世界の頭脳を共有するブレインシェアの時代、競技型クラウドソーシングを大手企業が活用中

2016.06.22
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「このプロジェクトを成功させるためには、どうしても専門的な知識やノウハウが必要だ。しかし社内を見渡しても頼めそうな人材は見当たらない。このご時世、これ以上のコストは掛けられない」−−。こんな時、あなたならどうしますか?そんな課題を解消できるサービスとして急成長しているのが「クラウドソーシング(Crowd Sourcing)」です。最近は、より高いスキルを調達するために競争型のクラウドソーシングが登場してきています。

発注者にも受注者にも課題が残るクラウドソーシング

クラウドソーシングは、不特定多数の人(Crowd=群衆)に業務委託(Sourcing)するという意味の造語です。ITを活用し、必要な時に必要な人材を調達する仕組みを指します。人材スキルを共有するクラウドソーシングは、新しい働き方を可能にする仕組みとしても注目を集めています。モノや人ではなく、スキルや知識といった分野では「ブレインシェアリング(頭脳の共有)」とも呼べるサービスです。

発注者は主に企業で、アウトソーシングしたい業務をマッチングサイト上で公募します。受注者は何らかのスキルを持った個人事業主(フリーランサー)が中心で、求められるスキルなどの条件に合わせて受注したい業務に応募するのです。しかし、専門業者だけでなく、学生や主婦、定年退職したシニア層など多くのヒトに仕事を発注できることから、コスト重視に偏重しているのも事実。品質の担保が難しく、発注者側からは「仕事の質が不安定」「受注者との意思疎通が難しい」といった声が挙がっています。一方で受注者側にも、買い叩きといった「単価の低さ」や「アイデアの流出」といった問題からモチベーションの低下へとつながるケースも少なくありません。

こうした課題を解決すべき仕組みとして登場したのが競技型あるいはコンテスト型と呼ばれるクラウドソーシングなのです。通常のクラウドソーシングが発注者と受注者を「1対1」でマッチングさせるのに対し、競技型/コンテスト型クラウドソーシングでは、発注者は解決したい問題を“競技の課題”として提示し、それに複数の人やチームが成果物を“回答”として用意します。それら回答の中から最も優れた成果物を発注側が選び、その成果物に対する報酬は“賞金”の形で支払います。

発注者にすれば、解決したい課題と賞金を用意することで、多数の発注者が競い合いながら回答を用意してくれるのですから、うまく使えば、専門家に依頼するよりもよりも安価に、一定レベル以上の成果物を得られる可能性が高まります。一方の受注者にすれば、賞金そのものよりも、競技の場で上位に入賞したということがスキルレベルの自信につながったり、その実績を元に勤務先や就職先に自身の価値ををアピールしたりできるのです。

プログラマーが腕を競うTopcoder

競技型クラウドソーシングの代表例をいくつか紹介しましょう。最初は、システム開発に特化した「Topcoder」です。ここにはプログラマーやシステムエンジニア、Webデザイナーなど、システム構築に関係する各分野の専門家が世界中から登録しており、その数は90万人超。登録者の中には、一般的なSI(System Integrator)には属さない世界でもトップレベルのプログラマーも存在します。

トップレベルのプログラマーの力量には目を見張るものがあります。例えば、ハーバード大学の医科大学がDNAの解析用ソフトウェアの開発をテーマに実施した競技では、ハーバード大が年俸12万ドルで雇ったプログラマーが1年をかけて開発したソフトウェアでは2845秒掛かっていた処理が、Topcoderで開発したソフトウェアでは16秒にまで短縮。しかも同競技に提供した賞金は、わずか6000ドルでした。解析精度も0.77から0.80へとわずかとはいえ向上しています。

他にもTopcoderでは、オークション大手の米eBayがモバイルアプリケーションを開発したり、NASA(米航空宇宙局)が国際宇宙ステーション(ISS)の太陽光パネルの発電効率を高めるプログラムをTopcoderで開発したりする競技を実施しています(動画)。日本でも2016年1月、日本ソフトバンクが国際募金プラットフォームのプロトタイプを研究開発するための競技をTopcoderで開催しました。

動画:NASA(米航空宇宙局)は国際宇宙ステーション(ISS)の太陽光パネルの発電効率を高めるプログラム開発をTopcoderで実施した

データサイエンティストの世界最大コミュニティとなるKaggle

データサイエンティストが集う世界最大のコミュニティ「Kaggle」も競技型クラウドソーシングの一例です。Kaggleには、情報科学や統計学、経済学、数学などの分野から全世界で約96万人のデータサイエンティストが登録しています。統計学者やプログラマーだけでなく、一般企業に属するデータサイエンティストなども参加しています。競技の参加者は多様な手法を試しながら、最適なモデルの構築を目指して競い合います。それぞれの回答は即座に採点され、上位者からWebサイトに掲載されます。Top10に入ると「Kaggle master」という称号が与えられるのもモチベーション向上につながっています(図1)。

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図1:KaggleのTop10(2016年6月15日時点)を紹介するページ

Kaggleでは、AmazonやFacebook、Walmartといった米大手企業が各種コンペを実施しています。民泊で話題の米Airbnbも「新規ユーザーの予約行動分析」というコンペを実施しました。日本企業では2015年7月に、リクルートホールディングスがデータ予測コンペ「RECRUIT Challenge – Coupon Purchase Prediction」を共催したのが最初です。

大企業とスタートアップを競争型で結び付けるCreww

日本でも新しい形の競争型クラウドソーシングが始まっています。「オープンイノベーションプラットフォーム」を掲げるCrewwが手がける「Crewwコラボ」がそれです。Crewwは、大手企業とスタートアップ企業の共創をうながすマッチングサイトで、2000以上のスタートアップ企業が登録しています。その中でCrewwコラボは、大企業がスタートアップ企業と取り組みたいプロジェクトおよび提供できるリソースを提示。それに対して複数のスタートアップ企業が自身のアイデアや実施計画を提案し、大手企業が組みたい相手を選ぶという競争型のスタイルを導入しています。

例えば食品メーカーの森永製菓は、「チョコボール」のキャラクターとしてお馴染みの「キョロちゃん」を使ったアプリケーションを知育アプリを開発するキッズスターと共同で開発しました(図2)。他にもスポーツニッポン新聞社や読売新聞といったメディア企業が新しいビジネスモデルを作ったりマーケティング活動を推進したりするためにCrewwコラボを利用しています。

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図2:6月に実施中のcrewwコラボの一覧

優秀なブレインの共有が不可欠になっていく

Creww以外にも、用途に合わせた専門性の高い競争型のクラウドソーシングが増えてきています。例えば、専門知識やノウハウを持っていない一般の人がアイデア一つで参加できるプラットフォームである「blabo」や、日本全国の様々な得意分野を持つクリエーターに募集をかけ、お気に入りのクリエーターに映像制作を頼める「Viiber」といった映像制作に特化したプラットフォームなどです。

クラウドソーシングを利用すれば、企業や事業者は、自社で不足する経営資源を補えます。個人や小規模事業者の利用から広がり始めましたが、最近は上記の例にもあるように、大企業が人的スキルの定常的な調達手段として採り入れ始めています。

日本企業はこれまで、社内人材による取り組みを重視してきましたが、少子化という大きな流れの中、グローバル社会で生き残るためには、自前主義に頼らず、優秀なブレインを共有し、積極的にシェアリング文化を受け入れていくことが必要かもしれません。

執筆者:丁 晟彦(Digital Innovation Lab)、高橋 ちさ(ジャーナリスト)

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