自動運転は本当に実現するのか?世界のベンチャーが指摘する実用化に不可欠な技術と取り組みPart2

2018.05.15
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自動運転の実用化に向けては、さまざまなテクノロジーが必要で、解決しなければならない課題は少なくありません。そこに多数のベンチャー企業がチャレンジしています。先に『自動運転は本当に実現するのか?世界のベンチャーが指摘する実用化に不可欠な技術と取り組み』として、自動車関連ベンチャーが考える“課題”と、その“解決策”を紹介しました。そのPart2として、異なる分野に取り組むベンチャー企業の視点を紹介します。

自動運転の“課題”と“解決策”を示すのは、中国TuSimpleの共同創業者でCTO(最高技術責任者)のXiaodi Hou氏と、米NuTonomyのシンガポール拠点NuTonomy AsiaのマネジャーであるCody Kamin 氏の2人です(写真1)。『第10回オートモーティブ ワールド』(主催:リードエキジビション ジャパン)に登壇し、それぞれが持つテクノロジーの意味について語りました。


写真1:中国TuSimpleの共同創業者でCTO(最高技術責任者)のXiaodi Hou氏(左)と、米NuTonomyのシンガポール拠点マネジャーであるCody Kamin 氏

TuSimple:トラックの自動運転には特有の課題がある

TuSimpleは、中国・北京で起業したトラックの自動運転に取り組むベンチャー企業です。米サンディエゴにもオフィスを置いています。カメラとミリ波レーダーを使って周辺環境を認識することで自律走行を可能にする「Vision Based Autonomous Trucks」を開発しています(動画1)。

動画1:TuSimpleが取り組む「Vision Based Autonomous Trucks」のデモ走行の紹介ビデオ(1分30秒)

トラックの自動運転の特徴の1つに、複数台が隊列をなす「プラトーン(小隊)」走行があります(『ここまで進んでいるトラックの自動運転技術、“隊列走行”でドライバーの負荷も燃費も改善』)。ですが、TuSimpleのHou氏は、「トラックは車体が長く重量があるなど、乗用車の自動運転とは異なる課題を解決する必要がある」と指摘します。

その1つがブレーキングの問題です。「トラックはバスや乗用車に比べて圧倒的に制動距離が長い」(Hou氏)のです。たとば、時速40マイル(約64キロメートル)で走行していてブレーキを踏んだ場合、停止までの距離は自家用車が約100フィート(約30.5メートル)なのに対し、トラックは150フィート(約46メートル)を超えます。時速60マイル(約96.5キロメートル)からでは、トラックは300フィート(約91.5メートル)も走ってしまいます。

またトラックの中にはトレーラー、すなわち牽引車とトレーラーが連結されている車両も含まれます。こうした連結車では、横滑りや、S字カーブなどで後部が振られる“尻振り”さらには、トレーラー部分が牽引車とは全く別の方向を向く“ジャックナイフ”などが発生し、「いずれも大きな事故につながりかねず、その対策は簡単ではない」(Hou氏)のです。

制動距離の長さやトレーラー特有の課題に対処するために重要なポイントそしてHou氏はまず「ローカライゼーション」を挙げます。トラックが車道のどのレーンを走行しているのかだけでなく「車の角度や傾きといった“姿勢”をも示す必要がある」(同)そうです。

そのうえで「より早い段階から周囲の状況を把握し、走行計画を立て、事故を防ぎながら、かつ次にどう動くかを素早く決められなければならない」とHou氏は強調します。そのためTu Simpleの「Vision Based Autonomous Trucks」では、8つのカメラと3つのミリ波レーダーを使って、200メートル先までセンシングしています。

NuTonomy:自動運転により都市交通の姿は変わる

NuTonomyは、自動運転やロボットを制御するためのソフトウェアに特化したベンチャー企業です。本社は米ボストンですが、米サンタモニカとシンガポールにも開発拠点を置いています(動画2)。2017年11月には英国の自動車特化の電子/ソフトウェア技術会社Aptiv(旧Delphi Automotive)に買収され、同社の自動運転技術の中核に位置付けられました。2018年1月にはタクシー配車大手の米Lyftとともに、米ラスベガスで自動運転によるタクシー配車を実証実験しています。

動画2:NuTonomyの自動運転技術の紹介ビデオ(1分39秒)

自動運転の進化についてKamin氏は、「効率性やアクセス性も重要だが、それ以上に安全性について劇的に改善させる必要がある」と強調します。なぜなら「米国では年間3万人以上が交通事故で亡くなっている。これは、航空業界でいえば、大型機が毎日墜落しているようなもので、それを自動車業界は認めてきてしまった。しかも自動車事故の9割は人的ミスによるとされる」からです。

それが自動運転になれば、人的ミスによる自動車事故は削減されます。Kamin氏は、「自動運転により安全性が担保されるようになれば、『人は運転するな』と宣言する都市がでてくるかもしれない。近隣のデリバリーやシャトルといった用途にも将来的には使われていくだろう」と、未来の交通事情を予測します。

さらにKamin氏は、「自動運転が本格的に普及すれば、乗用車の数は減る」とみています。たとえばシンガポールでは、「自動運転車が30万台あれば、自家用車はもとより、電車もバスもタクシーも不要になるとの試算がある」と言います。現在、シンガポールの乗用車の総台数は80万台です。

しかも、「次の乗客がいそうな場所に常に自動車を配車できれば、「乗客の待ち時間も半分程度になるとの数字がある」(Kamin氏)と言います。結果、渋滞と駐車場不足も解消できるというわけです。

自動運転の課題は利用者の理解と開発人材の確保

自動運転の最先端を走るTu SimpleとNuTonomyの両者ですが、テクノロジー以外の課題も指摘します。まずHou氏は、「一般の人に『何が自動運転なのか』を十分に説明し理解を得る必要がある」と強調します。自動運転でも事故を完全になくすことはできません。そんなとき「コンピューターのトラブルで事故が起こると思われてしまっては発展しない」(同)とも言います。

これを受けてKamin氏は、「安全性の担保には公道でのテストが不可欠になる」と指摘します。「シミュレーターなどでのデモ走行と、24時間×7日間タクシーの配車サービスを提供するのとでは事情が全く異なる」からです。

公道テストにおいては、「テストシナリオを各社がシェアできるかどうかも検討する必要がある」(Kamin氏)ようです。「今後は、各社が多くのシナリオを作り、そのシミュレーションをクリアすることで認証が得られ、公道テストに移ることになる。現在、テストシナリオは各社が保持しているが、認証を得るには、シナリオがシェアされている必要がある」(同)と考えられるからです。Kamin氏は、「そのうえで解決方法については各社が工夫を凝らせば良い」と提案します。

また両氏が共通に課題に挙げるのが開発人材の確保です。Hou氏は「自動運転のアルゴリズムを開発するエンジニアには、この分野で5年ほどの経験が必要だが、それだけの経験を持つ人材はいない。若い業界だけに、どのスタッフも自動運転のスキルを持って入社してくるわけではない」と話します。

特に製品化の段階についてHou氏は、「年齢や経験を重ねた人たちの能力が生きるとは思うが、既存の自動車業界とは考え方が一致しないかもしれない。ルールに適応しながらも新しい製品を作れるだけの経験が必要になる」と指摘します。

一方でKamin氏は「シンガポールでの開発は、シリコンバレーの競争から離れており、これが良い方向に作用している。当社は離職率が低く、スタッフが協力し合っている。同じスタッフと長く仕事をすることで、同じ課題を同じように理解でき、協力体制を作りやすくなる」としました。

利用者としての“見識”も必要に

自動運転に関するニュースなどをみていると、今すぐにも自動運転が始まりそうですが、テクノロジーの最先端にいるベンチャー企業の担当者でも、実用化にはそれなりの時間が必要だと考えているようです。

特に自動運転の安全性の確保に向けては、テクノロジーのほかに、保険制度や免許制度などの問題点・改善点の議論が始まった段階です。それも、社会インフラを整備する側からの議論が中心です。

こうした技術開発や議論を活発にするためには、Hou氏が指摘したように、自動運転車の所有者や自動運転タクシーの利用者、あるいは、自動運転車と共存する歩行者の側にも、自動運転がどうあってほしいのかについて、一定の見識を示す必要がありそうです。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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