第6回 「つながり」のビジネスとそのための仕組み

2016.01.28
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デジタル化の進展によって人と人、人とモノ、モノとモノが互いにつながる時代が到来した。その「つながり」が新たな市場を創造し、ビジネスの機会が創出される。だが勝手に何かが創造されるわけではなく、生み出すための仕組み、すなわちシステムが必要になることは自明だろう。そうしたシステムは従来の企業情報システムと異なる要件を持っている。

デジタルビジネスとは、デジタル技術やデータによって、人、モノ、コトをつなぐことで新たな価値を提供する事業形態を指している。ITを活用したビジネスイノベーションへの取り組みとしてデジタルビジネスの創造を検討する企業は多く、デジタルビジネス推進室のような組織を設置する動きもみられる。

しかし、デジタルビジネスのモデリング手法やその情報システムの構築手法は確立しているわけではなく、暗中模索という企業も少なくない。そこでここではまず、先行的なデジタルビジネスの取り組みにおいて共通的なパターンを抽出し、デジタルビジネス創出のためのアイデア出しの際のヒント、およびシステムの必要条件を見てみよう。

まずデジタルビジネスの先行例は大きく2つに分類することができる。オンデマンド・サービスの提供、優位な自社業務のサービス化およびAPIエコノミーおよびアグリゲーション・サービスの4つから構成される「サービスの連携・横展開」と、マッチング・エコノミー、シェアリング・エコノミーおよびキュレーターズ・セレクションの3つから構成される「情報仲介」である。

既存事業の価値を高める「サービスの連携・横展開」

サービスの連携・横展開は、従来から行っていた事業や業務をデジタル化によって連携性を高めたり、幅広く展開したりすることによって価値を高めるものである。オンデマンド・サービスの提供は、従来の業務をオンライン化することで必要な時に必要な分だけ利用できるようにして利用者の利便性を高めるものである。

また優位な自社業務のサービス化は、自社の社内向け業務や本業のビジネスが持つ優位性をサービス化して無償・有償で提供するものである。これらの事業展開により、一般企業がSaaS事業者やBPO事業者になったり、別会社を設立したりする例も出始めている。

APIエコノミーは、自社のプラットフォームとなるアプリケーションやサービスのAPI(Application Programming Interface)を公開し、他社がこのAPIを活用して新たなサービスを開発し提供することで、元のプラットフォームやプラットフォーム上の情報の付加価値を高めるような経済活動、またはそれによって形成されたビジネス商圏を指している。APIを公開する側のビジネスモデルには、直接課金型、収益分配型および価値補完型の3つのパターンがある。
アグリゲーション・サービスは、複数のWebサイト内のコンテンツを1つのポータルサイトから閲覧できるようにしたもので、ブログやメディア・サイトなどの記事を集約したコンテンツアグリゲーションや多数の金融機関口座の残高情報などを集約して閲覧するアカウントアグリゲーションが含まれる。

インターネットの特性を生かす「情報仲介」

インターネットやWebサイトは情報の受発信を支援するものであるため、ほとんどのデジタルビジネスが情報仲介のモデルといえる。だが昨今では人と人、あるいは企業と消費者のつながりに着目したユニークな情報仲介のビジネスモデルが多数登場している。

マッチング・エコノミーは、サービス提供者とサービス利用者を結び付けるもので、B2B、B2C、C2Cなどの形態がある。シェアリング・エコノミーは、有形無形のモノや権利を大人数で共有し、必要な時に利用できるようにするもので、消費者同士のC2Cの形態が多い。キュレーターズ・セレクションは、プロの目利きで選んだものをお任せで購入・利用するサービスで、昨今の多様化する顧客ニーズと多岐にわたる選択肢という背景から注目が高まっている。

つながりのビジネスを支えるシステムの要件

ではこういったつながりのビジネスを支える仕組み=システムは、どんな特性を持っているべきなのか?それは本コラム第3回「デジタルビジネスとクラウドの相性」で述べたSystem of Engagement(SoE)にまさに該当する。企業内部の業務システムであるSystems of Record(SoR)が「トランザクション」中心であるのに対し、SoEでは「インタラクション」を中心に考える。また、「コマンド&コントロール」による統制から「コラボレーション」を重視するものとなり、「データ」中心から「ユーザー」中心に変わる。SoEを構成する代表的要素を図1に示した。

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図1.SoEの代表的要素(出典:ITR)

ユーザーとの「つながり」を重視する場合、ほとんどの人が身につけるようになったスマートフォンをクライアントデバイスの中心に据えるべきであろう。ノートPCのような従来型のデバイスも当面は使われるにせよ、スマートデバイスは今後さらに進化する。そのためSoEになくてはならない存在となる。
ユーザー要求の変化が著しく、システム要件を明確化することが困難で、ユーザーからのアクセス状況の増減も激しいSoEのためのITインフラとしては、迅速かつ柔軟にシステム構築可能なパブリッククラウドが有力なITインフラの選択肢となるだろう。特に迅速な開発と配布が可能なPaaSは重要な役割を果たすと考えられる。

SoEでユーザーとのつながりを実現するためには、ソーシャル機能も重要であり、より多種多様な人々の声、感想、意見を交換する場であるソーシャルメディア(Facebook、Twitterなど)との連携が有効なアプローチといえよう。現実世界から多くの情報を収集するIoT、そしてIoTを始め多くのITシステムから得た膨大な情報からユーザーに有益な情報を提供するためのアナリティクスも、SoEの必須要素である。

忘れてはならないのは、SoEだけではすべてを完結できないことだ。顧客のプロフィール、購買履歴など、ユーザーに関する情報の多くはSoRに保管されている。SoEはこれら複数の既存システムとの連携が必須となるが、ユーザーとのインタラクションを重視するSoEでは、リアルタイムにSoRとの連携が必要となる。

ビジネスモデルがB2BであれB2Cであれ、全ての企業において顧客や消費者との「つながり」が重要になっている。そのため、どの企業でも今後SoE領域を強化する必要がある。SoRとSoEでは考え方やアプローチが全く異なるため、IT部員全員をSoRにもSoEにも対応できるように教育するのは無理がある。SoEに長けた人材を強化するために、自社SoEを推進するために必要なIT部員のスキルセットをゼロベースで検討し直すことが求められる。

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