ビジネスの変遷から知る「共創」の意味、データと相俟ってデジタルビジネスの必然に

2016.07.07
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「共創(コ・クリエーション)」−−。この言葉を聞いて、読者の皆さんは何を想起するでしょうか?「どんどん実践していく必要がある」という前向きな考えの一方で「先行きが見えない時代に生まれた単なる流行語では?」とか「単独で事を成し遂げられない企業が取り組む、いわば弱者連合だ」といった皮肉っぽい見方をしているかも知れません。「ITベンダーなどが顧客を巻き込むための新たな方便」という観点もあり得るでしょう。

ビジネスモデルイノベーション協会で代表理事を務める小山龍介氏(名古屋商科大学大学院ビジネススクール准教授)は、そんな見方を一蹴します(写真1)。「ビジネスモデルの変遷を研究すると、共創は今日、企業において必然の取り組みであることが分かります。もはや単独でできることには限りがありますから」が、その理由です。流行語や方便などではなく、必然=必ず実践するべきことだというのです。それは一体どういうことでしょうか?

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写真1:「共創」について話すビジネスモデルイノベーション協会 代表理事の小山 龍介。名古屋商科大学大学院ビジネススクール准教授でもある

小山氏は、ビジネスモデルの変遷を3つの時代に分けて、次のように解説します。第1は1970年代から80年代。世界経済は右肩上がりで日本は高度成長の時代であり、企業は組織の中核能力をもって変化や競争に対応しました(写真2)。「例えば原油価格が急騰したオイルショックがありましたが、そのとき日本の自動車メーカーは低燃費の小型車を作って輸出し、成長を実現しました。製品を改良して難局に立ち向かったのです」(小山氏)。頑張れば報われる時代だったわけです。

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写真2:1970年代から80年代のビジネスモデルは「中核能力モデル」

しかし90年代から2000年代に入ると、そうした正攻法だけでは必ずしもうまくいかない状況が出てきます。デジカメの出現による市場の消滅という事態に見舞われた写真フィルム業界が、その典型例。写真フィルムを小型化したり品質を高めたり努力をしても需要がなくなるのですから、どうしようもありません。これが第2の時代です。コンピュータ業界で言えばオープン化の波であり、努力だけでは対応困難な事態です。

そんな中、写真フィルム最大手だった富士フイルムは蓄積した化学技術を生かし、液晶の素材や化粧品などへと中核事業の転換に挑みます。コンピュータ業界ではハードウェアのコモディティ(日用品)化に見舞われた米IBMがPC事業などを相次ぎ売却し、上流のコンサルティングにシフトします。「その結果、IBMは今や世界で最も多くのデザイナーを擁するデザイン会社になりました。米GE(General Electric)は、製造業から金融サービスに事業の軸足を移します」(小山氏)。

こうした事業の中身を入れ替えるほどの変化対応を小山氏は「自己組織化」と表現します。既存事業の頑張りや努力では追いつかないほど環境の変化が大きい。それに対応するには、自己を変えるしかないわけです。そのベースになる技術や資産を持っていないとできないことですが、確かに中核事業そのものを大きく変えた例と言えるでしょう。

2000年代後半になると、より大きな変化が企業を襲います。中でも大きいのがモバイルやクラウド、ビッグデータといったITの普及です。多くの消費者がモバイルデバイスを持つようになり、製品やサービスの提供者である企業よりも情報力が上回るようになりました。一例が小売業を悩ませる“ショールーミング”です。通信や放送、金融などの業界でも、安定的に消費者がサービスを使い続けてくれることは期待できなくなりました。

努力による正攻法は自己組織化を持ってしても、対応できない事態が増えてきます。例えば携帯電話で一世を風靡したフィンランドのNokia。スマホ時代に対応すべく自己変革を試みましたが、事業そのものを米Microsoftに売却して撤退する羽目になりました。米Appleや韓国のサムスン電子に勝てなかったのです。その両社も今日では、スマホ市場の成熟や低価格志向に悩まされています。

ではどうすればいいのか。その答えを小山氏は「オートポイエシス(autopoiesis) + α」と表現します(写真3)。オートポイエシスは「自己創出」と訳され、内部と外部の境がないという意味です。自社技術やリソースを前提に事業を考えるのではなく、その枠を取り外して考える。「どんなことが出来れば便利なのか」「お金を出してもらえるのか」などです。ある意味で徹底した顧客志向と言えるかも知れません。

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写真3:2000年代からは「オートポイエシス(autopoiesis) + α」モデルに

「ここで起きているのが共創です。Appleは外部のアプリケーション企業やレコード会社などと共創して、iTunesやアプリ市場を築きました。しかし同社は端末で収益を得る方針で、iTunesでは利益を出していません。手数料を徴収するにせよ、サイトの運用費がかかるからです。決済サービスのApplePayでも利益は小売会社やカード会社に分配して1円も儲けていません。外部業者をパートナーとし、エコシステムを形成しているのです」

顧客の立場に立ち、使ってもらえるサービスを考える。自社だけでは不可能でも他社と共創すれば可能になる−−。そんな事業モデルです。そういう視点で見れば、部品メーカーをパートナーとして建機の予防保全を提供するコマツも、自動車の個人オーナーと車に乗りたい人をマッチングする米Uber Technologiesも、あるいは空いている不動産の部屋を旅行者に提供する米Airbnbも、共創モデルの一形態と捉えられます。あるいは自社ができる範囲での顧客志向でなく、顧客の立場で使ってもらえる何かを提供している言った方が良いかも知れません。

ただし、これで終わりではありません。小山氏は「因果モデルから縁起モデルへ向かう」と指摘します(写真4)。難しい言葉ですが、因果とは原因と結果。便益が1対1で対応する旧来のモデルです。これに対して縁起モデルとは、縁(つながり)を基盤としたエコシステムというべきものです。「与贈循環という表現もできますが、見返りを求めない働きを場に対して行うことで場が豊かになることはイメージできるでしょう。自然界では植物の光合成など、この与贈循環が上手く動いているのです」(小山氏)。

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写真4:今後は「因果モデル」から「縁起モデル」に向かっていく

「場」、つまり「共創のエコシステム」への参加者が、自ら儲けることを優先するだけでは与贈循環を作れません。共創に取り組む時、この点には注意が必要です。モデルとしてどんなに優れていても、それが因果モデルに留まれば「価値の交換」に終わります。拡大する方向に動かすには縁起モデル、与贈循環が必要なのです。

では企業同士の共創において与贈循環を生み出すには何が必要でしょうか?これは小山氏の指摘ではなく、筆者の私見ですが「データや情報、ナレッジの扱いが重要だ」と考えられます。「データを抱え込んで提供しない、あるいは提供できない共創は存立できない」とも言い換えられます。

どんなに考え尽くして構想した製品やサービスも、変化や競争の中では、すぐに陳腐化しかねません。常に利用者の動きをチェックし、仮説を立て、サービスの改良や新しいサービスの提供をやり続ける必要があります。その時、最も大事なものの1つがデータであることを考えれば、共創とデータの関係は明らかでしょう。また「縁」をデータと捉えれば、縁起モデルの理解が容易になります。

いかがでしょうか?「共創」という言葉を取り上げたのは、小山氏の話がとても腑に落ちるものだったこと、それに共創とデータ共有を旨とする縁起モデルは日本の企業風土にピタリと適合するのではないか、と考えられるからです。本記事を読んでいただいた皆様には共創への取り組みを加速させ、イノベーションにつなげていただくことを願っています。

なお、以上の小山氏の話は、6月中旬に開催された「C3 Conference」における同氏の基調講演『共創の場を生み出すためのビジネスモテル思考』によるものです。同氏は上記で紹介した企業以外にも様々な研究エピソードを披露しましたが、本記事では多くを割愛しました。またC3 Conferenceの「C3」は「Change by Creative Collaboration」の略で、IIBA日本支部やITコーディネータ協会、日本PMO協会などが共催しました。各団体にお礼申し上げます。

執筆者:田口 潤(IT Leaders)

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