製造業からソリューションプロバイダーへ、デジタル変革で“変身”目指すブリヂストン

2017.11.02
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世界最大のタイヤメーカーであるブリヂストンが、デジタル変革を加速させています。目指すのは、タイヤを製造・販売する会社から顧客にソリューションを提供する企業への“変身”。そのために、生産現場にデータサイエンティストを投入し、ものづくりの革新を進めると同時に、顧客企業の生産性向上を支援するソリューションの開発に力を入れています。どんなソリューションを提供しようとしているのでしょうか。

製品だけでは差別化できない、“ソリューションプロバイダー”になる

ブリヂストンのデジタル変革をリードするのは、同社執行役員でCDO(最高デジタル責任者)の三枝 幸夫 氏。デジタルソリューションセンターを担当します。その三枝氏がブリヂストンの取り組みについて2017年10月13日、東京・有楽町で開かれた「ITPro EXPO 2017」(主催:日経BP)で講演しました。同内容から同社の取り組みを紹介しましょう。

スポーツ用品なども手がけるブリヂストンですが、売り上げの8割を占めるのは主力のタイヤ事業です。しかし、そのタイヤ市場は新興国のメーカーが台頭してきたことで大きく変化しています。ブリヂストンを筆頭とするタイヤメーカー上位3社の市場シェアは2005年に50%を超えていたものが、2015年に50%を切り、以後もシェアを落としています。

そうした中でブリヂストンは、製品の差別化を図ってきました。パンクしても一定距離を安全に走行できる「ランフラットタイヤ」やEV(電気自動車)が求める低燃費タイヤなどのための技術を開発しました。ただ一方で、タイヤ市場はコモディティ化(日用品化)が進行しています。そこでブリヂストンは「製品の性能だけでは差別化は続けられない」(三枝氏)と2年前に判断。ソリューションプロバイダーへの“変身”を決断します。

目指すのは、「顧客と一緒に困りごとを解決し、新しい価値を生み出せるソリューションビジネスの提供」(同)です。ソリューションプロバイダーへのロードマップとしてブリヂストンは以下の3つのステージを設定しています。

ステージ1=Digital for Bridgestone:自社のものづくりを革新する
ステージ2=Digital for Customers:顧客に提供するソリューションを開発する
ステージ3=Industry level Ecosystem play:顧客やパートナーと連携してエコシステムを形成する

Digital for Bridgestone:改善活動をデジタルでグローバル展開

第1ステージのターゲットは、ものづくりの生産性向上です。すでにAI(人工知能)を使ってタイヤを全自動で成型する装置「EXAMATION(エクサメーション)」を開発。2016年5月から滋賀県の彦根工場で稼働しています。センサーを用いてタイヤから2000項目以上のデータを取得することで、最終調整も含めた完全自動化を実現。品質のバラツキも20%改善できました。


写真1:全自動のタイヤ成型システム「EXAMATION(エクサメーション)」(提供:ブリヂストン)

これまでもタイヤの生産では機械化・自動化を推進してきました。ですが、仕上げの最終調整はベテランの技能員が手動で対応していたのです。EXAMATIONでは、取得したデータをAIで分析し、タイヤ生産の完全自動化を実現しました。

データ分析は、新製品の立ち上げ時に発生した不良の削減にも効果を発揮しました。当初、ベテランの技術者が不良品の発生要因を突き止めようとしましたが、うまくいきませんでした。そこで生産現場にデータサイエンティストを派遣したところ、データ解析によって製品の品質を左右するパラメーターが80個以上あることを見出します。さらにパラメーターの最適な組み合わせを分析することで、ベテランの技術者が気づかなかったパラメーター組み合わせによって製品の不良を削減できたのです。

動画1:ブリヂストンのタイヤ開発体制を紹介するビデオ(5分51秒)

こうしたデジタルの力を同社は改善活動にも活用する考えです。三枝氏によれば「改善活動の成果は現場の知見・ノウハウの固まりであり、グローバルに展開することが難しかった」のですが、ここにデジタル技術を取り入れれば改善活動のグローバル展開が可能になるとみています。

具体的には、(1)センサーで得た生産現場のデータをデータサイエンティストが解析して、よい良いものづくりの方法を予測する、(2)予測した方法をシミュレーションによって検証する、(3)検証済みの生産手法を生産現場に適用し高精度なものづくりを実践する、というループを回していきます。三枝氏は「改善活動自体をデジタル化することで、改善活動の結果をグループに展開するという世界が見えてきた」と話します。

Digital for Customers:顧客のビジネスの停止時間を削減する

顧客の困りごとを解決する「Digital for Customers」においてもセンシング技術やデータ分析を適用します。その一例が鉱山向けのソリューション。南米やオーストラリアなど巨大な鉱山で働く超大型のトラックをテレビなどでみた読者もいるかと思います。その超大型トラックのタイヤがパンクすると、鉱山の操業自体が停止します。鉱山向けソリューションは「顧客のビジネスのダウンタイム」を困りごとととらえているのです。

動画2:鉱山向けソリューションで使う「B-TAG」の紹介ビデオ(2分31秒)

鉱山向けソリューションでは、「B-TAG(Bridgestone Intelligent Tag)」と呼ぶセンサーをタイヤに装着し、タイヤの温度や圧力をリアルタイムにモニターしています。このセンシングデータを分析したところ、採取している鉱物の種類によってタイヤの寿命が異なることや、トラックの型式やタイヤの取り付け場所の違いによっても寿命に偏りが生じることが分かりました。そこからブリヂストンはタイヤの使われ方に応じた最適なメンテナンスプログラム「TreadStat」を作成し、ダウンタイムの削減につなげました。

乗用車の安全・安心に向けたセンシング技術「CAIS(Contact Area Information Sensing)」も開発しています。タイヤに加速度センサーを取り付け、路面の状態を判別します。「人が足の裏で道路の状態を感じているように、タイヤにも同じ機能を持たせた」(三枝氏)わけです。

CAISはネクスコ・エンジニアリング北海道と開発した「ISCOS(凍結防止剤自動散布システム)」に採用されています。CAISを搭載した車両が走行することで路面の状態を7種類に判別。それに応じて散布車両に積載する路面凍結防止剤の量を最適化します。「CAISは色々な可能性を持っている。安全・安心なモビリティ社会に貢献できる」(三枝氏)として、CAISの適用範囲を拡大したいえです。

Industry level Ecosystem play:顧客らとエコシステムを形成する

最終段階は、顧客やパートナー企業とエコシステムを形成することです。三枝氏は「デジタルトランスフォーメーション(変革)はブリヂストン1社では進められない。様々な技術を持ったパートナーの協力が不可欠だ」と強調します。

製品のコモディティ化は、タイヤに限ったことではありません。そこへの対応策としてブリヂストンは、センシング技術やAIというデジタル技術と、顧客やパートナー企業が持つ技術や知見を融合させるという方法を選択しました。デジタル変革を進める多くの日本の製造業にとって、ブリヂストンの取り組みは参考になることでしょう。

執筆者:小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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