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サッカー少年が始めたシェアリングエコノミー、駐車場シェアサービス「akippa」ができるまで

2016.11.01

未契約の月極駐車場や利用していない個人宅の駐車場などを15分単位で貸し借りできるシェアリングサービス「akippa」。日本全国に7000カ所以上の駐車場所が登録されており、駐車場シェアリングでは最大手です。2016年9月には、住友商事とも提携し、企業ニーズに応えるための取り組みも始めました。akippaを2014年に創業した金谷 元気 代表取締役社長は高校卒業後もプロのサッカー選手を目指していたと言います。その金谷社長がなぜ、akippaのサービスにたどり着いたのでしょうか。金谷社長の講演から、その経緯を探ってみましょう。

キャッシュレスで駐車場の貸し借りを可能に

金谷社長がakippaのサービスを開始したのは2014年4月のことです。サービスを開発するための調査で、駐車スペースについて、いくつもの課題が見えていたと言います。例えば、警視庁の発表によれば、東京23区と多摩地区だけで毎秒6万3000台の車が路上駐車されていました。一方で月極駐車場は約3000万台分が余っていたというのです。そこで、3000万台の空き駐車場と一時的に駐車したい人をスマートフォンでつなごうとしたのがakippaです(動画)。

動画:「akippa」のサービスを紹介するアニメーション

akippaで貸し出す駐車場には、コインパーキングのような機械は一切なく、精算機の代わりに三角コーンが置かれるだけ。設備投資が全く不要で、初期費用がかからないのも特徴の1つです。ビジネスモデルとしては、駐車場を利用するドライバーから、例えば1日1000円の駐車料金を徴収し、その60〜70%を駐車場のオーナーに渡します。akippaの収入は400円になりますが、決済手数料などはakippaが負担しています。

このモデルの駐車場オーナーにとってのメリットは、第1に遊休地を簡単に活用できることです。次にオーナーが直接お金のやり取りをする必要がないこと。そして“稼げる”という点です。個人宅の駐車場を貸し出し月5万円の収益を上げているオーナーもいます。

利用者のメリットは、第1は駐車場を30日前から当日まで予約できることです。駐車場探しは結構面倒ですが、akippaを使えばガソリンを無駄にしないだけでなく、奥さんや恋人を怒らせて無駄な出費をすることもなくなります。第2は利用料の安さです。だいたいコインパーキングの3割~半額くらいで利用できます。第3は出入りが自由でオーナーや管理者などと会うこともありません。これは案外大きなメリットです。最後に、やはりキャッシュレスな点です。コインパーキングでは、駐車券をなくしたり小銭がなかったりすると面倒ですが、そのようなことも一切ありません。

「シェアリングエコノミー」など知らなかった

akippaは創業時、DeNAやグロービス、トリドール、朝日放送、三菱UFJキャピタルなどから総額12億1446万8576円の資金調達を実施したほか、2014年12月にはベンチャーキャピタルのインフィニティ・ベンチャーズが実施したプレゼンイベント「IVS 2014 Fall Launch Pad」で優勝しています。しかし、金谷社長は、「シェアリングサービスがしたくて作ったサービスではない」と明かします(写真1)。

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写真1:「akippa」を2014年に創業した金谷 元気 代表取締役社長

2009年には営業活動を主体とした会社を起こしていた金谷社長ですが、当時はAirbnbなどのサービスも「シェアリングエコノミー」という言葉も知らない状態でした。あるイベントでakippaのサービスを発表した際に、ベンチャー企業トップから「Airbnbって知ってる?」と聞かれたものの「すみません、知らないです」というほどで、そこで初めて知ったといいます。

ただakippaには、他のシェアリングサービスとは異なる点があります。先にもメリットとして挙げた「人と会わない」点です。そのため、サービス開始当初は、利用者によるレビュー機能も用意していませんでした。ただ、「駐車のしやすさ」といったレビューは、人と会わなくても実際に利用すれば分かるので、2016年7月からはレビュー機能を提供しています。

もう1つの違いは、承認がなく直ぐに使えること。AirbnbでもUberでもシェアリングサービスでは一般に、ホスト側とユーザー側の承認プロセスがあります。信頼性を担保するためなのでしょうが、akippaでは予約時に利用者の支払情報を取得することで承認プロセスを省いています。何らかの事故を起こした利用者が、そのまま逃げてしまといったことが考えられますが、そうしたトラブルは1度も発生していませんし、もし利用者が逃げてしまった場合はakippaが保証することになっています。

サッカー選手を目指すも起業に見せられ“きっぱり”と引退

金谷社長は1984年に大阪で生まれ大阪で育ちました。プロのサッカー選手を目指し、高校卒業後は地域リーグやJリーグの練習生としてプレーしていました。ただ、それだけでは食べていけず、少年サッカーを教えながら、イベント時に傘やジュースを売ったりしていました。同級生が大学を卒業するころまでにはプロとしての契約を結ぶことを目標にしていましたが、それが果たせずサッカーからは“きっぱり”と引退しました。

きっぱりと引退できた理由は、起業に魅せられていたからです。そこからは、まずは社会のことを知るために「雇って下さい」と言って飛び込んだ会社に入社します。ただ「マネージャーになったら起業しよう」と決めていたといい、2009年1月に退職し、同年2月に資本金5万円で起業します。2009年からの5年間は、携帯電話の代理店をしたり、求人サイトの営業をしたりしていました。営業ばかりしていたためクレームも多かったそうです。

そんな中で副社長から「自分たちはこのままでいいのか」「どこを目指しているのか」と尋ねられたものの、社長として答えられません。金谷社長はそれまで「売り上げが上がっていれば良いだろう」という考えできましたが、それ以後は「何のために仕事をやっているのか」を常に考えるように変わりました。

“なくてはならぬ”とは世の中の課題を解決すること

そしてある時、停電になり「電気がないのは大変なことだ」と気付いたのを契機に、電気のようなサービスを作りたいと考え始め、「“なくてはならぬ”をつくる」という経営理念を2013年5月に初めて掲げます。それまであった経営理念のような言葉は「ただのきれいごと」のようなものだったそうですが、「“なくてはならぬ”をつくる」ことは、心から自分たちがしたいと初めて思える理念でした(図1)。

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図1:「“なくてはならぬ”サービスを提供しています」とうたうakippaの事業紹介のページ

「“なくてはならぬ”もの」とは、世の中が困っていることを解決するものです。そこで社員とアルバイトの30人で、不便に思うこと200個を挙げようと壁に貼った模造紙に記入していきました。すると、ある女性社員が「駐車場って現地に行って初めて満車と分かるから不便。満車と知っていたら電車で行っていたのに」という愚痴のようなことを書いたのです。それを見た全員が「そういえば月極駐車場とか個人宅の駐車場はよく空いてるよね。そこに勝手に停めたくなる時もある」と言い出します。金谷社長自身、駐車場探しに苦労したことがあり、皆の気持ちが良く分かりました。これがakippa誕生の瞬間です。

これからのakippaは、新しい市場を作り出すとともに、マインドシェアの獲得を目指します。新市場としては例えば、子どもを連れてJリーグの試合を見に行く時、従来は電車で行っていた家族が、駐車場を事前に予約して車で観戦に出掛けるなどが考えられます。一方のマインドシェアとは「駐車場探しと言えばakippa」というくらいにサービスのブランドを高めたいということです。

駐車場業界では25年前、パーキングロックという仕組みによってコインパーキングというビジネスが生まれイノベーションが起きました。akippaは、パーキングロックをスマホに置き換えることで新たなイノベーションを起こしているのです。

※本稿は、早稲田大学IT戦略研究所と富士通総研が主催している「 シ ェ ア リ ン グ ・ ビ ジ ネ ス 研 究 会 」(2016年3月8日)における講演を富士通総研が編集し、『ER第3号』(富士通総研 経済研究所、2016年9月)に『“なくてはならぬ”をつくる、空間の利活用とイノベーション』と題して掲載した論文を元に再構成したものです。

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