米国で広がるCivicTech、テクノロジーで地域課題を解決〜CIVIC TECH FORUM 2016より

2016.04.11
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「シビックテック(CivicTech)」あるいは「シビックテクノロジー」という言葉をご存じでしょうか。テクノロジーを使って市民が地域課題を解決するための取り組み、あるいはそのためのテクノロジーのことです。海外ではCivicTechによる地域課題への取り組みが広がってきていますが、日本ではまだまだ認知度が低いのが実状でしょう。シビックテックについて語りあう「CIVIC TECH FORUM 2016」が、この3月27日(日)に東京港区で開かれました。シビックテックとは、どのような活動なのか、同FORUMの会場から報告します。

シビックテックの神髄は「公を助けて、公に頼らず」

基調講演に登壇したのは、「エリア・イノベーション・アライアンス(AIA)」を運営する木下 斉 氏。AIAは、地域を事業で変えようとしているプレーヤーたちが立ち上げた活動体です。地域課題の解決というと行政などの力を借りることを思い描きがちですが、木下氏は、「シビックテックの神髄は『公を助けて、公に頼らず』だ」と言い切ります(写真1)。

写真1:基調講演で話す「エリア・イノベーション・アライアンス(AIA)」を運営する木下 斉 氏
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同氏がこのように断言できるのは、苦い経験があるからです。シビックテックに木下氏が触れたきっかけは1998年、東京・早稲田商店会の活性化に環境を切り口に関わったことです。同商店会ではゴミのリサイクル拠点となる「エコステーション」を設置。その活動が全国に波及していきます。その後、木下氏は全国商店街が共同出資する会社の設立に参画し、街づくりに取り組むことにしたのですが、「ここで大きな失敗をした」と語ります。

その失敗とは、「素晴らしい取り組みなので全国に拡げてほしい」という国からの委託事業を受けてしまったこと。「年間1500万〜2000万円という予算が付き、それまで“手弁当”で行ってきたことをすべてお金で解決するようになった。それが当たり前になると、以前のように『手弁当で』と言っても同じモチベーションが働かない。交付金をもらうことは一見、近道に見えるが、それで滅んでいったプロジェクトがたくさんある」と警鐘を鳴らします(写真2、木下氏の講演動画)。

写真2:木下氏の講演をまとめたグラフィックレコード
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「自己解決」の考え方を身につける必要がある

米国などでは国などに頼ることなく、様々なシビックテックの活動が広がっています。一例として木下氏が挙げるのが、米ニューヨークのタイムズスクエアなどでの治安維持サービス。土地や建物を所有している人たちがお金を出し合って軍や警察出身の警備員を雇用し、各ビル内の警備体制を強化すると同時に街全体の治安を維持しています。

ほかにも、ホームレスの社会復帰をサポートするビジネスモデルを構築・運営するbreaking groundや、公園を民間が作れるように、公園のレシピなどランドスケープデザイン(景観設計)をオンラインでサポートするKaboom!などもあります。

「これらの事例から分かるように、シビックテックでは『自己解決する』という考え方を身につけることが大事。困ったことがあると役所にアウトソーシングするという精神構造を変えないと日本ではシビックテックは育たない」と木下氏は強調します。そのうえで重要なことは「町は会社と同じ。余剰を残し再投資するという経済循環の原則を意識して活性化に取り組むこと」(木下氏)だと言います。従来とは異なる仕組みを作り上げるために、いかにテクノロジーを活用するか−−。それこそが、「シビックテックに期待されているところ」(木下氏)なのです。

多くの人々の生活を改善するためにテクノロジーを使う

木下氏の講演後、『米国シビックテックをめぐるエコシステムとコミュニティの可能性』というタイトルで開かれたトークセッションでも、米国におけるシビックテックの動向や事例が、さらに詳しく紹介されました。同セッションに登壇したのは、ソーシャルカンパニーの代表でMeetupコミュニティのマネージャーでもある市川 裕康 氏と、Code for Ibarakiの柴田 重臣 氏です。

写真3:トークセッションに登壇したソーシャルカンパニー代表の市川 裕康 氏と、Code for Ibarakiの柴田 重臣 氏
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シビックテック分野で米国最大級のコミュニティカンファレンスに「パーソナル・デモクラシー・フォーラム(PDF)」があります。市川氏は、このPDFに3年連続で参加してきましたが、2015年のPDFにおいて主催者が「シビックテックとは、少数ではなく多くの人々の生活を改善するために使われるあらゆるテクノロジーである」と定義づけたと紹介しました。

その好例が、今から約120年前に米国人ジャーナリストのジェイコブ・リース氏が、フラッシュカメラを使ってスラム街の様子を撮影したこと。当時のスラム街の劣悪な環境と、そこに住まざるを得ない移民の姿に光を当てたことで、後の問題解決を促すことにつながったからです。

最新事例としては「Crisis Text Line(クライシス・テキスト・ライン)」というサービスが挙げられました。若者が抱える鬱や自殺未遂、過食症、いじめなどの悩みをテキストメッセージで受け付け、専門のカウンセラーが応対するもの。サービス開始からの3年間で1日平均2万件のテキストメッセージが届いていると言います。蓄積した1500万件以上の問い合わせ内容については、自然言語処理技術を使って分析・解析することで、実際の支援に活用しています。

様々な分野でシビックテックビジネスが成立

上記のように米国では種々のシビックテックが登場しています。市川氏と柴田氏によれば、米Knight Foundation(ナイト財団)がシビックテックを表1のように11分野に分類しています。

表1:シビックテックの分類と代表的な企業の例
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利用しているテクノロジーとしては、可視化やビッグデータなどが目に付きますが、クラウドファウンディングや署名活動、さらにはデジタルイノベーションの先駆者として有名になった“民泊”の米Airbnbもシビックテックに分類されています。

代表例に挙がる企業のなかには、大規模な資金調達実績を持つ企業が少なくありません。具体的には、Code for Americaが1100万ドル、Change.orgが1500億ドル、wazeが3000万ドル、Nextdoorが4000万ドルをそれぞれ調達しています。Airbnbに至っては、その調達額は1億1800万ドルに上ります。ビジネスとしても成長し、エコシステムも整いつつあるようです。

しかし市川氏は、「今目にしているのは、19世紀の制度(政府)で20世紀のテクノロジーを活用して21世紀の問題に対処しようとしている状態だ」と、PDFで語られた言葉を引用しました。つまり「もっと大きな変化が必要」というわけです。柴田氏も「シビックテックは、評価されないボランティア団体になってしまいがち。実際に社会の評価を得られるだけの結果をいかに出していくかが、これからの課題だろう」と指摘します(写真4、同氏がFORUMで使用したプレゼン資料)。

写真4:市川氏と柴田氏のトークセッションをまとめたグラフィックレコード
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いかがでしょうか。米国では、こうしたシビックテックの活躍によって地域の課題が解決されている、あるいは地域の課題解決が全国に広がっているのです。後編では、CIVIC TECH FORUM2016で紹介された日本のシビックテックの最前線をお伝えします。

執筆者:中村 仁美(フリーランスライター)

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