普及すれば、私は家族と過ごしたり考え事をしたりする時間を増やせることになります。

動画1:洗濯物を洗って畳み収納までこなす「Landroid」の予告広告

動画2:調理を全自動でこなす「MoleyRobotics」の予告広告

仕事の中身をタスクに切り分けることが重要に

産業構造審議会が2016年4月に公開した『新産業構造ビジョン中間整理』では、2020~2030年のGDPはAIや機械・ソフトウェアと共存するかしないかで222兆円の差が生じると試算しています。AIやロボットなどに置き換えられるタスクをどんどん切り出し、人間は、より知的な労働やクリエイティブな作業に注力することが、次の成長につながるということでしょう。

日常生活を対象にしたタスクの例では、私たちのタスクを置き換えられる技術が発展することは、私たちの生活を“ワクワク”感のあるものに変えていく可能性が高いことが分かります。家事全般や子育てに関わる部分は、まだまだ家事代行サービスや保育サービスなど実際の人に依頼せざるを得ません。ですが、そうしたサービスを提供する人たちも、各種の機械や技術を利用することで、よりスムーズに、より負荷を抑えながら、高水準のサービスを提供できるようになるでしょう。

こう考えれば、ビジネスの現場でも同様のことが起こると期待できます。ただそのためには、仕事のどこをAIなどに任せられるのか。日々、何気なくこなしている業務を含め、タスク単位に切り出し整理することが、まずは必要だと言えます。こうした整理を徹底していないことが「仕事がなくなる」といった見方を醸成していると言えそうです。

執筆者:奥出 慎太郎(Digital Innovation Lab)、高橋ちさ(ジャーナリスト)

EVENTイベント