激変する自動車業界、独BMWがコーポレートVCのBMW i Ventures経由で投資する先

2017.09.12
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自動車を取り巻く環境は今、大きく変化しています。1つは、フランスや英国が宣言した“脱化石エネルギー”。2040年までに、ガソリンや軽油で動く自動車の完全利用中止を求めます。もう1つは自動運転。運転をしなくて良い車の出現は、車の定義そのものの見直しを迫ります。そのため自動車メーカー各社は、これまでになく広範囲に研究開発費を投入するようになりました。独BMWも、その1社。2011年にはコーポレートベンチャーキャピタル(VC)のBMW i Venturesを米国に立ち上げました。一体、どんな分野に投資しているのでしょうか。

未来の自動車社会を作るためにベンチャーキャピタルを設立

BMW i VenturesはBMWグループから1億ドル以上の出資を受けて2011年に活動を始めたコーポレートベンチャーキャピタル(VC)です。米ニューヨークのマンハッタンを皮切りに、カリフォルニア州マウンテンビューと独ミュンヘンにオフィスを構えました。現在の本社はマウンテンビューに置きながら、3拠点体制で活動しています。

同社がこれまでに、23社を対象に27回出資しました。うち16回は2016年以降の実施です(表1)。投資先は様々ですが、自動車本体の開発・製造に関係する企業よりも、一般消費者が自動車を便利に使うためのサービスの提供企業が目立ちます。具体的には、カーシェアリングやライドシェアリング関連が5社、EV(電気自動車)のための充電ステーション運営が2社、乗換案内が2社です。

投資時期 投資先 投資先の事業内容 サービス対象 投資額
(ドル、112円換算)*
投資段階
2011年2月 米MyCityWay 利用者の近くにある飲食店や公共交通機関といった地域の情報を知らせるアプリケーションの運営 B2C 500万
(5億6000万円)
シリーズA
2011年7月 英JustPark 目的地周辺で空いている駐車場を運転手に割り当てるサービス B2C 非公表 シード
ラウンド
2012年5月 米ChargePoint EV(電気自動車)向け充電ネットワークの運営 B2C 4750万
(53億2000万円)
シリーズD
2012年11月 米Embark 乗換案内アプリケーションの運営。2013年に米Appleが買収 B2C 100万
(1億1200万円)
シード
ラウンド
2013年7月 米Chargemaster EV向け充電器ネットワークの運営 B2C 非公表 Venture
2013年7月 米Life360 家族などグループのメンバーの行動を検知し、メンバー全員に伝えるサービスの運営 B2C 1000万
(11億2000万円)
シリーズB
2014年2月 米Summon 利用者が目的地や出発時間を指定すると、適切な個人ドライバーやタクシーを配車するサービスの運営 B2C 非公表 Venture
2014年5月 米ChargePoint EV向け充電器ネットワークの運営 B2C 2700万
(30億2400万円)
シリーズE
2014年11月 米Zendrive 自動車に載せたスマートフォンのセンサーで運転パターンを分析し、悪い傾向を指摘し改善を促すサービスの運営 B2C、B2B 500万
(5億6000万円)
Venture
2015年1月 イスラエルMoovit 歩行者を目的地まで、公共交通機関も利用して案内するサービスの運営 B2C 5000万
(56億円)
シリーズC
2015年9月 米Stratim Systems カーシェアリングやレンタカーの利用希望者に、希望時刻に合わせた業者と車両を提案するサービス B2C 非公表 シリーズB
2016年2月 米Zendrive 自動車に載せたスマートフォンのセンサーで運転パターンを分析し、悪い傾向を指摘して改善を促すサービスの運営 B2C、B2B 1350万
(15億1200万円)
シリーズA
2016年4月 米Ridecell カーシェアリングやレンタカーの利用希望者に、希望時刻に合わせて業者と車両を提案するサービスの運営 B2C 1170万
(13億1040万円)
シリーズA
2016年5月 米Scoop Technologies 希望するルートに合わせて、相乗りできる自動車を割り当てるサービスの運営 B2C 510万
(5億7120万ドル)
シード
ラウンド
2016年7月 米Rever バイクオーナー向けSNSの運営 B2C 非公表 Venture
2016年9月 米Carbon 3Dプリンタのサブスクリプションモデルでの提供 B2B 8100万
(90億7200万円)
シリーズC
2016年10月 米Nauto ドライバーの運転状況を把握したり、道路状況などをクラウドで共有したりができるドライブレコーダーの開発・販売とサービスの運営 B2C 非公表 シリーズA
2016年12月 米STRIVR Labs 業務現場やスポーツの試合会場など特定の場所を対象にしたVR動画の制作 B2B 500万
(5億6000万円)
シリーズA
2017年2月 米Skurt スマートフォンでの予約者に車両を届け使用後は回収する形でのレンタカー事業の運営 B2C 1000万
(11億2000万円)
シリーズA
米Desktop Metal 金属の成形も可能な3Dプリンタの貸し出しなど B2B 4500万
(50億4000万円)
シリーズC
2017年3月 米ChargePoint EV向け充電器ネットワークの運営 B2C 8200万
(91億8400万円)
シリーズG
2017年4月 加Bus.com バスのチケット販売とチャーター便の手配を引き受けるWebサイトの運営 B2C 500万
(5億6000万円)
シリーズA
2017年7月 米Nauto ドライバーの運転状況を把握したり、道路状況などをクラウドで共有したりができるドライブレコーダーの開発・販売とサービスの運営 B2C 1億5900万
(178億800万円)
シリーズB
米Shift 中古車販売Webサイトの運営 B2C 3700万
(41億4400万円)
シリーズC
独Caroobi 自動車補修部品の販売サイトの運営 B2B 非公表 シリーズA
米Xometry ユーザーがアップロードした3Dモデルデータに合わせて、部品を加工販売するサービスの運営 B2B 1500万
(16億8000万円)
Venture
米Proterra 電動バスの製造販売 B2B 5500万
(61億6000万円)
シリーズF
* BMW i Venturesによる単独投資額とは限らない。複数社との共同投資による総額のケースを含む
表1:BMW_i_Venturesの投資実績と投資先。網掛け部分は複数回投資した企業

表1の投資は、BMW i Venturesが単独で実施したものばかりではありません。複数企業が参加する投資団として実施したケースも含みます。表1の投資額は、投資先が受け取った金額です。例えば、2017年7月に投資した米Nautoの場合は、ソフトバンクやGM(General Motors)のコーポレートVCらと共同で合計1億5900万ドル(178億800万円)を出資しています。

そうした中で、何度も出資している企業があります。上のNautoも、その1社。2017年7月の投資は2回目の投資です。3回と最も回数を投資しているのが米ChargePointです。これらは、どういった企業なのでしょう。

EV時代を睨み充電ステーションの運用基盤を抑える

最も投資回数が多いChargePointは、米国を中心に世界に3万8000以上のEV向け充電ステーションの運営会社です。BMW i Venturesのほかにも独Daimlerや独シーメンスも出資しています。EVの普及には充電ステーションの充実は不可欠なだけに、EV化を義務化する国が登場した今後は、充電ステーションの設置件数も増えることは間違いありません。

しかし、他にも充電ステーションを運営する企業があるなかで、ChargePointが注目されるのはなぜでしょうか。その理由は、充電ステーションをChargePointが自ら所有し設置するのではなく、土地の所有者が充電ステーションを購入し事業として運営する仕組みである「ChargePoint Cloud Plans」を確立したことにあります。

充電ステーションの利用料金はオーナーがそれぞれ設定します。オーナーはChargePointのクラウドにアクセスすれば、自身の充電ステーションの稼働状況や売上金額など、35種類以上のデータを確認できます。フル稼働で利用者を待たせているような状況なら料金を高く設定しても良いですし、逆に休眠状態が続いていれば値下げをして利用者を呼び込むといった対策が打てます。しかも充電ステーションは、「Net+ Purchase Plan」という契約なら毎月一定額を支払う形で設置できます。月々の支払い額は充電ステーションから得られる収入で十分賄えるとしています。

充電ステーションの利用者に向けては、スマートフォン用アプリケーションを開発し配布しています。同アプリからは、選択した充電ステーションについて、混雑する時間帯や空いている時間帯が分かるだけでなく、充電中の他の利用者にチャットで状況を尋ねたり、充電の順番を予約し順番が近づけば知らせてくれたりする機能を提供し、利用者の満足度を高めています(動画1)。

動画1:ChargePointが提供するスマートフォン向けアプリケーションの紹介ビデオ(2分16秒)

最大の投資先は高機能ドライブレコーダーのメーカー

BMW i Venturesgaが2度、投資をしたNautoは、ドライブレコーダーのメーカーです。日本でもドライブレコーダーを装着するドライバーが増えていますし、家電量販店などでも販売されています。ただNautoのドライブレコーダーは記録用カメラが車の前方だけでなく社内側にも設けられている点と、クラウドと連携しているのが最大の特徴です(図1)。進行方向前方での事故だけでなく、ドライバーの運転状況や側面/後方からの事故も記録できるほか、過去の運転記録をネット上で共有したり、GPS(全地球測位システム)と連携し道路状況を把握したりを可能にしています。


図1:車内撮影のカメラも備える米Nautoのドライブレコーダーの外観(同社ホームページより)

ドライブレコーダーの前後のカメラで撮影した動画は、記録と同時にAI(人工知能)技術を使った画像認識により、対象物や、その動きを解析しています。前方を映すカメラでは、前を走る車との距離や急ハンドルなどの動きを把握できます。一方の車内を移すカメラでは、ドライバーがちゃんと前方に注意を払っているかを把握します。具体的には、顔の向きを解析することで、脇見運転やスマホを操作しながらの運転などを判断し、前方を見ていない時間が一定値を超えるとドライバーに注意をうながします(製品の特徴を紹介しているビデオ)。

さらにクラウド連携により、過去の運転記録をネット上で共有したり、GPS(全地球測位システム)と連携し、道路に設置されている交通標識の場所を自動的に記録したりすることもできます。ソフトバンクがNautoに投資したのも、このクラウドに集まるデータが狙いだと言われています。ドライバーが運転するにしても、自動運転が一般化するにしても事故のない安全運転を実現するには、より正確な道路地図や道路情報が必要になるからです。

3Dプリンターで顧客のカスタマイズニーズにも対応

各種サービスへの投資が目立つBMW i Venturesですが、2016年以降は、金属加工などの製造技術に特徴がある企業への出資件数が増えています。2016年2月に出資したDesktop Metalが、その一例。金属加工に対応した3Dプリンターのメーカーで、同分野の事業化に積極的に取り組む米GE(General Electronics)なども出資しています。BMW i Venturesは2017年7月には、3Dモデルに合わせた部品の加工・販売を手がける米Xometryにも出資しました。

Desktop Metalへの出資後、BMWグループは「今後は3Dプリンターの技術を、部品製造に活用したい。顧客ごとに異なるカスタマイズニーズに応え、サービスを充実させたい」というコメントを発表しました。Desktop Metalが持つ技術を使えば、一般的な金属向け3Dプリンターの100倍の速度で生産でき、生産コストは20分の1にまで抑えられるとしています。

多くの金属向け3Dプリンターは、金属の粉を印刷しながらレーザーで焼き固めて部品を作ります。これに対しDesktop Metalは2段階で部品を作ります。まず、金属の粉に「バインダー(粉を接着させるもの)」を吹き付けながら印刷し、部品の“形”を作ります。次に、その部品を炉で加熱します。これにより金属の粉を接着していたバインダーを取り除き、金属の粉を高密度に密着させ強度を高めるのです。

Production | Desktop Metal

動画2:Desktop Metalの技術を使った3Dプリンティングの紹介ビデオ(3分17秒)

加熱工程では、金属素材によって異なる融点のデータをクラウドから受け取り、加熱温度を設定します。加熱能力は最高1400℃で、クロムモリブデン鋼、超ジュラルミン(2024アルミ合金)、銅、チタン合金など30種類の素材に対応しています。

自動車を取り巻く社会はどのように変化するのかを予測?!

BMW i Venturesの投資先には、EVの製造や自動運転技術に関わる企業はありません。「次世代の車両はBMW自身が研究・開発する」という役割分担があるのかもしれません。BMW i Venturesの役割は“未来の自動車社会”を支える新しいサービスの創造にあるといえます。

自動で走るEVが普及したときに、私たちが一体、どのようなサービスを求め、どのようなサービスなら対価を払うのかは、まだ分かりません。しかし実際に“その時”が来てからサービスを準備し始めるわけにはいきません。自動運転車の実用化は2020年以降になる見込みですが、BMW i Venturesを持つBMWグループは、来たるべき未来図を描きながらテクノロジーに投資しているのでしょう。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、笹田 仁(ITジャーナリスト)

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