中国アリババが1.7兆円かけ研究機関設立へ、大量のデータを元に社会課題の解決に挑む

2017.10.17
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Eコマース(EC:Electronic Commerce)で世界最大の企業規模を誇る中国のAlibaba(アリババ、阿里巴巴)グループ。同社がこのほど、今後5年間に1000億元(約1.7兆円)投入し、欧州アジアの3拠点に同社初となる研究機関を設立すると発表しました。併せて世界7カ所にラボを設立し、社会課題の解決に乗り出すと言います。

創業期は封印していた研究機関をいよいよ立ち上げ

アリババが、研究機関の立ち上げを発表したのは、同社の年次イベント「The Computing Conference 2017」でのこと。米Amazon.comの時価総額を超えた2017年10月11日に杭州で、「APSARA INTELLIGENCE(飛天智能)」をテーマに開催しました(写真1)。2016年の同イベントで会長のジャック・マー(馬 雲)氏は「Eコマースが消える」と題して講演し、世間を驚かせました(関連記事『Eコマースが消える、中国アリババのマー会長が予測する5つの新産業とは』)。


写真1:杭州で2017年10月11日に開かれた「APSARA INTELLIGENCE(飛天智能)」をテーマとしたアリババの年間イベント(同イベントの公式ページ https://yunqi.aliyun.com/2017/ より)

そして2017年の驚きが、研究機関の立ち上げだったのです。新たに設置するのはグローバル研究機関となる「達摩院(Damo=Discovery、Adventure、Momentum、Outlook=アカデミー)」。アジア、欧州、米国の3拠点で展開します。加えて、北京、杭州、シンガポール、イスラエルのテルアビブ、米サンマテオ、米ベルビュー、露モスクワの7カ所にラボも開設し、それぞれが異なるテーマを扱うとしています。

アリババがこれまで研究機関を持っていなかったことも驚きですが、1999年の会社設立から7〜8年が過ぎてもマー氏は「会社がラボを持つことに断固反対した」と言います。スタートアップ企業である当時は、「技術は重要だが、会社がきちんと安定するまでは、研究開発に乗り出すのは危険」(同)と考えていたそうです。

そのアリババも設立から18年が経過し、世界最大規模にまで成長。Eコマースで起業したアリババですが、そのEコマース事業も今のアリババの事業に占める割合は2割に過ぎません。結果、アリババにとってのビジネスの本質は「もはやEコマースではなく、9年前からは自らを“データ駆動の会社”だと位置付けしている」(マー氏)のです(写真2)。


写真2:「データ駆動の会社」だとし研究機関の立ち上げを宣言するジャック・マー氏(同イベントの公式ページ https://yunqi.aliyun.com/2017/ より)

技術で実現できるかどうかでは判断しない

ただ、それを可能にしているのはEコマースであることは事実です。アリババのEコマースの規模は世界最大規模になり「amazon.comやeBayなどの主要Eコマース会社5社の取り扱い量のすべてを合計にしてもアリババより小さい」(マー氏)のです。それほどに豊富なデータを持ち、それを分析できる会社なっていることがアリババの強みだというわけです。

具体的には、アリババは現在、グループ全体で月間5億人のアクティブユーザーから巨大なデータを取得。さらに毎日、無数のトラブルも生まれており、それすらも研究開発の対象になっています。

世界最大規模のEコマースサイトの運営や、そこから生み出される大量のデータを分析できるのも技術力があってこそ。しかしマー氏は、「私自身は技術者出身ではないため『BAT』と呼ばれる、バイドゥ(百度)、アリババ、テンセント(騰訊)の3社にあっても、技術者が立ち上げたバイドゥとテンセントとは、物事を判断するための“ロジック”が違う」と言います。

すなわち「技術で実現できるかどうかで判断するのではなく『これをやらなかったら明日からの生き残りに影響するかどうか』で判断する」(マー氏)ということです。アリババが9年前にクラウドビジネスに世界に進出した際も、このロジックによって判断したとしています。

Damoアカデミーの設立判断も、同じだと言います。マー氏は、「アリババはすでに普通の会社ではない。時代に対し責任を負う立場になっている。インターネットのテクノロジーと思想によって、すべての業種・業界を変えていくことがアリババの責任だ」と主張します。

具体的な目標としてマー氏は、アリババグループの”経済圏”を20年後には世界で第5位にまで拡大することを掲げます。ここでいう”経済圏”とは、アリババの事業活動を各国経済のGDP(国内総生産)に換算したもので、現在のアリババは世界で21番目に相当するとしています。経済圏を拡大することで、「世界の経済をより包含(Inclusive)し、より持続可能(Sustainable)にし、より幸せ(Happy)で健康的(Healthy)にする」(マー氏)と言います。そこでのアリババは「全世界に1億人の就労機会を作り、20億人にサービスを提供し、1000万社に利益を生み出すプラットフォームになる」(同)としています。そのための拠点がDamoアカデミーと7つのラボだというわけです。

社会課題を解決し“未来”を作るための研究開発に取り組む

マー氏は、Damoアカデミーに3つの原則を定めています。(1)必ずアリババより長く存続すること、(2)少なくとも世界20億人にサービスを提供すること、(3)人類の未来に向けた課題を必ず解決することです(動画)。

動画:「Damoアカデミーの3原則」について語るジャック・マー氏の講演ビデオ(2分55秒)

マー氏にとってDamoアカデミーは非常に重要な組織のようです。「たとえアリババがなくなるとしてもDamoアカデミーには存続してほしい」というのが、マー氏の想いです。ほかにも「企業経営者を育成する大学と公益のファンドも世の中の資産として残したい」とも言います。

未来に向けた課題解決に向けては、「21世紀に、そこそこ大きな企業になるためには、必ず大きな課題を解決しなければならない。さらに偉大な企業になるためには偉大な課題を解決しなければならない」(マー氏)と考えています。マー氏から見れば「20世紀の企業は、1回か2回のチャンスをうまくキャッチできれば、そこそこ大きな企業になれた」ということです。

巨大な事業体になったアリババは、「金、資源、人材、影響力、世界最大のデータの宝庫を持つ」(マー氏)までになりました。ただ、これらの資産についてマー氏は「アリババのためだけでは、もったいない」と考えており「世界の未来のためを活用しなければならない」という思いが高まっているようです。

マー氏は「Damoアカデミーこそが本当の“技術普惠”だ」と強調します。技術普惠とは、社会のあらゆる層にテクノロジーを広く普及させるという意味です。「テクノロジーをより多くの人とシェアすることで、テクノロジーがもたらす価値をより多くの人とシェアしたい」とマー氏は語ります。

Damoアカデミーと7つのラボが具体的に、どんな布陣で機能し始めるのか、そこからどんな課題解決策が出てくるのか、この先も目が離せません。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)

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