自動運転は本当に実現するのか?世界のベンチャーが指摘する実用化に不可欠な技術と取り組み

2018.04.12
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クルマの自動運転への期待が高まる一方で、米国では自動運転車による事故が相次ぐなど、その安全性・確実性を疑問視する動きも強まっています。実用化に向けては、テクノロジーだけでなく、各種の制度や法律、人が起こし得るイレギュラーケースなど検討事項が山積しています。自動運転の実用化に向けては、どのようなテクノロジーが必要で、何を解決しなければならないのでしょうか。自動運転に取り組むベンチャー企業が考える“課題”と、その“解決策”から探ってみましょう。

自動運転の“課題”と“解決策”を示すのは、米NautoのCEO(最高経営責任者)兼共同創業者であるStefan Heck氏と、イスラエルINNOVIZ TechnologiesのCBO(最高ビジネス責任者)兼共同創業者であるOren Rosenzweig氏、そしてハンガリーAImotiveのCEOであるLászló Kishonti氏の3人(写真1)。いずれも『第10回オートモーティブ ワールド』(主催:リードエキジビション ジャパン)に登壇し、それぞれが持つテクノロジーの意味について語りました。


写真1:自動運転に取り組むスタートアップ3社のCEO(最高経営責任者)。左から、米NautoのCEO兼共同創業者であるStefan Heck氏、イスラエルINNOVIZ TechnologiesのCBO(最高ビジネス責任者)兼共同創業者であるOren Rosenzweig氏、ハンガリーAImotiveのCEOであるLászló Kishonti氏

Nautoはネット接続が可能なドライブレコーダーを、INNOVIZは「LiDAR(Light Detection and Ranging:光による検知と)」と呼ばれる自動運転のためのセンシング技術を、AImotiveは自動運転用の車載ソフトウェアやシミュレーションツールなどを、それぞれ開発しています。3社のテクノロジーと、それが必要とする主張を紹介します。

Nauto:ドラレコの動画データから事故の損害を減らす

Nautoが開発・販売しているのは、クルマの前方と車内の2方向を録画でき、データをネット経由でクラウドに送れるドライブレコーダーです。事故が発生した際の保険や損害賠償の適切な適用や、ドライバーの運転技量の評価などに利用できます。独自動車大手のBMWが出資するなど、そのソリューションも期待されています(関連記事『激変する自動車業界、独BMWがコーポレートVCのBMW i Ventures経由で投資する先』)。

CEO兼共同創業者のStefan Heck氏は、日本の道路事情には損失が大きいと指摘します。(1)交通事故による損失金額が毎年4兆4000億円、(2)道路の平均有効活用率は0.5%、(3)燃料のうち移動のために使われているのは1%未満、(4)一般消費者の車両活用率は2.4%、というのが現実だからです。ただ同氏は「これらは忸怩たる問題ではあるが、テクノロジーによって解決できる問題でもある」とします。

これらの課題に対し、Nautoが提供できる価値は、「ドライバーの安全と、セキュリティの確保、そして優秀なドライバーの確保だ」とHeck氏は強調します。具体的には、運転中にドライバーが携帯電話を見ていたり、よそ見をしたりしていると画像認識により警報を出す、事故時にドライバーが減速動作を取ったかどうかを判定する、といったことです。こうした情報を蓄積することで「事故そのものの防止は難しいが損害は減らせる」(同氏)としています。

そのうえでHeck氏は、自動運転が高い信頼性を得るためには「3000億キロメートル分のデータが必要だ」と指摘します。Nautoでは、ドライブレコーダーで取得した動画データなどから3D(3次元)のモデルを作り、数十億キロ分のシミュレーションデータを作成しています。それでも現状は「自動運転として実現できているのは20%程度。成熟するまでには10年以上はかかるだろう」とみています。

Nautoとしては今後、「良い運転や悪い運転を見極めるための情報を取得しながら『所要時間は数分長いがリスクは100分の1になる』といった提案ができるようにしたい」(Heck氏)考えです。

INNOVIZ Technologies:センシング技術などのコストダウンが不可欠

イスラエルのINNOVIZ Technologiesは、クルマの周辺状況を把握するためのLiDARと呼ぶセンシング技術を開発するスタートアップ企業です(動画)。

動画:INNOVIZ TechnologiesのLiDARの紹介ビデオ(1分22秒)

同社のCBO(最高ビジネス責任者)兼共同創業者であるOren Rosenzweig氏は、自動運転の課題を、(1)テクノロジー、(2)コスト、(3)規制・責任の3つに整理しています。

テクノロジーについては、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)の認識アルゴリズムや、AI(人工知能)の処理速度、システムに対する攻撃への対策、そしてセンサーによる空間認識などの高度化が不可欠だとします。同社が取り組むセンシング技術でも「たとえば、霧のかかった道路や、コーンが立っていて地図とは状況が異なる道路、人が一時停止の看板を持って立っている道路など、実際の道路は複雑で、どのように判断すれば良いのかが難しい」(Rosenzweig氏)からです。

コストも悩みのタネです。Rosenzweig氏自身が「LiDARはコストが高い」と指摘します。しかもLiDARだけでは自動運転に必要な情報はそろいません。光学式カメラは遠距離の物体をとらえるのが苦手ですが、道路標識や信号の認識は得意です。逆にレーザー技術は小さな物体の検知には不向きです。INNOVIZでは「カメラやレーザーなど複数のテクノロジーを取り入れることで安全性を高め、コストが下がるよう工夫している」(同氏)そうです。

自動運転で避けて通れないのが規制や責任の側面です。自動運転車が人身事故を起こした場合に対しては、なおさらでしょう。Rosenzweig氏は「安全の基準や責任の所在を決めなければならない。米国では21の州が自動運転に対する法律の制定に動いている。警察に対し自動運転車をリモートで停める権限を与えることも必要になるだろう」と指摘します。

もっとも、LiDARにより安全性が高まれば、規制や責任の問題も、もっと整理され私たちの負担は軽減される可能性はあります。そのためは「LiDAR製品の大量生産が不可欠だ」とRosenzweig氏は訴えます。提供コストを下げることが、自動運転の安全性の寄与につながるとの考えです。

AImotive:シミュレーションを重ねる必要がある

AImotiveはハンガリーでクルマが自律的に走行するためのテクノロジーを開発しています(動画)。CEOのLászló Kishonti氏は、自動運転における安全性を考えるための比較対象として、航空業界がどのようにして安全性を確保してきたかを挙げます。

AIMOTIVE from AImotive on Vimeo.

すなわち、航空業界では事故を防ぐために、パイロットはシミュレーションによりトレーニングを重ねていますし、フライトレコーダー、ボイスレコーダーといった「ブラックボックス」により運航状況を記録し事故の発生原因までを徹底して調査するといったことが決められています。

Kishonti氏は、「自動車の自動運転にも同様の仕組みが必要だ。航空機で実施されているように、自動運転に対してはソフトウェアを最新状態に保つことが規制として要求されるようになる」と指摘します。ソフトウェアが最新でなくハッキングされてしまうと、事故を引き起こされる懸念がある」(同)からです。

もう1つKishonti氏が重要だとするのが、シミュレーションです。同氏によれば、「自動運転の試験としては数十億マイルの走行が必要あり、実世界の走行データだけでは少なすぎる」からです。しかも、単に走行距離を稼げば良いということでもありません。道路状況や天候などさまざまな条件下でのデータを取得する必要もあれば、事故や危険な状況に遭遇し、それを回避した際は、その状況を再現する必要もあります。シミュレーションであれば、「仮に東京にいても、雪道でのテストを冬を待たずに行える」(同氏)わけです。

Kishonti氏によれば、公道での自動運転のテスト許可がでているのは、米カリフォルニア州と、米ネバダ州、フィンランド、ハンガリーなど。「フィンランドは雪道のテストに向いている。自動運転が必要としているデータ量は、あまりに膨大なだけに、世界各国でテストすることが大切だ」と言います。

有効なシミュレーションに向けて重要になるのが「事故のデータベース」(Kishonti氏)です。どのような事故が発生しているかというデータが、シミュレーションのための元データになります。世の中のすべての事故をシミュレートすることは難しいけれども、より多くのシミュレーションが自動運転の安全性を高めることにつながりそうです。

リアルなデータをいかに収集していくか

自動運転のレベルは、0〜5までの6段階に分けられています。2018年4月時点では、車線変更や縦列駐車が自動でできるレベル2程度までが商用化されていますし、大手自動車メーカーはレベル3〜5に向けた投資を拡大しています。

そのなかで、紹介したスタートアップ企業が取り組むテクノロジーは、それぞれ異なりますが、各社とも自社のテクノロジーによって自動運転が乗り越えなければならない課題のいくつかを解決したいと考える気持ちは共通です。加えて、そのためには、より大量のデータが必要だという認識も同じです。ただデータを得るための公道実験で事故が多発して良いというわけにも行きません。

データをいかに蓄積していくのか、その蓄積に伴って自動運転のアルゴリズムがどのように進化していくのかなど、自動運転のためのテクノロジーの動向からは目が離せそうにありません。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji

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