スマホ決済サービスの今と将来を知る “ライアビリティシフト”はチャンス?それともリスク?

2016.02.10
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コンビニエンスストアでは多くの人が電子マネーで商品を購入し、交通機関でもSuicaやPASMOなど交通系電子マネーが普及している。プリペイドカードやコンビニ収納なども幅広く利用されている。“ポイント”という、ある種の仮想通貨もある。最近、よく話題になる“FinTech”(金融とテクノロジーの融合)という言葉を持ち出すまでもなく、決済手段の多様化は日々進化している。

しかし、一方で日本では今なお現金による決済が主流なのも事実である。2014年の日本の個人消費における決済手段は現金が51.9%、クレジットカードは15.0%に留まる(クレディセゾン調べ)。デビットカードや電子マネーなどを合わせても19.9%でしかない。これに対し米国(2013年)は現金がわずかに17.4%、クレジットカード(27.8%)とデビットカード(23.6%)を合わせると50%を超える(残りは小切手)。

こうした中で普及しつつあるのが、タブレットやスマホ(スマートフォン)にクレジットカード読み取り用の「ドングル」を装着するだけでOKの決済サービスだ。電話回線の接続が必要な据え置き型のクレジット決済端末に比べると、手軽さは圧倒的。スマホ・タブレットの通信機能を利用するため、店舗内はもちろん屋外でも利用できる。

日本では、コイニーが「Coiney」と呼ぶサービスを2012年10月にスタート。直後の12月に楽天が「楽天スマートペイ」という名称で参入した。その後、外資系大手も相次ぎ参入し、2013年3月にPayPal Japanがスタートした「PayPal Here」(IC決済対応を見送るため2016年1月にサービス終了)、2013年5月にスタートしたスクエアの「Square」などが、市場拡大を競っている。

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こうした手軽な決済サービス(ここでは「スマホ決済サービス」とする)は、どこまで普及し、我々の生活をどう変えるのだろうか。決済サービスを直接利用する事業者の利点は何か。先陣を切ってスタートしたコイニー佐俣奈緒子代表取締役社長に聞いた。

不動産など決済金額が大きい業種にもチャレンジ

まずスマホ決済サービスの利点を整理しよう。事業者から見た利点は端末設置場所の自由度が高まることに加えて、市販のタブレットとドングルだけのため、導入のハードルが低い=導入費用が安くて済むことだ。このことは別の利点をもたらす。利用できる店舗やサービスが増え、消費者にとっての利便性が増すことだ。またレジに行かなくても、客のいる場所で決済できるのは、特に化粧品店や衣料品店、家電店など対面販売が多い小売業では利点が多いはずだ。

これに対して「でも」と前置きして、佐俣氏はこう話す。「日本ではレストランやカフェなどを含めて、レジのあるカウンターで決済するのがまだ一般的です。ですから米国では飲食や美容院などでスマホ決済が使われていますが、日本では思うほど伸びていません」。
特に1000円や2000円の小口決済には電子マネーが利用されることも多く、クレジットカード決済はまだマイナーな存在に留まるという。

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そこでコイニーはこうした分野の開拓も行いつつ、別の分野でのチャレンジを進めている。
「実は病院、リフォームなどを含む不動産、自動車業界はクレジット決済が普及していないということもあり、我々はこれらの分野で、多くの事業者にご利用いただいています」(佐俣氏)。

不動産の決済とは、どういうことか?
「アパートやマンションなどの物件を見て気に入った時に、その場で初期費用を支払うといった使い方です。お店に戻るのは面倒だし、初期費用を入れないと借りられない可能性もありますから。自動車販売では、例えば車検の際、顧客の家に納車に行きますよね?その時にスマホ決済ができるのは、販売店にも顧客にも利便性が高いんです」(佐俣氏)。

スマホ決済はまだ日本では目立つ存在とは言えない。しかし、これらの見えにくい分野から着実に決済の現場を変えるポテンシャルを持っているのだ。

カードのIC化でサイン不要に

だが場所を問わない便利さがあると言っても、料金や手数料が高ければ意味はない。何よりも、カード決済は印刷した紙にサインする必要があり、現金払いにはない面倒さがある。

「現状では当社だけですが、1万円以下ならすべてサインレスで決済できるようにしました。タクシーもOKなんですよ。イベントにおける物販などでは決済に時間がかからないので特に重宝されています。しかも東京オリンピックに向けて2015年11月からすべてのカードをIC化する動きが進んでいるため(後述)、今後は多くがサイン不要になっていきます」(佐俣氏)。

事業者(カード加盟店)が支払う決済手数料はどうか。実はスマホ決済の手数量は現在、3.24%〜3.25%で、ほぼ横並び。クレジットカード事業者と直接契約するのに比べると低く抑えられている。入金サイクルもおおむね、決済日の翌日から最大で1週間程度(スマホ決済事業者により異なる)と短く、事業者は資金繰りが楽になる。

とはいえ「現金決済なら手数料がかからない」という考え方も、根強く残る。これについて佐俣氏は、こう反論する。
「現金決済はコストがゼロに見えますが、実は意外に高いのです。おつりを用意したり、レジ締めで確認したり、偽札のリスクもありますからね。カードより高い費用を潜在的に払っていると考えることができますから、『0%』と『3%』の差はあまり意味がありません」(佐俣氏)。

クレジットカードを導入すると客単価アップ、つまり売り上げアップも期待できるという。現金では客側に手持ちがない場合に販売機会ロスにつながるが、カードの場合は手持ちがなくても支払いができるからだ。
「あるケーキ屋さんが、クレジットカード導入を機に売り上げが約20%上がったという事例もあります。このあたりは、もっと啓蒙していきたいと思っています」(佐俣氏)。

ライアビリティシフトによるIC化がスマホ決済を加速?

一方で今、クレジットカード業界は大きな変革の波を迎えている。主要な国際クレジットカードブランドが、偽造カードによる被害の債務責任をカード発行会社から加盟店に移転する「ライアビリティシフト(責任の移転)」を2015年10月に実施したのだ。偽造カードによる詐欺被害に遭った場合に、それを補償するのは加盟店になり、カード発行会社には請求できなくなる。

日本でも経産省が2014年12月にキャッシュレス化に向けた方策をとりまとめて発表し、日本クレジット協会が2020年に向けてICクレジットカード化100%を目指すことを決定した。これを受けてコイニーも、2015年11月から新規加盟についてはすべてICカード対応に移行した。磁気カードを読み取る従来型のドングルも2016年6月まで利用可能だが、それ以降はすべてICカード対応端末に移行する。

百貨店やコンビニエンスストア、家電量販店など、すべてのクレジットカード決済端末は早期のリプレースが求められる。だが日本のPOS端末は、大手の場合は独自仕様になっているケースが多く、価格も高い。減価償却に5〜7年かかるのが普通なので、おいそれと端末を更新するわけにはいかない。

相対的に安価なスマホ決済サービス事業者にとっては大きなチャンス到来に思えるが、そんな中で、大手のPayPalがスマホ決済サービス「PayPal Here」のサービスを2016年1月31日で終了すると発表した。お財布ケータイなど日本固有の事情、ApplePayなど別の競合の出現、ICカード移行の費用、あるいはペナルティ・・・。時代の動きとともに現れる課題を、チャンスと捉えるか、リスクと捉えるか。スマホ決済サービス各社の次の動きを注意深く見守りたい。

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佐俣奈緒子(さまた・なおこ)●コイニー株式会社代表取締役社長。広島県出身、京都大学経済学部卒。2009年、PayPal日本法人の立ちあげに参画。加盟店向けのマーケティングを担当し、日本のオンラインサービス/ECショップへPayPalの導入を促進。2011年10月にペイパルジャパンを退職後、2012年3月、コイニー株式会社を創業。コイニーの詳しいシステムは、http://coiney.com/

執筆者:安蔵靖志
写真:新井孝明

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