第9回 デジタル化時代に求められる人材とは

2016.03.18
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デジタル化が急速に進展する社会において、ビジネスとITは不可分になった。では、そんな社会、企業で活躍するのはどんなスキルを持つ人材だろうか?ITを活用してビジネスを変革したり、デジタルビジネスを創出する人材にはどんなスキルが求められるのか?単にビジネス知識が豊富であったり、ITスキルが高いというだけでなく、これらを結び付ける能力が求められる。

ビジネスとITをつなぐには

これまでのIT化は、ビジネス上の課題やニーズに対して、その解決策および実現策としてITを当てはめるという「課題解決型」のアプローチが主流だった(図1左上)。在庫削減という要求や、海外法人との円滑なコミュニケーションの実現といった目的があり、それに対してサプライチェーン管理システムの導入やビデオ会議システムのグローバル展開というITソリューションを検討/導入するアプローチである。

新技術の登場を受けて、ビジネスへの適用を検討する「シーズ提案型」も考えられる(図1右上)。例えば、無線ICタグ(RFID)の低廉化という技術シーズを受けて、倉庫での資材の棚卸しへの活用を検討するといった取り組みである。モバイルやIoTのように新規技術の台頭が著しい昨今では、むしろシーズ提案型のアプローチが有効とさえ言えるだろう。

今後は、ビジネスの環境変化やITの将来動向を予見し、そこから新規事業の創出やビジネスモデルの転換を実現するアイデアを創出するアプローチも必要になる。特にデジタルビジネスの創出においては、この「アイデア駆動型」(図1下)が強く求められるだろう。人工知能(AI)に関する技術の進展と少子高齢化による労働人口の減少というビジネス環境の変化を予見し、店頭やコールセンターで自動応答システムの適用などを検討するようなケースである。

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図1.ビジネスとITをいかに結び付けるか(出典:ITR)

しかしアイデア駆動型――ビジネスやITの環境変化や将来動向を予見して、それらを結び付ける――は、言うは易く行うは難し、でもある。ビジネスとITの両方について、将来を見通せる人材はそもそも少ない。アイデア駆動型で発想できる人材を見つけることは至難の業だろう。

しかし自社のビジネスやその周辺業界について深い知識を持つ人材はどの企業にもいる。ITの専門知識や先進的な動向を把握している人材を見つけることもできるだろう。となれば、必要となるのは、それぞれの分野の専門家を結び付け、化学反応を起こさせることができる人材になる。「縦の糸と横の糸を紡ぐ力」を備えた人材といっても良いかもしれない。

一方、そうしたアイデア創出のための取組みには、社内アイデア公募、アイデアソン/ハッカソンなどさまさまな方法が試みられている。このような取組みを企画し、企業の中で運営する能力を持った人材も重要だ。また、こうした企業としての特別な取組みの時だけでなく、普段の業務の中で人と人、知恵と知恵を結び付けるような活動は、今後、重要性を増していく。

イノベーション人材に求められるコンピテンシー

ビジネスに対する深い知識やITスキルは持っているに越したことはない。しかし、そのどちらに重点を置こうとも共通して求められるコンピテンシーがある。コンピテンシーとは、ある職務を遂行するにあたって、期待される業績を継続的に達成している人材に一貫して見られる行動や思考などにおける傾向や特性のことであり、通常は、その職務で必要となる知識や技能は除外して考える。知識や技能ではないため、教育研修などで向上させられる範囲が限定される。

ここでは、これからのビジネスを創造し、実践する人材に特に重要なコンピテンシーとして「個々人の前向きな姿勢」と「人や組織を動かす行動」の2つをあげている。まず前向きな姿勢には、挑戦意欲、問題意識・改革意識、知的好奇心といった特性が含まれる。これらを醸成するには、社内や部門内に閉じた経験だけでなく、気づきや刺激を与えられるような他部門や社外との交流および活動が有効となる。

人や組織を動かす行動には、リーダーシップ、コミュニケーション、調整・交渉といった特性が含まれる。これらは、コンピテンシーという側面とビジネススキルという側面の両方を持っている。コミュニケーションはドキュメンテーションやヒアリング、プレゼンテーションなどのスキル、調整・交渉はファシリテーション・スキルに関する教育研修によって、基本のテクニックを学ぶことができる。

しかし、教育でテクニックを習得したとしても人や組織を動かせるものではない。実際に人や組織を動かすためには、失敗体験を含めてさまざまな実践経験の蓄積が必要だからである。リーダーシップの中に包含される面もあるが、目的や目指す姿を明確に示し、個人の価値観や信条を尊重しつつ、コミュニケーションやファシリテーションのスキルを駆使して、人や組織を牽引していくことができる能力が最も求められている。

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図2.イノベーション人材のコンピテンシー(出典:ITR)

企業の競争力の源泉はこれまで、資本力や生産力、商品力など規模の論理が働きやすい要素が多かった。しかし競争の激化、ビジネス環境の著しい変化、顧客や市場の多様性などによって、競争原理に変化が生じている。デジタル化が進行する昨今では、企業は環境変化に適応し賢く生き抜いていかなければならない。カリスマ経営者や一部のエリート幹部が立案した計画を多くの従業員が粛々と実行していくという経営スタイルから脱却するべきである。そして、すべての従業員がそれぞれの立場で外部環境の変化や内的な課題をいち早く感知し、常に軌道修正を加えながら環境に適応していく自律性が求められている。すなわち知恵と知恵の戦いだ。個々人が持つスキルを高めていくことに加えて、個々人のスキルを組織として結び付ける能力、それにより「人材力」の総和(≒「組織力」)を最大化できる能力が今まさに問われている。

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