ドローンやbeacon使い日本でも本格化するCivicTech、資金の調達先にも広がり〜CIVIC TECH FORUMから

2016.04.19
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テクノロジーを使って地域の課題を解決するCivicTech(シビックテック)。前回は、東京港区で3月27日(日)に開かれた「CIVIC TECH FORUM 2016」のセッションの中からが、CivicTechが誕生した米国での動向などを中心にお伝えしました。今回は、同FORUMで報告された日本の最新事情をお伝えします。

社会的課題の解決に取り組むソーシャルベンチャーの資金調達事情

米国におけるCivicTech市場は2015年に64億ドル(約8000億円)と言われています。一方、日本におけるCivicTechは、ようやく本格化しようとしている段階。ベンチャー企業などがCivicTechに取り組み始めていますが、そこでの大きな課題の1つが、資金調達です。CivicTechを巡る国内の資金調達環境は今、どうなっているのかについて、FORUMではパネルディスカッションが開かれました(写真1)。

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写真1:CivicTechを巡る国内の資金調達環境に関するパネルディスカッション

パネラーには、Coaido代表取締役 CEOの玄正 慎氏と、AsMama代表取締役の甲田 恵子氏、NPO法人発達わんぱく会理事長の小田 知宏氏、ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京 代表理事の岡本 拓也氏の4人が登壇。SVP東京のパートナーであり、ループス・コミュニケーションズのコンサルタントである加藤たけし氏がモデレータを務めました。

なおCoaidoはAED(自動体外式除細動器)を心停止の発生現場に素早く届け救命率を高めるためのシステム「FR System」を開発。AsMamaは送迎や託児を顔見知り同士で頼り合う「子育てシェア」という仕組みを、発達わんぱく会は発達障害の早期発見・療育のための「こころとことばの教室こっこ」をそれぞれ運営しています。SVP東京は、CivicTechなど社会的課題の解決に取り組む革新的な事業に資金を提供し経営を支援しており、CoaidoとAsMamaにも投資しています(投資先一覧)。

最近の資金調達状況について、玄正氏は「転換社債型新株予約権付き社債を発行することでMistletoeの出資を受けられ、非常にラッキーなことだった。共同創業という形で経営面や人的な面も含めて支援してくれるので非常に助かっている」と語ります。Mistletoeは、代表である孫 泰蔵氏の個人資産を原資に、投資だけでなくスタートアップ同士が共同で創業するための場「スタートアップスタジオ」を提供する支援会社です。

「外部資金は、2015年9月に獲得したのが初めて。日本財団とSVPから組成される日本ベンチャー・フィランソロピー基金からの経営的・経済的支援です」というのは甲田氏。前職が投資会社のIR(Investor Relations)だっただけに「融資も投資も受けた瞬間からエグジットを考えなければならず、ミッションがぐらつくと考え、まずは自立自走できるビジネスモデル作りに専念しました。それが実現したので外部支援を受けることにしました」と、その理由を話します。

小田氏は逆に多様な資金調達支援を受けてきました。「私たちの事業では新しく教室を作るのに2000万円ぐらいかかるため、日本政策金融公庫や福祉医療機構、ベンチャーサポート、西武信金などから長期融資という形で調達しています。ほかにも、日本財団やETIC、SVP東京、SIP、FIT、市の補助金などの助成金も受けています。2年半で回収し返却しています」(小田氏)。

岡本氏は「最近は資金調達先の広がりが見えている。特に社会的に意義のある団体には資金が集まりやすい」と語ります。米国ではコレクティブインパクトと言って、行政や企業、NPO、財団など立場の異なる組織が互いの強みを出し合い社会的課題の解決を目指すアプローチが主流になっています。「日本も今後は、コレクティブインパクトが主流になっていくはずで、CivicTechビジネスにはチャンスがたくさんあるはずだ」として、パネルを締めくくりました。

ドローンやbeaconなど最新技術の活用事例が次々と

日本でも資金調達先が広がっているというCivicTech。その一端を示すかのように、スタートアップ企業による実証実験段階にある事例が紹介されました(写真2)。

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写真2:CivicTechを巡る国内スタートアップの取り組みに関するグラフィックレコード

その1つが、MIKAWAYA21が徳島県中町で実証実験中のドローンを使った宅配サービス(写真3)。同社は全国の新聞販売店をネットワーク化し、60才以上のシニアの“ちょっと困ったこと”を解決するサービスを30分500円で提供しています。「より細やかなニーズに応えたい」(代表取締役の鯉渕 美穂氏)との思いからドローン宅配に乗り出しました。課題は山積しているものの「自治体やドローンの開発メンバーと共に、2018年の実用化を目指す」(同)計画です。

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写真3:ドローン宅配に取り組むMIKAWAYA21代表取締役の鯉渕 美穂氏

福島県会津に本社を置くデザイニウムが県内の宮下地区建設業協同組合と共同開発したのが、「除雪車位置情報把握システム」。非常に雪深い同地域でも除雪事業者が減り道路の維持管理が難しくなっているという課題を解決するために、雪上車の位置を地図上にリアルタイムに表示する仕組みです。GPSトラッカーと、IoT向けのデータ通信サービスである「SORACOM Air SIM」、米Googleのモバイル用アプリケーションの開発環境「Firebase」などを使って実現しています。代表取締役の前田 諭志氏は「システムにより問い合わせが不要になりました。「将来的には市民にも直接、公開することも検討している」と話します(写真4)。

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写真4:除雪車位置情報把握システムを開発したデザイニウム代表取締役の前田 諭志氏

ottaの代表取締役社長である山本 文和氏が紹介するのは、社名と同じ名を冠した見守りサービスの「otta」。beaconを使った見守り専用端末が発する電波を専用アプリを導入したスマートフォンで受信し見守る仕組みです。これまでの実証実験では、位置精度の向上が課題であることが分かっています。見守る側のスマートフォン所持者の数をいかに増やすかが鍵です。2016年夏に大阪府箕面市の全小・中学生約1万1000人を対象に実施する実証実験では、高齢者にも端末を配付する予定です。山本氏は「安心して笑顔で暮らせる世界を作りたい」と語ります(写真5)。

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写真5:見守りサービスを手がけるotta代表取締役社長の山本 文和氏

地域課題の解決に取り組むのはベンチャー企業だけではない

CivitTechはベンチャー企業の専売でもありません。「ローカルと大企業のシビックテック」と題して登壇したのは、リクルートホールディングスで「Media Technology Lab.」の室長を務める麻生 要一氏です(写真6)。「社会課題をビジネスで解決する」をミッションに掲げるリクルートでは、「社会課題を解決するためには地域課題を解決することだ」(麻生氏)との考えから、2015年の1年間に各地でCivicTechに取り組んできました。

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写真6:リクルートにおけるCivicTechへの取り組みを紹介するMedia Technology Lab.室長の麻生 要一氏

千葉県柏市と三井不動産と連携した「Smart City Innovation Program」が、その一例。麻生氏が「新事業開発を秘密裏に進めるのが常識だった大企業では、ありえなかった画期的な取り組み」と紹介するように、会社として「やるかどうかも分からないアイデアの種レベルのものを持ち込み、市民の意見を聞きながらサービス化していく」(同)というものでした。

「コクリ!プロジェクト」という、塩尻市とソフトバンクと連携した取り組みでは、2泊3日で市の課題解決策を検討する「地方創生協働リーダーシッププログラム」を実施。施策なども提言しました。育児も仕事をしやすい世界を作る「iction!(イクション)」プロジェクトでは、「CoPaNa」「casial」「カムバ」といったサービスやアプリをリリースしました。CoPaNaは、保育施設の一時保育検索予約サイト、casialはカジュアルな家事支援サービス、カムバは妊娠/出産から職場復帰までを応援するアプリです。

2015年の活動について麻生氏は、「地域課題を解決する技術で大事なのは運用です。使いやすいサービスを作ることに頭を悩ませるよりも、どうやって教え方をフロー化するかに時間を割くことが重要になります」と振り返ります。そしてCivicTechを成功に導くためには、「先進的な自治体や市民団体に協力を仰ぎ、小さな事例を積み上げることがポイントだ」と麻生氏は強調します(写真7)。

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写真7:リクルートのCivicTechへの取り組みについてのグラフィックレコード

2015年は日本の“CivicTech元年”だった!?

スタートアップやリクルートによる各種取り組みが示すように、「2015年は日本のCivicTech元年」と呼ばれるほどに、数々の活動が盛んに行われたようです。本FORUMの主催者でCode for Ibarakiの代表でもある柴田 重臣氏は、「CivicTechの実践では、文化や意識を変えていかなければならないといった困難もあります。それに負けることなく活動を拡げていきたい」と力強く宣言し、FORUMを閉めました(写真8)。2016年には、どんなCivicTechが地域課題を解決していくか。注目は続きます。

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写真8:CIVIC TECH FORUM 2016終了時の参加者を交えた集合写真

執筆者:中村 仁美(フリーランスライター)

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