“FinTechの次”の技術としての「ブロックチェーン」、注目理由を知るための4つのキーワード

2016.07.12
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「ブロックチェーン」という用語を見たり聞いたりする機会が増えたとお感じの方は少なくないはずです。話題のFinTech(Financial Technology)の“次の技術”とも評されています。しかし、なぜそれほど注目されるのか、どんな考え方で成り立っている技術なのか−−。そんなモヤモヤの解消の参考になる報告者を経済産業省が公開しています(報告書がダウンロードできるページ)。同報告書によれば、まずは4つのキーワードを理解すれば良さそうです。

国家レベルでブロックチェーンの理解と応用の競争が激化

キーワードの前に、ブロックチェーンの現状をみておきましょう。ブロックチェーンは今、日本だけでなく世界中から大きな注目を集めています。特に金融分野では、社会に浸透している既存システムの根幹を揺るがしかねない技術だと認識されているためです。日本政府もブロックチェーンは「成長のためのドライバー(テコ)」と認識しており、国レベルでのブロックチェーンの理解と応用進める競争が激化しています。経済産業省は「行政自らもブロックチェーンの活用を積極的に考えていきたい」と異例のコメントを出したほどです。

欧米では既に、実運用に乗り出す金融機関も登場しています。日本では、三菱東京UFJ銀行が「MUFGコイン」という同行内専用の仮想通貨をブロックチェーンの技術を使って独自に開発し、実用化に向けた実証実験に着手したと報道されたほか、米国のFinTech企業であるR3 CEVが主導するコンソーシアムに多数の金融機関が参加して実証実験に臨んでいます。野村ホールディングス、三井住友銀行、三菱東京 UFJ フィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、トヨタファイナンスなどです。

ブロックチェーンの利用促進に向けたオープンソースを開発する動きもあります。オープンソースの基本ソフトウェア「Linux」を開発・普及を進めるコンソーシアムのLinux Foundationにおいて、富士通と日立製作所、NEC、NTTデータがブロックチェーンの共同開発プロジェクト「Openledger」を2015 年 12 月に発表しています。

改ざんが困難で安定した仕組みが安価に作れる?!

これほど国や大手企業がブロックチェーンに取り組むのは、その構造から「改ざんが極めて困難」「実質ゼロ・ダウンタイム(システムが停止しない)」「システム構築が安価」の3つの要件を満たせると言われているからです。これら3要件は金融システムに限ったことではありません。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を含む幅広い分野での応用が期待できるだけに、国を挙げての競争に発展しているといえます。

では、これら3つの要件をブロックチェーンは、どのように実現できるというのでしょうか。それを理解するためのキーワードは、「ブロック」「チェーン」「PoW」「P2P」の4つです。それぞれのキーワードのポイントをみていきましょう。

●「ブロック」と「チェーン」

そもそもなぜ「ブロックチェーン」と呼ばれるのかいえば、データを管理するために、「ブロック」を「チェーン(鎖)」状につなげていくという方法を採っているからです。

ブロックチェーンの「ブロック」は、複数の取引データをまとめたデータの単位です。そのブロックには、1つ前のブロックから出力された「ハッシュ」と呼ばれる値を含めて格納しながら、時系列につなげていきます。このブロックを投げたものが「チェーン」です(図1)。

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図1:複数データとハッシュ値からなる「ブロック」が「チェーン(鎖)」状につながっているからブロックチェーンと呼ぶ

ブロックに1つ前の「ハッシュ」を含めている点が重要です。ハッシュは、「ハッシュ関数」という計算式によって得られる一定の桁数の値(ハッシュ値)ですが、同じデータを入力すれば必ず同じハッシュ値が得られます。逆にデータがわずかでも異なっていると、全く異なるハッシュ値になります。これによりデータの改ざんなどを防いでいるわけです。

●PoW(Proof of Work)

「PoW(Proof of Work)」を直訳すると「仕事の証明」になります。これは、手間がかかる単純作業をしたという事実から、仕事をしたことを証明するための仕組みです。仕事の検証は簡単ですが、不正を行おうとすれば単純作業のすべてを繰り返さなければならず時間やコストがかかるのが特徴です(図2)。ドミノ倒しがイメージしやすいかもしれません。多くのドミノを並べ終わったことは直ぐ分かりますが、途中で1つでも倒れたら、そこからまた並べ直さなければなりませんね。

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図2:「PoW(Proof of Work)」により改ざんの負荷を高めている

ブロックチェーンの技術を使っている仮想通貨の代表例「ビットコイン」では、PoWの仕組みにより、中央主権的な管理者を置かなくてもデータを改ざんできないようにしています。具体的には、ネットワークに参加している人たちが、自分の手もとに届いたトランザクションデータの集合に「ナンス(Nonce)」と呼ぶ任意の値を加えてハッシュ値を計算しますが、与えられた条件に合致する値が出るまでナンスを変えながら計算し続けます。誰かが条件にある値を得られたら、参加者全員で、その結果が正しいことを確認し、その結果だけを正式なブロックとしてチェーンに追加します。

●P2P(Peer to Peer:ピアツーピア)

「P2P(Peer to Peer:ピアツーピア)」という用語はご存じの方も多いのではないでしょうか。動画やコンテンツの共有ツールなどの仕組みとして知られています。動画共有などでは違法行為などもありP2Pの仕組みそのものが諸悪の根源のようなイメージがあるかもしれませんが、決してそんなことはありません。分散型のシステム基盤として色々な場面で利用されています。

P2P型のネットワークでは、ネットワークに参加する「ノード」それぞれがデータを保持し、他のノードと対等の関係でデータをやり取りしながら自律的に動いています(図3)。ここで「ノード」とは、ネットワークにおける中継点や分岐点、あるいは端末のことで、計算能力やデータの保存場所を提供する端末を「ピア」と呼んでいるのです。

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図3:P2P型では、すべてのノードが対等な関係でつながっている(出所:『平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備 報告書概要資料』、経済産業省)

例えば、クライアント/サーバー型のネットワークでは、データの保持・提供の役割を担うサーバーと、データにアクセスするクライアントの役割が固定されています。この時、サーバーは、それが停止するとシステム全体が機能しなくなってしまう「単一障害点:Single Point of Failure」になっています。これに対しP2P型では、各ノードが自律しており、どこかのノードが停止すれば残りのノードでシステムとしての機能を引き継ぐことで、単一障害点を解消しています。

中央で管理しないブロックチェーンは既存の常識を覆す

個々のキーワードについてはイメージがつかめましたでしょうか。これら4つの技術を組み合わせることで、先に挙げた「改ざんが極めて困難」「実質ゼロ・ダウンタイム」「システム構築が安価」を実現しようとしているのがブロックチェーンです。ここで分かるように個々の技術は特に新しいわけではありませんし、不正行為ができないわけでもありません。しかし、これらを上手く組み合わせることで、不正を行うことが時間やコスト的に見合わない仕組みを実現しているわけです。

すなわち、ブロックというデータをP2Pのネットワーク上に分散させることで、障害に強いシステム環境を安価に実現。そのうえでPoWによって、システム全体を監視する中央管理者がいなくても、データの改ざんや不正処理を防止できるようにしています。ブロックチェーンの中で不正を行おうとすれば、参加者全員が悪意を持って一斉にデータを改ざんするなどが必要になりますが、そうしたことが難しいことは内部告発などの例を見ても明らかでしょう。

ただ一方で、現在の社会システムや、それを支える情報システムは、中央管理型の考え方がベースになっています。だからこそ社会の安心・安全が守られている面は否定できませんが、逆に既得権益の温床になっているとも言えます。ブロックチェーンは単に技術的な変革にとどまらず、社会の“常識”にも変革を求める可能性が大きいのです。幅広い応用が期待されているだけに、その影響の範囲は小さくありません。まだまだ技術的な検証が中心のブロックチェーンですが、その動向から目を離すことはできません。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、漆畑 慶将(OKメディア)

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