百度(バイドゥ)トップが語るモバイルインターネットの未来、 デジタル世界を現実界に還元する時代に

2016.08.10
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デジタルビジネスの推進においては、スマートフォンに象徴されるインターネット環境におけるモバイルアプリケーションがどう変化していくのかを抑えておかねばなりません。モバイルインターネットの世界で今、何が起こり次にどこへ向かっているのか。それについて、中国最大のインターネットサービス会社である百度(バイドゥ:Baidu)の社長である張 亜勤 氏が来日し語りました。

百度は、検索エンジンを提供する中国最大の企業です。世界的にも米Googleに次ぐ規模を誇り、時価総額は600億ドル、従業員数は全世界で約5万人を抱えます。北京で2000年に起業して以来、検索のほかモバイルインターネットに関する各種サービスを展開、10年前の日本進出を皮切りに、東南アジアやインド、エジプトなどへも事業も拡大しています。阿里巴巴(アリババ:Alibaba)、騰訊(テンセント:Tencent)と共に中国3大インターネット会社に数えられています。

張 亜勤 氏は2014年9月から百度を率いています。中国科技大学で電子工学の学士号と修士号を取得後、1986年に米国に渡り、1997年(31歳)には米国電気電子学会(IEEE)の最年少メンバー(Fellow of IEEE)に選ばれます。1999年に米Microsoftに入社し、グローバル副社長兼マイクロソフトチャイナ会長に就任すると共に、マイクロソフトリサーチアジア(MSRA)を創設し、研究院長兼チーフサイエンティストを務めました。

その張氏が、東京・六本木の東京ミッドタウンで2016年7月15日に開かれたイベント「GMIC TOKYO 2016」のために来日。慶應義塾大学大学院特別招聘教授 である夏野 剛 氏からの質問に答える形で、世界のモバイルインターネットの現状と将来について語りました(写真1)。中国あるいはアジアから見たモバイルインターネットの動向は、どのように映っているのでしょうか。

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写真1:百度(Baidu)社長の張 亜勤 氏と慶應義塾大学大学院特別招聘教授の夏野 剛 氏(写真提供:GMIC TOKYO 2016事務局)

スマホ市場は既に飽和状態、奪い合っているのは「時間」

夏野氏が最初に質問したのは、スマートフォン(以下、スマホ)の成長性です。2008年に米Appleが「iPhone 3G」を発売してから世界中に爆発に広がり、2009年にはGoogleのAndroid搭載機が中国で大量に生産され始めました。それからわずか7〜8年で全世界のスマホの利用者数は20億人を超えました。しかし、ここ数年は、日本も中国でもスマホの利用者数は、それほど伸びていません。張氏は「2015年に一番伸びたのはインド。グローバルで見た伸び率は約10%だと言われていますが、インドはその半分に貢献しているのではないでしょうか」と言います。

「中国では、スマホのアクティブユーザー数は人口の半分を超えています。残りの30〜40%は、最新技術を積極的は採用せず、ガラケーからスマホに切り替えるニーズも、それほど強くありません。また、スマホの性能が高まっていることで、デバイスの更新サイクルそのものが鈍化し、成長を減速する要因の1つになっています」。こう指摘する張氏に対し、夏野氏も「日本のガラケーも同様です。e-mailやインターネット、Googleアプリなどを使えるのに変える必要はない」と呼応しました。

このことはアプリケーションにも当てはまります。新しいアプリを投入しても、利用者の注意を引くのは難しい時代が訪れました。2015年の調査では、利用者が持っているアプリの数は、ほとんど横ばいです。既に多くのアプリを持っている利用者は、新しいアプリをダウンロードしても、削除する数も少なくありません。張氏は「アプリの人気を判断する基準は、もう数ではない。どれだけ使っているかの『時間』へと変化してきている」と指摘します。それだけに「ポケモンGO」の世界各国での大ヒットは、他のアプリにとっては脅威でしょう。プレーするのに、ものすごく消費者の時間を必要とするから」(夏野氏)です。

中国のモバイルインターネット市場では、Alibaba(アリババ)、Tencent(騰訊)、Baidu(百度)の上位3社が提供しているアプリだけで「利用者の時間の70%を占拠しています。そこにベンチャー企業が次々と参入し、さらに競争を激しくしているのです」(張氏)。急先鋒は、配車サービスのDidi(滴滴)や、モバイル端末のXiaomi(小米)、eコマースのMeituan(美団)などです。

人気アプリはメッセンジャーとビデオ閲覧で世界共通

アプリの人気ランンキングを見ると、コミュニケーション系とソーシャルネットワーク系のアプリが世界的に上位にランクインしています。WhatsAppやFacebook messenger、LINE、WeChatといったアプリがグローバルで急伸しています。さらに、これらが大きなビジネスプラートフォームを形成し、情報検索から買い物、ゲーム、決済までもが可能になっています。

トラフィック量に最も貢献しているのはビデオ(動画)です。モバイルでビデオを閲覧する人の割合は中国は31%。日本のそれを上回り、アメリカとほぼ同じです。張氏は「これはWi-Fiの普及や3Gの品質向上などによるものです。短い動画クリップなど、通常のテレビでは見られないようなビデオが多数、閲覧されています。最近のトレンドはストリーミング、つまりUGC(User Generated Contents)からのライブ中継です」と説明します。

ここで夏野氏は、次のように指摘しました。「ここで重要なのは、中国という国は非常に特別だと思われがちですが、客観的にみれば、利用者の振る舞いは他の国々と、ほぼ同じだということです。特に若い世代は世界中で非常に似ています。明らかにモバイルが彼らの関心の中心にあると言えるでしょう」

ただ張氏は、中国が世界とは異なる点もあると言います。1つは、中国でダウンロードされるのは、ほとんどが無償のアプリだということです。ただし、広告などを見てゲームソフトを購入することはあるので、「最終的には有償アプリをダウンロードする以上に支払っているのかもしれません」(張氏)。実際、中国のモバイル利用者のARPU(Average Revenue Per User:1人当たり収益)は高いといいます。

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写真2:百度(Baidu)社長の張 亜勤 氏の発言に耳を傾ける参加者(写真提供:GMIC TOKYO 2016事務局)

スマホでの買い物が好きな中国人と、それを支える決済システム

もう1つの違いは、「eコマースです」(張氏)。中国人はオンライン、特にスマホでの買い物が好きで、eコマースや電子決済のアプリをよく利用しています。その背景には「中国の実店舗では、なかなか良いサービスが提供できていないことがあります。都市部のショッピングモールは閑散としていて、人がほとんどいません。購買活動のほとんどは電話やネット経由です」(同)。

統計によれば、中国ではeコマースの90%はモバイルからのアクセス。映画のチケットも70%はオンラインでの購入です。食べ物をテイクアウトする際も、ネットで予約・購入してから店舗に取りに行きようです。既にタクシーに乗るときは「まずUberなどのアプリで車を手配し、Baiduマップを使って位置を確認。支払いはオンラインといったケースが一般化してきている」(張氏)といいます。

こうしたモバイルライフを支えているのが決済サービスです。張氏は、決済インフラにおいて中国は、米国や他国と比べ、より高度に発展している」と主張します。多くの国では、eコマースの決済はクレジットカードやデビッドカードなど既存の金融機関が持つプラットフォームを使っています。しかし中国では、従来の銀行サービスのためのインフラが未整備なため、「Alipay(アリペイ)」や「WeChat payment(ウイチャットペイメント)」といった決済アプリが急速に普及してきました。

張氏によれば、eコマースの決済において最も利用頻度が高いWeChat Paymentは1人が月に50回以上使っており、2位の「USA Debit Card」のほぼ倍になっています。「現金を持たなくても様々なところで支払いが可能になっています」(同)。

次の30年はインターネットから現実世界への逆の流れに

こうした現状をから、張氏はインターネットの未来をどう見ているのでしょうか。その問に対し張氏は、「次の30年は、これまでとは逆のことをする」と答えます。どういうことかと言えば、インターネットは過去30年間、現実世界をデジタル化することに邁進してきました。音声やドキュメント、ビデオなどをデジタル化しつなげてきたのです。しかし、次の30年は「インターネットに使われているテクノロジーを現実の世界に提供していくことが主流になる」というわけです。

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写真3:インタ−ネットの未来について語り合った百度(Baidu)社長の張 亜勤 氏(左)と慶應義塾大学大学院特別招聘教授の夏野 剛 氏(写真提供:GMIC TOKYO 2016事務局)

インターネットから現実世界へのテクノロジーの流れには大きく3つの側面があると張氏は指摘します。1つは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)です。すべてのモノがつながり、そこにAR(拡張現実)や VR(仮想現実)、MR(複合現実)などバーチャルの世界と現実の世界をつなげる手法が今後5年間で大きく利用されるだろうと予想します。

2つ目は、過去数年間、消費者のライフスタイルを様々に変えてきたモバイルインターネットが、金融や教育、医療、製造業などの分野に浸透することです。そして3つ目がテクノロジーのイノベーションです。例えば人工知能(AI)、ディープラーニング、ロボットといったテクノロジーが次の時代を推し進めるというわけです。

既に百度では「将来に向けて、AIにフォーカスした多くの研究開発に取り組んでいます。5万人の従業員のうち3万人がR&D(研究開発)に関わり、売り上げの12%をR&D費に投じています。音声認識や顔認識、写真認定などの精度も、グローバルレベルに高め、検索から金融、セキュリティといった分野に適用していきます」(張氏)。自動運転の開発にも取り組んでおり、「既に米国と中国では自動走行のロードテストを実施しています」と張氏は話します。

いかがでしたでしょうか。少なくとも中国では、スマホを使ったeコマースでは先進国のようです。金融機関や交通など社会インフラが十分に整備されている日本の実状だけを見ていては、グローバルなニーズの変化には気づきにくいのかもしれません。

執筆者: 水野 雪 (フリーライター)

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