第1回  デジタル化が牽引する社会変革 消費者も企業も無縁ではいられない

2015.11.05
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デジタル化の潮流が社会や産業構造に大きな影響を及ぼしつつある。生活者はもとより企業を取り巻く環境が大きく変容し、良かれ悪しかれ企業は大きな影響を受ける。チャンスをものにするには、デジタル化を味方につけるしかない。

デジタル--昔からあり、ごく平凡な言葉がイノベーションやビジネスという言葉と組み合わされることで、にわかに注目を集めている。何しろ本サイトの名称も”デジタルイノベーション”である。

デジタルイノベーションとは、社会や産業全体のデジタル化(デジタライゼーション)の進展を指す場合もあるが、狭義にはデジタル化が企業に及ぼす影響と、それに対応するための企業の革新的活動を指す。筆者は「デジタル技術やデジタル化された情報を活用することで、企業がビジネスや業務を変革し、これまで実現できなかった新たな価値を創出すること」と定義している。

とはいってもコンピュータはそもそもデジタル化の産物であり、企業はこれまでもデジタル化された情報を伝達し、共有し、あるいは意思決定に活用してきた。いったい何が本質的に異なるのだろうか?

情報化とデジタル化は根本的に異なる

実のところ答は明解だ。これまでの情報化(いわゆるコンピュータライゼーション)とデジタルイノベーションが大きく異なる点は、業務やビジネスに対する改善・拡張に留まるものであるか、破壊・創造を伴う変革であるかという点である(図1)。
図1
図1.コンピュータライゼーションとデジタルイノベーションの違い(出典:ITR)

産業分野におけるデジタルカメラの発明を例に挙げよう。現像・焼き付けといった業務プロセスそのものが不要になり、現像所や取次店といった事業形態の転換を余儀なくさせた点において、これはデジタルイノベーションと呼べるだろう。

インターネットを介したWeb会議やタブレット端末を利用したビデオチャットなどの台頭も同じだ。集合会議のための出張や高額な専用TV会議設備を不要にすることを含めて、単にコミュニケーションを便利にするという以上に、会議のあり方を革新する可能性を持っている。

一方、デジタルビジネスとは、デジタルデータによって、人、モノ、コトをつなぐことで新たな価値を提供する事業形態を指している。デジタルデバイスがPCからスマートデバイスへと移り、IoT技術により機器などのモノがインターネットに接続されることで、これまで扱えていなかったさまざまなモノ・コトをデジタルデータに変換して表現・伝達することが可能となっており、それによって新しいビジネスを生み出す取り組みが増えている。

モバイル、IoT、ビッグデータ、クラウドといったICT技術の進展が、事業形態や業務のあり方を書き換える--デジタルイノベーションやデジタルビジネスは、デジタル技術が縁の下の力持ちから、ある種の主役を担うようになった状況を説明する言葉なのだ。

注目すべき3つのデジタル化の潮流

もう少し分析しよう。今、進行しているデジタル化の潮流は、「社会・産業のデジタル化」「顧客との関係のデジタル化」「組織運営・働き方のデジタル化」、という3つの方向性がある(図2)。

社会・産業のデジタル化の領域では、3Dプリンティングでモノづくりに革新が起こったり、小型無人飛行機(ドローン)とGPS(全地球測位網)で小荷物配送が変わったり、いったことが現実化しつつある。

顧客との関係のデジタル化においては、店舗のショールーム化(ショールーミング現象)を引き起こしたり、ソーシャルネットワークによって消費者が繋がりあったりすることで購買行動に変化が生じつつある。

組織運営・働き方の分野では、雇用・就労形態の多様化の動きを止めることはできず、組織のトライブ化、人材のグローバル化、従業員のモビリティはさらに加速し、「雇用」「就労」の概念さえも大きく変わっていくと予想される。人材の評価や報酬のあり方、合意形成や意思決定のプロセスにも影響を及ぼすことになるだろう。

図2
図2.注目すべきデジタル化の潮流(出典:ITR)

社会・産業のデジタル化の潮流は、研究開発、モノづくり、物流、新規ビジネスモデルなど、主に業界や事業分野に特化したビジネスITの領域に大きな影響を及ぼすと考えられるが、その影響の度合いや対象となる技術は業種ごとに異なるだろう。顧客との関係のデジタル化の潮流は、マーケティングITの新領域を形成し、販売チャネルや顧客との接点のあり方、企業や商品の価値訴求やブランディングの方法、顧客や声や市場の状況に関する情報収集の手法などに変革をもたらすだろう。

これらは、これまでのCRM(顧客関係管理)、マーケティング・データ分析、営業支援などに影響を及ぼすと考えられる。また、組織運営・働き方のデジタル化の潮流は、“Future of Work IT”という新領域を形成し、ワークスタイル、意思決定プロセス、人事・人材管理、コラボレーション環境などに影響を及ぼすはずだ。このように、企業にとってデジタルイノベーションやデジタルビジネスへの取組みは、さまざまなビジネス課題を解決する手段であることに加えて、新たな商品・サービスやビジネスモデルを創出する可能性を秘めている。

当然、業種・業界によってデジタル化がビジネスに及ぼす影響の大きさと、企業に大きな変革が求められる時期は異なる。しかし、デジタル化の流れが止まったり、歩調を緩んだりすることは考えられない。すでにこのようなデジタル化の潮流の渦中にある企業もある。一方、これを裏返せば、デジタルイノベーションやデジタルビジネスに取組まなかったり、中途半端だったりすると競争上、不利になることを意味している。まさしくチャンスとリスクが同居するのが今日である。

itj_tuchiyama

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