モバイルの聖地「MWC」は5Gだけじゃない、「App Planet」で見つけた顧客との関係強化に向けた新アイデア

2018.06.12
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デジタル化のトレンドを占うために多くの人が訪れる世界的なイベントがいくつかあります。米ラスベガスでの「CES」や独ハノーバーでの「ハノーバーメッセ」などです。そうした中、モバイル通信関連で世界最大級のイベントが「MWC(Mobile World Congress)」です。最近の最大の話題は次世代携帯通信規格の5Gですが、商談に重きを置くMWCの話題は、それだけではありません。今回は、各国のスタートアップなどが開発した新しいアプリケーションが多数出展された「App Planet」から、顧客接点を強化するための興味深いアイデアを紹介します。

アプリケーションに特化したパビリオンも展開

「MWC(Mobile World Congress)」は、携帯電話関連技術をテーマに、スペインのバルセロナで開かれる世界最大規模のイベントです。携帯電話事業者や端末メーカーが一同に介するだけでなく、モバイルがビジネスや社会のインフラになった今、家電メーカーや自動車メーカーなども参加するようになっています。

技術のお披露目だけでなく、ビジネスへの直結を目的にしているのもMWCの特徴です。スーツ姿の来場者が多く、商談の席に着く姿も少なくありません。大型の展示ブースを設ける企業の中には、会場の内外に商談スペースを設けるところもあります。

2018年2月に開かれたMWC2018には、およそ2400社が出展し、10万人超が来場しました。話題の中心は、2020年の実用化を目指す5G(第5世代モバイルネットワーク)。通信速度が大きく高まることで、4Kや8Kといった高精細な動画の配信や、クルマの自動運転に向けたリアルタイムな通信など、様々な応用が考えられています。

大手企業による展示は、各種メディアでも多数紹介されており、みなさんも、MWCに関する記事を目にされていることでしょう。しかし、出展社数が2400ということからも分かるように、出展社は大手企業ばかりとは限りません。スタートアップ企業などが多数参加するテーマ別パビリオンも複数設けられています。「App Planet」がその1つで、5G時代に向けた各種アプリケーションソフトウェアやサービスが展示されていました。

App Planetで目に付いたのが、“顧客接点”を強化するためのアプリケーションです。顧客接点とは、企業と顧客のコミュニケーション機会、あるいはそれを実現する手段のこと。B2C(企業対個人)かB2B(企業間)かは問いません。電子メールやスマートフォン、SNS(ソーシャルネットワークキングサービス)などの登場で、企業と顧客のコミュニケーションは、従来の一方通行型から双方向型に変わると同時に、複数の手段を使い分けるなど複雑さも高まっています。

App Planetの出展社のなかから、顧客接点に新たなアイデアを投入しようとしている企業のアプリケーションを紹介します。

スペインのWhisbi:コンタクトセンターの対話を1対多に

Whisbiは、コンタクトセンター/コールセンターなどで利用するビデオチャットの仕組みを開発するスペインの企業です。最近の音声認識技術の進展と相まって、コンタクトセンターにおける顧客との対話は「Conversational Commerce(対話型コマース)」と呼ばれ、顧客との関係性を高める手段としての注目が集まっています。

Whisbiのビデオチャットには、一般的な1対1の対話を可能にする製品のほかに、1対多数での対話ができる製品「Whisbi One to Many」があります。コンタクトセンターの担当者が1度に複数の顧客を相手に対話できるだけでなく、自分からは積極的に質問したり対話したりしてこない顧客に対しても、他の顧客の質問に答える中で、訴求したいポイント伝えられるというメリットがあります(動画1)。

動画1:「Whisbi One to Many」の紹介ビデオ(1分13秒)

1対多数のチャットは、オンラインの製品説明会のような状態とも言えます。説明会では、自分からは質問しないけれど他者の質問を興味深く聞いたり、係員などと話したくはないけれど製品には興味があったりする人がいるものです。Whisbi One to Manyでは、そうした顧客層に対しても、担当者から押しつけるわけでなく、質問への回答という形でコミュニケーションが図れるというわけです。

スイスのGuuru:顧客が顧客に製品/サービスを説明

顧客からの問い合わせなどに対し、これまでは「FAQ(良くある質問)」を整備し、セルフサービスによる解決を良しとしてきました。これに対し、「同じセルフサービスなら、顧客同士で解決策を共有すれば良いのではないか」という考え方で、顧客同士が最適な回答を提供し合える仕組みを提供するのが、スイスのGuuruです。

社名と同じ同社のサービス「Guuru」の拠り所は、企業が提供する製品/サービスに対しては一定規模の“ファン層”が存在するということです。であれば、そのファン層が、見込み顧客や新規顧客の疑問に回答するほうが、企業が製品/サービスの特徴を説明するよりも有用だというわけです。

実際、「対象の製品/サービスに接する時間は、コアな顧客層のほうが、コンタクトセンターのオペレーターよりも長く、かつ知識も詳しい」という調査結果もあります。デジタル関連の製品や文具などでは“マニア”と呼ばれる層が確実に存在します。それだけに彼らのコメントは、その製品の特徴やこだわりを顧客に訴える大きな力を持っていることになります。

そこでGuuruでは、顧客からの問い合わせに対し、既存顧客のなかから、最適な回答者たる顧客を選定。その顧客と、問い合わせてきた顧客がチャットでやり取りできるようにつなぎ合わせます。つまり、顧客の問い合わせに対し、最も親身に回答できる既存顧客を紹介することで、顧客同士で問題解決を図ってもらうのです(動画2)。

動画2:「Gguuru」の紹介ビデオ(1分52秒)

回答者となった顧客の回答を評価する仕組みもあります。回答者としての顧客の回答能力をランク付けすることで、彼らのモチベーションを高めます。企業の側からみれば、自社の“味方”と呼べる顧客を囲い込めるというわけです。

オーストリアのSMART ASSISTANT:商品選択を助ける“アドバイザー”をデジタルで

モノ余りの時代にあって、商品を差別化しようと新機能を開発したり、素材にこだわったりしても、それらを適切に顧客に伝えられなければ差別化したことになりません。実店舗であれば、店頭スタッフが顧客ニーズを探りながら説明できますが、オンラインショップでは、どうしても商品の一方的な説明になりがちです。

そんなオンラインショップに対し、顧客の商品選択を手助けする“買い物アドバイザー”を配置するためのサービスを、オーストリアのSMART ASSISTANTが提供しています。

社名と同名のサービス「SMART ASSISTANT」が実現する“買い物アドバイザー”とは、顧客が何を探しているのかを明確にするために、用途や必要な機能などについて質問を繰り返し、その回答から適切な製品/サービスを絞り込んでいく仕組みです(動画3)。モバイルアプリでの採用が増えているチャットボットによる“買い物アドバイザー”を容易に開発するための機能も提供しています。

動画3:「SMART ASSISTANT」の紹介ビデオ(1分6秒)

こうした仕組みを開発しようとすると手間とコストが掛かりそうですが、SMART ASSISTANTでは、既存の商品データベースから商品情報を抽出し、そこから質問と回答の流れを容易に作れるとしています。

多様化を見せる顧客接点に向けたサービスが「顧客」の枠を変える

いかがでしたでしょうか。ネットビジネスといえば、サイトへのアクセスログなどのビッグデータを分析し、そこから顧客の好みなどを想定し、それに合った商品をお薦めするといった仕組みが、良く紹介されています。昨今は、そこにAI(人工知能)を適用する動きも始まっています。

今回紹介したApp Planetで見つけた製品/サービスは、そうしたアプローチとは異なり、顧客の声(VoC:Voice of Customer)を直接、採り入れようとしています。特にWhisbiとGuuruでは、他の顧客の声を顧客に届けることで、企業からのメッセージが“一方通行”で終わってしまうことを防ごうとしています。

こうしてみてみると、顧客接点の基本は「対面」にあるとも言えます。ネットビジネスにおいては、この対面をいかにデジタルで再現するかが問われているのかもしれません。その実現方法は、App Planetの例が示しているように、さまざまな可能性がありそうです。

執筆者:大泉 淳哉(Digital Innovation Lab)、奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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