中国アリババの”ニューリテール戦略”は小売業界をどう変えていくのか?!

2018.08.28
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2016年に「ニューリテール」戦略を発表した中国・アリババ(関連記事『Eコマースが消える、中国アリババのマー会長が予測する5つの新産業とは』)。それから1年半が経過した今、中国では、さまざまな新ビジネス/新サービスが続々と誕生しています。アリババは今、小売業界に何を仕掛けようとしているのでしょうか。

アリババの小売業における取り組みについて、アリババクラウドのジャパンゼネラルマネージャーであるユニーク・ソング氏が語りました。千葉・幕張で2018年6月に開かれた「Interop Tokyo 2018」での講演です。同氏の講演から、アリババが考える小売業の“これから”を紹介します。


写真1:アリババの小売業における取り組みについて語るアリババクラウドのジャパンゼネラルマネージャーであるユニーク・ソング氏

テクノロジーでオンラインとオフラインを拡大させる

ソング氏によれば、アリババが考える「ニューリテール」の定義は以下になります。

「オンラインとオフラインを上手く連携し、それぞれの小売りビジネスをさらに成長させるための施策である。オンラインでの小売りの弱点は『「手に触れられない、感じられないなど、顧客体験(UX:ユーザーエクスペリエンス)に限界があること。そのオンラインの売り場をテクノロジーで拡大し、オフラインの売り場にも適用することで、オンラインとオフラインの“両輪”を成長させる」

そのうでニューリテール実現に向けた課題として、ソング氏は「コスト」を挙げます。「オンラインでのユーザー獲得コストは増加傾向にある。製品に触れられないことから返品のコストも増えている。いっぽうのオフラインでは、十分な在庫を確保したり、最低限の人員を店舗に配置したりしなければならない。いずれにおいても、コストがビジネスの効率を低下させる」(同)からです。

ソング氏は、「テクノロジーをつかって変革を起こし、小売り事業者も顧客も“Win-Win”の関係を築けるようにする。コストを下げつつも顧客の“買い物体験”を向上させたい」と強調します。

タオバオやアリペイなど各種サービスの連携を進める

では現状、アリババのニューリテール戦略は、どの程度まで進んでいるのでしょうか。世界最大とも言われるアリババのECサイト「タオバオ(淘宝網)」は、オンラインでの取引データを大量に蓄積しています。しかしオフラインの販売では、「各店舗で、商品がどれだけ売れるかの予測が難しく、在庫や物流が常に課題になっている」(ソング氏)のが、これまでです。

アリババは、オンラインの取引データから、どの商品が、どこで多く売れているかを把握できています。そこで、アリババが持つ物流システムと連携し、実店舗での品揃えをオンラインでの売れ筋中心に見直せるようにしました。「顧客がオンラインで購入する前に、家やオフィスに近い店舗で商品を実体験できるようにすることで、店舗と消費者が“Win-Win”の関係に近づける」(ソング氏)という考え方です。

タオバオをはじめ、各種ネットショップで利用される世界最大の第三者決済システム「Alipay(アリペイ)」もアリババのサービスです。最近では、実店舗に設置した画像認識が可能なカメラシステムと連携させた無人店舗などにも挑戦しています。

ソング氏は、「カメラ画像の認識により、システムが商品を確認でき、決済金額も分かる。従来は商品1つひとつにRFIDタグ(ICタグ)を付けるしかなかったが、それも不要だ。RFIDは事業者にとって運用上の負担が大きい」と説明します。

アリババクラウドをビッグデータ活用の基盤に

これらの仕組みを支えるのが、アリババのクラウドサービス「アリババクラウド」です(関連記事『中国でシェア5割を超える「Alibaba Cloud」の実像』)。アリババクラウドでは「小売り事業者の顧客データに触れることなく、メソッドとテクノロジーだけを提供することで、顧客データを保護している」と、ソング氏は強調します。

セキュリティについては、「アリババクラウドは世界中の様々なセキュリティ認証を受けている。2018年5月に始動したGDPR(EU一般データ保護規則)に対しても2年半前から準備を進めてきた」と、ソング氏はソ説明します。

そのうえでアリババクラウドは、同サービスを利用する企業にとっての「ビジネスハブ(業務中枢)としてき機能する」(ソング氏)とも言います。ここでいうビジネスハブとは、「グループ全体のデータを統合し“ビッグデータ”としての意味を創出し、全体俯瞰を可能にする共通基盤」(同)のことです。

たとえば、物流業務の要件はビジネスごとに異なっており、購買プロセスに併せると個別最適化が進み全体概要をつかめなくなります。そこを、ビジネスユニットごとと購買・物流の共通点をできるだけまとめて、ビジネスハブを作れば、「気候や休日、交通などの情報までが一カ所に集まり、企業はグローバルにビジネスの全体像を把握できる。オンライン/オフラインにかかわらず共通のインタラクション(相互作用)を提供できる」(ソング氏)と説明します。

すでにあるテクノロジーでも実店舗は変えられる

ただしソング氏はビッグデータ活用について、「データからお金を得るのではない。利用者の経験を向上させ、満足度を高めることが大切だ」と指摘します。

その例として、東京・銀座にある日本企業の店舗の在庫を挙げます。ソング氏は銀座の店舗について、「多くの中国人観光客が買い物にいくが、プロのバイヤーは訪れない。どこも在庫切れを起こしているからだ」と言います。

ところが精査してみると、銀座の店舗には在庫がないものの、同チェーンの他店舗には在庫があるケースが少なくないのだそうです。これは「チェーン店側の在庫管理が不十分なことに加え、日本語の分からない中国人にとっての買い物情報は“口コミ”に依存しているからだ」とソング氏は説明します。

「口コミしか情報がない観光客は、買物先も一カ所に集中してしまう。企業側は、実店舗の在庫状況を一元管理したいうえで、物流をダイナミックに変更し、観光客が集中して訪れる店舗に適切な商品を配置できるようにならなければならない。それはテクノロジーの組み合わせで可能になる」(ソング氏)というのです。

ドン・キホーテやマツモトキヨシといった取扱商品数が多いチェーン店についてもソング氏は、「特定の商品を求めている中国人は、忙しく人数も少ない日本人店員に質問もできずフラストレーションを抱えている」と指摘します。

そのフラストレーションも、スマートスピーカー「Tモールジーニー(Tmall Genie)」があれば解消できるとします。「ジーニーに聞けば陳列場所を答えられるだけでなく、データが取得できる。顧客のプライバシーを守りつつ行動を把握できるようになる」(ソング氏)からです。

データは血液、AIが頭脳に

データについてソング氏は、「データは血液のようなもの。目や鼻、手や耳、臓器などが血液を必要とするように、ビジネスのさまざま要素がデータを必要としている」と強調します。そして「人間の脳に当たる機能も、『ET Brain』として実現した」(同)と、アリババクラウドの強みを訴えます(関連記事『業種別展開図る中国アリババのAIプラットフォーム』)。

ここでお分かりのように、アリババの“ニューリテール”は自身のビジネスでの取り組みだけでなく、多くの小売業を巻き込んでいく戦略でもあります。ソング氏は「アリババを“ベンダー”だとは見ないでほしい。みなさんと一緒になりビジネスを革新したいと考えている。すべての顧客の経験をより良いものにしたい」と訴えました。

逆にソング氏は、「みなさんの事業が生み出したものや、事業ニーズはみなさん自身が知っている。アリババクラウドは、ビジネスハブの設計やデータ統合など企業のデータ活用をサポートする」と言います。すなわち、個々の小売業が“ニューリテール”に踏み出すためには、自らの事業や、そのニーズを本当に把握できているかが問われていると言えそうです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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