第8回 IoTによる現場業務改革

2016.03.02
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モバイルやIoTはビジネスの最前線である現場業務を大きく変貌させるパワーを持っている。一部には誤解があるが、これらは単に現場の生産性や対応力を向上させるだけではない。そうした改善のレベルを超え、ビジネスモデルの転換や新たな顧客価値の創出、既存事業の差別化、あるいは新規事業の創出といった変革を生み出す突破口となる可能性を秘めている。

今、改めて問われる現場力

製造業の生産現場における改善活動の進展と比べて、ナレッジワーカーの生産性は低い――日本企業の課題指摘においてよく聞かれる話だろう。確かに、長く不毛な会議や氾濫する電子メール、分断された稟議・承認プロセスなど、ナレッジワーカーの業務効率は情報化が進んだ今も、さほど向上したとは言えない。ナレッジワーカーを第一の対象と捉えた、業務改革やワークスタイル変革が喧伝されるゆえんでもある。

だが問題はオフィスのナレッジワーカーだけに存在するわけではない。例えば、小売業やサービス業、運輸業、建設業、医療・福祉業、外食・ホテル業など人手による作業が多い業種はどうか?あるいは設備保全や保守サポート、倉庫・輸配送などはどうだろう?情報化が行き届いていない現場を抱える企業は少なくないし、ナレッジワーカーの生産性もさることながら、むしろ企業の現場――ビジネスの最前線――の情報化や生産性の向上が急務なのではないか。なぜなら、多くの企業において本部スタッフなどのナレッジワーカーよりも現場スタッフのほうが人数が多く、その分、改善の効果は大きくなるからである。現場の対応力はビジネスにも直接影響する。

事実、こうした現場部門の従業員における連絡、業務指示、記録、報告など業務の多くは、今もって電話やファクシミリといった従来型の通信手段と、口頭、印刷物や手書きの紙などのアナログな媒体を通じて行われているのが実態である。日々の意思決定も同様で、必ずしも体系化された知識やデータに基づかずに、担当者の経験や慣例に従って行われるのが一般的である。

特に多拠点を展開する事業や、場所を移動して作業を行うスタッフを多く擁する業種では、マネジメントの統制が行き届かず、各拠点・個人がバラバラな動きをし始めることも珍しくない。情報が行き届かない、現場の混乱や非効率、現場の状況が見えないといった課題は見た現場の業務品質を阻害するだけでなく、その結果として顧客満足度の低下や人件費の増大などをもたらす。管理の不徹底などによる事故や情報漏えいといった経営リスクの増大にも繋がり、そのような仕事には優秀な人材が集まらないという労働力不足の問題にも発展する可能性がある。

スマートデバイスとIoTが現場を変える

線通信環境、そしてIoTである。これまで店舗や作業現場では、事務室などの限定された場所に設置されたパソコンを共用するなどしていたが、今や全員がスマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイスを持ち歩くことができる。機械や設備にもインテリジェントなセンサーなどIoTデバイスを装着できるようになった。屋外を含む広域無線通信の高速化がこの状況を後押ししている。人が持ち歩くスマートデバイスにはGPS、電子コンパス、加速度センサー、高精度カメラなど十数種のセンサが内蔵されており、これは人がそのままIoTの一部になるようなものである。

結果として、あらゆる場所間で音声・画像・映像、位置情報などのさまざまなデータ/情報を双方向にやり取りすることができ、動線分析、安否・所在確認、遠隔監視・操作、危険予知、個人認証などが可能になる。応用分野は限りなく幅広い。こうしたスマートデバイス、広域無線通信、センサーやライブカメラといったIoT関連技術、ビッグデータなどを現場業務の変革に活用する企業と、従来のままの現場業務を継続する企業とでは、どちらが優位か自明だろう。したがってこのような動き――「フィールド&モバイルワーク・イノベーション」と呼ばれる――が今後、活発化するのは確実である。

ビジネス環境の変化に迅速に対応していく経営スタイルへの転換を説いた名著『適応力のマネジメント』(スティーブ・ヘッケル著、ダイヤモンド社)では、「『伝えれば、後はうまくやってくれるだろう』という考え方は統治たりえない。『一貫性のある組織行動』と『現場での応答性』という二つの命題を両立させるような統治が求められる」と指摘している。この考えにあてはめてフィールド&モバイルワーク・イノベーションの目指すべき姿を表現してみよう(図1)。

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図1.フィールド&モバイルワーク・イノベーションの目指す姿(出典:ITR)

まずは均質化・効率化を進めて集中制御・自動化を実現することで、『一貫性のある組織行動』を高度化させていくことがひとつの方向性になる(図1の横軸)。すなわち、やるべきことを組織として確実に遂行できるようにするわけである。これには自動的なデータ収集や集中監視、遠隔操作、アルゴリズムによる判断、分析による最適化などの実現が有効であり、IoTとビッグデータが重要な技術要素となる。一方、『現場での応答性』については、現場のナレッジ化・見える化を進め、場所を問わず情報に基づく迅速な意思決定を行うことができるように、機動力と即応性を高めていくことが有効である(図1の縦軸)。すなわち賢く自律的に動くことができる現場を目指すことを意味する。これを実現するためには、モバイルや広域無線通信が重要な技術要素となるだろう。

すでに幅広い分野でフィールド&モバイルワーク・イノベーションの事例が出てきている。センサーを装着した店舗スタッフの動線分析、ライブカメラによる駐車場や生産ラインの遠隔監視、スマートフォンによる接客中の在庫確認、タブレット端末による映像を活用した現場作業指導、GPSによる建設・土木現場の作業ナビゲーションなど、がそれである。モバイルやIoTを活用したフィールド&モバイルワーク・イノベーションへの取り組みは、これまで聖域と考えられていた業務や不可能と思われていた領域に対する変革といえる。

注意すべき点もある。現場の従業員による創意工夫を重視する、モチベーションを考慮した評価や報酬制度を同時に取り入れる、プライバシーの保護やセキュリティに十分配慮する、といったことである。人が働く場所が現場であり、現場改革には人を大切にする視点を忘れてはならない。

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