ヘルスケア分野の社会課題をスタートアップ企業は解決できるか?!

2017.12.12
リスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

デジタルテクノロジーを駆使する新ビジネスには、私たちが直面する社会課題を解決するという役割があります。少子高齢化に伴って現実化してきた人手不足や医療費負担の増加など、解決しなければならない課題は多々あります。医療分野では、新薬や治療方法の開発も進みますが、同時に病気にならないようにするヘルスケア分野の取り組みも始まっています。日本のスタートアップ企業は、このヘルスケアに、どのように取り組んでいるのでしょうか。

ヘルスケア分野における課題解決について議論するための“場”が2017年9月12日、東京・赤坂で森ビルが展開する複合施設「アークヒルズ」で設けられました。社会課題をテーマに、スタートアップ企業からの刺激を受けながら課題解決を図るために誕生したビジネスコミュニティ「Meetup in ARK hills」でのことです。今回は社会課題の1つとしてヘルスケアが取り上げられました。

登壇したのは、IF Lifetime Venturesの共同設立者で、インキュベイトファンド のアソシエイトでもある木村 亮介氏と、ドリコス代表取締役の竹 康宏氏、Noom Japan代表の濱嵜 有理氏。ドリコスは、個人に最適化したサプリメントを提供できるサーバー「healthServer」を提供するスタートアップ企業、Noomは生活習慣の改善を支援するスマホ用アプリケーションを提供するスタートアップ企業です。

確実に起こることを今、直感できていないことが問題

木村氏は「少子高齢化による負担増は何年後には確実に大変なことになる。だが、それを今、直感できていないことが問題だ」と指摘します。例えば、1人のお年寄りを支える現役世代の人数は、1970年の8.5人が2050年には1.2人に。医療・介護費も現在の50兆円が2025年には80兆円を超える見込みです。ですが、1.2人で支えている状況や、国が80兆円を負担することの意味が実感できないというわけです。みなさんは、いかがでしょうか。


写真1:IF Lifetime Venturesの共同設立者で、インキュベイトファンド のアソシエイトでもある木村 亮介氏

しかも木村氏は「医療費の伸びを削減するのは不可能なチャレンジだ」と断言します。その理由の1つが海外への依存度の高さ。医療機器市場は現在、右肩上がりで伸びていますが、「国内では半数以上が海外製品だ」(木村氏)と言います。薬も同様に赤字なのです。それだけに木村氏は「デジタルヘルスを通じて医療におけるアクセスとクオリティの向上、コストの抑制が求められている」と指摘するのです。

ところがデジタルヘルスの牽引者になるべき日本のスタートアップ企業の現状は「ユーザーとデータと資金が足りない」と木村氏は言います。スタートアップにとって大切なことは、アイデア・概念を実現するためにプロトタイプ以前に検証するPoC(Proof of concept:概念実証)ですが、それに必要なテストユーザーやデータ、そして資金を確保することが困難だというわけです。

この状態を打破するために必要なこととして木村氏は、(1)事業会社との連携、(2)医療機関との連携、(3)開発コミュニティとの連携の3つを挙げます。日本にも「ジャパン・バイオデザイン」など医療の現場に足を運べるチャンスがあります。「こうした機会を活用し、現状を知ることも大切だと」を木村氏は助言します。

木村氏に続き、スタートアップ企業2社が、それぞれの製品/サービスを紹介しました。

ドリコス:ITで人の身体を直接変えることは難しい

ドリコスが提供する「healthServer」は、生体センサーで測った1人ひとりの健康状態に合わせて、その場で必要なビタミン粉末を調合して提供するデバイスです。スマートフォン用アプリと連携して、行動や食事内容を加味して不足している栄養素を算出することもできます。


写真2:ドリコス代表取締役の竹 康宏氏

代表取締役の竹氏が、healthServerを考えたきっかけは、「エレクトロニクスは検知は得意だが、身体を直接変えることは難しい」という事実。食事内容や今後のスケジュールから、摂取した栄養素、これから必要な栄養素を解析し、その栄養素を人の“飲む”という行為に転換するわけです。そのために、生体データから栄養素を抽出する技術を開発しました。「グラタンを食べたあとに会議に出る場合、何の栄養素が不足しているかが分かる」(竹氏)のだそうです。

Noom Japan:生活習慣を作り上げ健康も作る

Noom Japanが提供するのは、健康になるために生活習慣を変えることを支援するスマホ用アプリケーションです。米国では2017年4月、オンラインサービスとしては初の糖尿病予防プログラムとして認定を受けています。利用者ごとに実践的なプログラムを提案し、それを継続できるように支援することで生活習慣を変えていきます。


写真3:Noom Japan代表の濱嵜 有理氏

すでに世界で4400万人超が利用し、日本でも愛媛県の地方職員共済組合愛媛県支部が導入し、特定保健指導完了率100%、継続率72%、減量成功率100%、平均減量5.18kgという結果が得られたとしています。

Noomでは、16週間かけて生活習慣を改善するのが目標です。代表の濱嵜 有理氏によれば、「行動に心理学的にアプローチし、AI(人工知能)による行動学習とプロのコーチ陣による指導を絡めることで、人の生活習慣を一緒に変えていく」のがNoomのサービスです。トレーニング前にコーチと、現在の自分と望ましい生活習慣を共有した後に、食事内容や血圧・血糖値の変化などに対するフィードバックが受けられます。

同時期に生活改善を始めた10〜15人の“仲間”と情報を確認し会えるのもNoomの特徴です。「仲間の存在が生活改善の継続につながる」(濱嵜氏)というわけです。また、多くの人々の進捗状況をAIで分析することで「停滞期が起こる理由やそれへの対策、ポジティブに乗り切るための心の持ち方などをアドバイスする」(同)と言います。

日本企業のベンチャー連携は始まっている

両者に対し、木村氏が一番に挙げた事業会社との連携はどうだったのでしょうか。healthServerの開発・生産では、複数の企業から支援を受けています。シードの段階で三菱UFGキャピタルから、開発・生産段階ではダイドーや資生堂といった企業の支援を受けました。

竹氏は「ダイドーは自販機事業の次の一手としてヘルスケアに興味がある。資生堂は世の中の仕組みを変えることに魅力を感じてくれた。ベンチャーキャピタル(VC)は『このタイミングで事業会社を絞るのは他社との連携の可能性を潰してしまう』と言われたが、一緒にやりたいという気持ちと、条件について腹を割って確認したので不満はない」と語ります。

Noomに対しては本国アメリカでも日本のリクルートが出資していました。日本での展開においてもリクルートが出資しています。濱嵜氏は「リクルートの担当者は、当社が小さい会社にもかかわらず近い距離で一緒に活動できた。会社ももちろん、現場の人が“良い人”であることが大切だ」と話します。またオムロンがNoomと提携し、同社製の体重計のデータはNoomのアプリに自動的に入力できるようにするなど、サービスの拡充に向けた支援もあるようです。

木村氏の指摘通り、事業会社との連携はスタートアップ企業にとっては不可欠な成功要素の1つのようです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

EVENTイベント