第3回  デジタルビジネスにクラウドが欠かせない理由 SoE、リーン・スタートアップ、APIエコノミー

2015.12.11
リスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

インターネットやデジタル化技術を活用した新規のビジネスモデルが数多く台頭しており、それに触発されてデジタルビジネスに商機を見出そうとする動きが活発化している。その時必須になるのがクラウドの活用だ。クラウドこそが3つのICTトレンドの必要条件を満たせる。

デジタルイノベーションが進む中で、多くの先進企業が“デジタルビジネス”と呼ばれる事業形態に取り組んでいる。広く普及したスマートデバイスや、あらゆるモノをインターネットに接続できるようにするIoT。これらによって、これまで扱えていなかったさまざまな人・モノ・コトの状態や外部環境を、デジタルデータに変換して伝達・表現できるようになった。それを生かして既存のビジネスを変革したり、新しいビジネスやサービスを生み出すーーこれがデジタルビジネスだ。企業はこれまで、優れた製品や人による「役務」という価値を提供してきた。それに加えて「データ」や「つながり」、それらによって得られる「体験」を価値として提供するビジネスを模索しているのである。

デジタルビジネスに必須の3つのICTトレンド

そんなデジタルビジネスの主役の1つであるICTには、従来型のICTとは大きく異なる点がある。ここでは特に重要な3つの点ーートレンドーーを紹介しよう。第一は、「Systems of Engagement(SoE)」という概念である。マーケティング業界で有名な書籍「キャズム」の著者であるジェフリー・ムーア氏が、2011年に出したホワイトペーパー『Systems of Engagement and The Furute of Enterprise IT』で提唱したものだ。

既存の業務システムは入力されたデータを処理し、正確に記録することを目的とする。情報を伝達する電子メールやファイル共有のシステムも記録を基本とする点は同じであり、これらの既存システム群を総称してSystems of Record(SoR)と呼ぶ。SoRは事実を正確に記録することが重要な目的であるため、ビジネスロジックやデータ構造は大きくは変化しない静的なシステムとして構築する。

それに対してSystems of Engagement(SoE)は、顧客など人とのつながりを深耕・拡大することを主眼に置く。最近では人だけでなく、システムとモノのつながり、モノとモノのつながりも含めてSoEと呼ぶようになっている。SoEの世界ではビジネス環境や構成要素の関係性は常に変化するため、事前の定義よりも変化に対する即応性が重視される。SoRとSoEはシステムの特性が異なり、開発方法や運用方法も異なるのだ。
2つ目のトレンドは「リーン・スタートアップ」である。トヨタ自動車が編み出した生産方式「リーン生産方式」が基底にあり、これを参考に起業家のエリック・リース氏が2011年、新事業の立ち上げ手法として提唱した。根本的には、ムダを徹底的に排除するためリーン生産方式を新規事業の立ち上げに適用する。

従来型の事業立ち上げでは、PDCAのマネジメントに見られるように十分な調査を行い、綿密な計画を立て、高品質の事業や製品/サービスを開発して提供する。事業開始までに相当の投資と時間を要する方法である。これに対しリーン・スタートアップではコストをかけずに試作版をつくり、顧客の反応を見て改良するサイクルを短期間に繰り返す。

事業化の初期段階に見られがちな過剰な設備投資や大幅な手戻りといったムダを減らすことができる。より詳細には、まずは実用最小限の製品(MVP:Minimum Viable Product)を開発し、提供する。顧客の不満は従来型に比べて大きくなる可能性があるが、短期間の改良サイクルと手厚いサポートを通じて満足度向上に努める。

第3のトレンドは「APIエコノミー」である。SoRに分類される既存のシステムでは、必要なすべてのシステム機能を実装するのが普通である。蓄積したデータも自社内だけで活用し、他社に開放することはほとんど行われてこなかった。ビジネス習慣上も、技術的にもそれが合理的だったからである。
APIエコノミーは、これとは真逆のものである。APIエコノミーとは、アプリケーションやサービスのAPI(Application Programming Interface)を公開し、他社がこの公開されたAPIを活用して新たなサービスを開発し提供することで、アプリケーションや情報の付加価値を高めるような経済活動、またはそれによって形成されたビジネス商圏を指す。

先導したのは米Googleや米Twitter、日本ではYahoo!、楽天といったWebサービス事業者だった。APIを公開し、他のWebサービス事業者がそれらを活用して周辺ビジネスを展開したり、複数のWebサービス事業者がサービスやコンテンツを連携することで付加価値を高めたりする動きが広まった。現在ではWebサービス事業者に限らず、政府・自治体、公共サービス、民間企業などが、保有するシステムやデータベースのAPIを公開する動きが活発化している。

こうした動きのビジネス上の背景として、1社に閉じた従来型のビジネスモデルからの脱却がある。他の企業・組織とシステムを連携したり、データを公開したりすることでこれまでに実現できなかった新たな付加価値を創造したり、異業種連携による新規ビジネスモデルの創出する可能性を高めると考えられる。

デジタルビジネス実現のためのクラウド活用

ここで紹介した3つのトレンドから、デジタルビジネスを実現するためのシステムやサービスの要件が浮かび上がってくる。デジタルビジネスで活用されるICTは、システム開発の段階で不確定な要素が多く、基幹業務システムのように事前にデータ構造やビジネスロジックが確定できるものばかりではない。

 試行的な取り組みからスタートすることも多く、開発中および稼働後にも要件は常に変動する可能性がある。またすべてを自前で作り上げるのではなく、外部の知恵やリソースを活用することも多い。そのため他のシステムとのデータ連携や外部接続が前提となることも想定される。こうした特性を持ったシステムやサービスを開発するにあたっては、拡張性・柔軟性、反復的開発、早期立ち上げ、連携性・接続性などの要件を満たすことが求められる(図1)。
itr_cloud図1
図1.デジタルビジネスの特性とシステムの要件(出典:ITR)

そのためには、ウォーターフォール型、自前主義といったこれまでのシステム作りに対する既成概念から脱却するマインド・チェンジが求められる。最初から百点満点を目指すのではなく、素早く実装して永遠のベータ版を継続的にブラッシュアップしていくことや、すでに世の中にあるものを活用する姿勢が求められる。こうして考えると、少ない初期投資で始められ、拡張・縮退が容易であるといったクラウドの持つ特性が、デジタルビジネスが求める要件と極めて高い一致を示していることがわかる。
itj_tuchiyama

EVENTイベント

PARTNERパートナー