デジタル化の歩みを止めない米Amazonの凄み、フロントからバックエンドまで

2016.03.10
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デジタル技術を駆使して革新的なサービスを生み出し、人々を惹きつけるデジタルイノベーションの動きが様々な領域で広がっています。その代表例として最近、良く取り上げられるのは、自家用車やタクシーの配車サイトを運営する米Uber Technologiesや、住まいや空き室を旅行者に貸し出す宿泊サイトを運営する米Airbnbなど。個人が持つ資産を仲介することから「シェアリン グエコノミー」とも呼ばれ、関心が高まっています。

こうした新興勢力が次々と新しいビジネスモデルを提示するなかにあって、最先端の話題を常に提供しているのが米Amazonです。同社がWebサイト「Amazon.com」を立ち上げビジネスを開始したのは20年以上前の1995年のこと。スタート当初は「地球最大の書店」とも呼ばれ、既存の大手書店の店舗をいくつも閉鎖に追い込みました。

Amazonの販売量は巨大化する一方です。2015年7月15日に世界9カ国で同社有料会員「Amazonプライム会員」を対照に実施したキャンペーンセール「プライムデー」では、1日に3440万点を販売し、過去最高を記録しまた。1秒当たり398点の商品を販売したことになります。膨大な商品を配達する物流システムの要となる倉庫/配送センターを世界13カ国249カ所(2016年2月時点)に展開しています。

市場による同社の評価である株式時価総額は2987億ドル(2016年2月1日現在)。小売業界における世界最大の巨人である米ウォルマートの2056億ドル(同)をはるかに上回ります。

顧客の利便性を追求、注文から1時間で商品が届く「Prime Now」の衝撃

こうした成長を可能にしているのが、同社が生み出し続けている各種の新サービスであり、デジタル技術の活用にほかなりません。新サービスの典型例が、注文を受けてから1時間以内に商品を届けるという 「Prime Now」。米国では2014年12月から提供されていましたが、日本でも2015年11月にスタートしました。

「Prime Now」の紹介動画

(引用:amazon)

通信販売といえば、届くまでに時間がかかる、受け取るために一定時間在宅しなければならないなど、何か面倒なイメージもありますが、「1時間以内」となれば、そうしたイメージが消え、利用の仕方も大きく変わりそうです。

Prime Nowのような新サービスを実現するために、Amazonはデジタル技術に投資を続けています。その投資対象は、顧客が商品を注文する際の利便性の向上と、商品を受注した後の配送の効率化・自動化とに大別できます(図1)。

図1」米Amazonの投資領域。顧客接点の拡大とバックエンドの効率化の連携が同社取引量の巨大化を支えている
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「ほしいと思ったら直ぐ手に入る」という顧客の利便性向上に向けては、種々の仕組みが米国などでは投入されています。2015年7月に米国で販売を開始した「Dash Button」がその1つ。家電製品などに貼るツールで、価格は5ドル(600円弱)です。

Dash Buttonは、洗剤や飲料水、ペット用品など特定の商品と紐付いています。例えば、洗剤のボタンを洗濯機に貼っておき、「洗剤の量が少なくなってきたな」と思ったら、ボタンを押します。ボタンを押すと家庭内のWi-Fiを経由してAmazonに注文が届く仕掛けです。消費者にとっては買い忘れを防ぎ、メーカーにとってはリピートオーダーを確実に得るためのツールになります。

これをさらに進化させた「Dash Replenishment Service」も提供されています。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術を活用し、プリンターのインクや洗濯洗剤の量が減るとAmazonに自動的に発注します。消費者は、ボタンを押すこともなく、消耗品をタイムリーに補充できるわけです。ブラザーのプリンターや米GEの洗濯機に対応しており、それぞれをインターネットに接続して利用します。

Dash Buttonなどの前身は、2014年4月から米国提供されている「Dash」というリモコンです。「Amazon Fresh」という食品の宅配サービスのために導入された仕組みで、食品の名前を音声で口にするか、商品のバーコードをスキャンすると、Wi-Fi経由でPCかモバイルデバイスの「Amazon Fresh」の画面にショッピングリストが表示されます。買いたい商品のリストアップ作業を簡単にするツールと言えるでしょう。

「Dash」を紹介する動画

(引用:Amazon Fresh)

音声を使った仕組みとしては、2014年11月から提供されている「Echo」というパーソナルアシスタントデバイスもあります。音声で質問すると返事をしたり、買いたい商品をAmazonの買い物かごに入れたりができます。EchoのAPI(Application Programming Interface:アプリケーション・プログラミング・インタフェース)は公開されており、部屋の照明器具の明るさを調整するなどIoT機器を制御することも可能になりそうです。

AIとロボットで物流センターの集荷作業を効率化

先に、注文から1時間以内に商品を届けるPrime Nowを紹介しましたが、なぜそれが可能なのでしょうか。その一端を担うのは、ロボットとAI(人工知能)というデジタル技術を活用した無人倉庫です。2012年には、AIを使った倉庫ロボットを開発しているロボットベンチャーのKiva Systemsを7億7500万ドルで買収し、物流センター内のピッキング作業の効率化に取り組んできました。

このロボットは、ピッキングすべき商品が置いてある場所と、それを運ぶ場所を指示されると、商品が収納されている棚を見つけ出し、その棚を人間のスタッフが待機している場所にまで運び出します。スタッフは商品を取り出し、梱包するだけです。

多数のロボットが稼働するAmazonの物流センターを紹介する動画

(引用:amazon)

物流にけるAmazonの投資は、物流センターの効率化に留まりません。米国の複数のメディアは、Amazonが数千台のAmazonブランドのトラックを物流センター間の輸送用途に導入したと報じています。さらに一部のメディアによれば、物流センター間の輸送に航空機を導入しようとしているといいます。

物流センターから消費者宅までの配送では、生鮮食品を届ける「Amazon Fresh」サービスでは自社ブランドを冠した配送車を使用しています。また、受注から30分以内に商品を届けることを目標にドローン(無人航空機)を活用した「PrimeAir」プロジェクトに取り組んでいることは、みなさんもご存じのことでしょう。

「PrimeAir」の利用イメージの紹介動画

(引用:amazon)

現時点では宅配部分の多くは、米郵便公社や米FedExなど、現地の宅配業者との連携を続けていますが、2015年9月には「Flex」という配送サービスを米シアトルなどの大都市で開始しました。個人のドライバーが商品を配達するUber型のサービスです。物流センターの効率化のみならず、宅配サービスの改善にまで事業領域を広げているわけです。

デジタル時代のビジネスを成長させ続けるためには、新しい技術に投資し、その技術を駆使することが重要なことをAmazonの取り組みは物語っているようです。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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