Eコマースが消える、中国アリババのマー会長が予測する5つの新産業とは

2016.11.15
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Eコマース(EC:Electronic Commerce)といえば米Amazon.comが有名ですが、同社を上回る企業規模を誇るのが中国のAlibaba(アリババ、阿里巴巴)グループです。ところが同社を率いるジャック・マー(馬 雲)会長は「Eコマースという言葉は早々に消える」と発言しています。一体どういう意味なのでしょうか。

Alibabaは現在、B2B(企業間)、B2C(企業対個人)、C2C(個人間)のあらゆる取引形態を対象にしたEコマースサイトのほか、決済プラットフォームやクラウドコンピューティングサービスを運営しています。その規模は、世界190カ国に、企業会員数が約8000万、B2Cの個人会員は中国だけで約6億人に上るといいます。同社自身、中国全土およびインド、韓国、イギリス、アメリカの70を超える拠点に2万4000人以上の社員を抱えています。日本のアリババはソフトバンクグループに属します。

この巨大グループを率いるのが、創設者であり現会長のジャック・マー氏。同氏が今、何を考えているのかには、Eコマース事業者でなくても関心があるところでしょう。Alibabaは毎年、本社がある杭州で年次カンファレンスを開いています。2016年は10月中旬に「The Computing Conference 2016」を開催し、4日間に4万人超が参加しました。そこでの基調講演から、ジャック・マー氏が考える「30年後の未来像」を紹介しましょう(講演の動画はこちら)。

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写真:「The Computing Conference 2016」のホームページの例

Eコマースは未来への“渡し船”に過ぎない

マー氏は「これからの30年は、人類社会にとって、その変化が想像も付かない30年になる」としたうえで、「『Eコマース』という言葉はすぐになくなる」と言い放ちました。Alibabaの業務の中心がEコマースであるにもかかわらずです。マー氏は「Alibabaでは2017年から『eコマース』という言葉は使わない」とも話します。

Eコマースに代わって、台頭するのが「5つの“新産業”」(マー氏)です。例えば小売業はこれまで、インターネットやEコマースによって大きな打撃を受けてきました。マー氏によれば、これは「彼らが新しいテクノロジーやビッグデータの把握と適用ができなかった結果」です。しかし、テクノロジーが企業や社会にもたらす“破壊力”に気づいた今となっては「Eコマースはあくまでも“渡し船”に過ぎない。これからの10年、20年には(テクノロジーを前提にした)新産業しか成り立たない」(マー氏)というわけです。

マー氏が挙げた5つの新産業とは、「新流通(リテール)」「新製造」「新金融」「新エネルギー」そして「新テクノロジー」。これら5産業が他業界にも大きな影響を及ぼし、それぞれのビジネスの勝敗の鍵を握るとします。それぞれ、どんな産業像をイメージしているのか順に見ていきましょう。

新流通(リテール)への変革

これからの10年、20年では「Eコマースという表現は消え、『新流通』としか表現できなくなる」(マー氏)と言います。その理由は、「既存のオフラインの企業(実店舗を展開する企業:筆者注)が必ずオンラインの領域へ踏み込み、逆にオンラインの企業は必ずオフラインの領域に参入する」からです。この新流通は、オフラインとオンライン、さらに物流機能までも結合して初めて実現するとします。そこでの物流の本質についてマー氏は、「より速く配送することではなく、在庫をなくすことだ」と指摘しています。

新流通におけるコンテンツについて、Alibabaのモバイル担当シニアディレクターである庄卓然(Zhuoran Zhuang)氏は、「必ず2D(次元)から3Dへシフトする」と話しています。AlibabaのECサイトである「Taobao」)を例にとれば、コンテンツは、テキスト中心から画像中心になり、現在は動画が中心になっています。今後は、3Dのほか、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)を有望視しています。既にVRを使ったショッピング用のVRデバイス「Buy+」を2016年9月に発表(動画)。「造物神计划」と呼ぶ、商品をバーチャル3Dモデル化するプロジェクトでは、出店者らと共に3D/AR/VRのコンテンツを作っていく計画です。

動画:「Buy+」の紹介ビデオ

新製造への変革

過去20〜30年の製造業の重点課題は、規模の拡大と標準化でした。これからの30年は「知能と、個性、カスタマイズに変わる」とマー氏は指摘します。いわゆる人工知能(AI)やスマートマシンの活用です。「未来の機械の動力源は電力ではなくデータになる」ことから、新製造の変化はすべて、「流通の変化によって引き起こされる」(マー氏)とも言います。既存のB2C(企業対個人)の製造モデルは「C2B(個人対製造)へ変化し、需要に合わせたカスタマイズが不可欠になる」(同)のです。供給者は「マーケットや消費者に適応するための自己変革が不可欠」との指摘です。

新金融への変革

過去、200年にわたり工業経済の発展を支えてきた金融業。そこでは「2:8の理論」により、20%の大企業が世界の80%の発展を牽引してきました。マー氏は、この2:8理論を支持しながらも、「新しい金融では、どうやって80%の中堅・中小企業や個人事業主、若者や一般消費者をサポートできるかが問われる」と主張します。

これまでの金融業も、こうした80%が抱える課題の解決には取り組んでいましたが、「ITが追いついていなかった」とマー氏は分析します。今後は「インターネット金融を通じて、より公平で透明性が高い環境が実現できれば、従来は支援できなかった80%の層を支援できるようになる」と期待します。マー氏は、「中小企業などの支援は、データに基づく金融体系しかない」と考えています。

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写真:アリババグループ配下の中小/マイクロ企業と個人向けの金融サービスを提供するAnt Financial Services Group(Ant Financial)のホームページの例

新エネルギーへの変革

従来のエネルギー産業は、石油と石炭という化石燃料をベースにしてきました。未来の新エネルギー産業は「データがベースになる」とマー氏は指摘します。「データは人間が初めて自らが作り出した一次エネルギーだ。従来のエネルギーの考え方では、他人が着た衣服を貴方が着ると価値は、どんどん下がる。これに対しデータは、他人が使ったものを使うと、さらに価値が高まる。使えば使うほど価値が高まるエネルギーが産業を支える時代になる」(同)というわけです。

新テクノロジーへの変革

テクノロジーが絶え間なく進化していることは誰も否定しないでしょう。ただマー氏は、その進化の方向が「データがもたらす効果の拡大」にあると指摘します。PCチップからモバイルチップへ、PC用OS(基本ソフト)からモバイル用OSへ、機械製造から人工知能へ、などを具体例に挙げます。今後のテクノロジーは「コンピューターが人間を統治するためではく、パートナーになるために発展する」(マー氏)とも言います。ただロボットの普及は大学教育にも影響するので「大学は、学生の創造力と想像力をもっと育成する必要がある」と強調します。

過去の技術革命についてマー氏は次のように整理してみせます。「第1次技術革命は、人間の体力を解放し、第2次技術革命は人間の距離を解放した」。そして今起こっている第3次技術革命では「人間の脳を解放する」と指摘します。現在のテクノロジーは「すべての人に莫大は空間を与えている」からです。

デジタルイノベーションは5つの新産業に限らない

いかがでしたでしょうか。マー氏が描く未来の根底には、データに対する強い思いがあることが分かります。実際、マー氏は「これまでは“知識”が科学技術革命を駆動してきた。だが今後は、知識だけでなく、知恵とデータが駆動していく」と発言しています。「Eコマースが消える」という表現も、Eコマースを可能にした技術そのものよりも、そこで取得・分析できる消費者が生みだすデータこそが様々な産業に影響を与えるということなのでしょう。こう考えれば、5つの新産業に限らず、あらゆる産業が、デジタルイノベーションとは無関係ではいられないと言えそうです。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)

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