第5回 共創とオープンイノベーションの重要性

2016.01.18
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社会・産業のデジタル化が進行する中で、ビジネスに直結する領域でのIT活用とイノベーションを強く推し進めていくにはどうすればいいか?すべてを自己完結型で実行するのではなく、社外のパートナーや顧客と協調的に価値創造を実現するアプローチが重要になる。今回は、この「共創」の考え方について説明する。

なぜ自己完結型ではなく、共創が重要なのか?このことは本コラムの読者ならあえて説明するまでもないかも知れない。人も組織も同じだが、単独ではそれまでの習慣や思考パターンから脱却することは困難である。あるいは新しい何かを生み出すには、異質なものを組み合わせるといい。だからこその共創である。

ところで共創という言葉は「共に創る」ことを示す造語であり、定義が確立しているわけではない。マーケティング分野においては英語のコ・クリエーションの訳語として用いられることもあるが、その場合は主に消費者参加型の商品・サービスの企画開発という意味で使われることが多い。

ここでは共創をより広範に捉え、「コ・クリエーション」に加えて「オープンイノベーション」「コラボレーション」の要素を包括した概念と定義する(図1)。すなわち「共に創る」の「共に」の相手は、顧客となる消費者だけでなく、パートナー企業や大学、公共機関、個人のプロフェッショナルなどを含む。「創る」ものは商品・サービスだけでなく、社会的・経済的な価値の創造を含むと考えるわけである。それでは、この3つの構成要素について具体的に考えてみよう。

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図1.広範な「共創」の概念(出典:ITR)

オープンイノベーションとコ・クリエーション

オープンイノベーションとは、自社技術だけでなく他社や大学などが持つ技術やアイデアを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや研究成果、製品開発につなげるイノベーションの方法論を意味する。この概念を提唱したカリフォルニア大学バークレー校のヘンリー・チェスブロウ博士は、市場にあふれる製品のコモディティ化、製品ライフサイクルの短命化によって、1つの企業だけで実現するイノベーションには限界が迫ってきていると指摘している。そのため、外部からも積極的にリソースや知恵を募って新たな価値を創造していくことが重要であると述べている。

この動きを後押しするのが、インターネットやソーシャルネットワークの普及だ。自社特許の公開、他社知的財産の活用、異なる分野の組織との協業、社外からのアイデアの公募などにより、イノベーション創出の可能性を高め、その実現を早めることがオープンイノベーションの目的であり期待される効果といえる。

コ・クリエーションは商品やサービスを開発したり、用途を変更・追加したりするといった際に、顧客にそのプロセスに参加してもらうことで、顧客の経験価値を高める戦略を指す。この方法によって、企業側が気づかなかった新たな価値を創造する可能性が高まると考えられる。顧客ニーズや価値観の多様化に伴って、企業だけの思い込みやアイデアで、顧客に価値の実感を提供できる商品やサービスの開発が難しくなってきている今、多くの企業や組織がコ・クリエーションを模索している。

もちろん、似た取り組みは以前からあった。アンケートやモニターなどによって顧客の声を収集する(フィードバック型)、顧客が持ち込んだアイデアを企業が商品化する(持ち込み型)などの活動である。コ・クリエーションより戦略的、意図的に企画化や商品化の時点から顧客を巻き込む参加型の形態と言える。

コラボレーションと協業はどう違うのか

企業同士の協力関係を「協業」という言葉で表すことがある。これと共創の構成要素であるコラボレーションにはどんな違いがあるのだろうか。そもそも違いがあるのか。結論を言えば、協業は企業間のコラボレーションの1つの形態ではあるが、それは主に利益の創出と分配を前提とした限定的な関係といえる。

これに対し、共創におけるコラボレーションについて考える際には「トライブ」というキーワードを理解する必要がある。「トライブ」とは、もともとは部族を意味し、何らかの共通の興味や目的を持ち、互いにコミュニケーションの手段があることでつながっている集団を指す(「トライブ~新しい“組織”の未来形」セス・ゴーディン著、講談社)。すなわち利益の創出と分配だけが目的ではない。

一般社会や消費者市場では、すでにトライブ化が始まっている。これまではそれぞれに分散し、相互につながりを持たなかった人々が、インターネットやソーシャルメディアなどを通じて自分たちの意見を同期化し、行動を調整し、その結果を記録して発信できるようになった。すなわち、人々は自由につながり始めており、そのつながりは大きな力を持ち始めている。このようなトライブ化の流れは、企業組織にも波及しつつある。

それではトライブ化が進行した組織の未来形は、どのようなものであろうか。それは、所属するメンバーが固定的でないこと、情報の流れや指揮命令系統がいわゆる上意下達ではなく対等で縦横無尽であること、部署や会社という枠を超えた協調や交流が実現されていることが要件となる。そうした組織で遂行される業務(主に創造的活動)は、社内外を問わずそれぞれの得意領域を持ったメンバーが、タスクフォースを組んでプロジェクト型で遂行し、成果や喜びを分かち合うようになるだろう。

これまでの協業は、発注者、受注者、受注者の協力会社という明確な契約の上に成り立っている関係にとどまっていた。一方、トライブ化した組織では、資金、設備、人材などをメンバーが持ち寄ったり、その都度調達したりする。メンバーの関係も、起案者と協力者であったり、共同出資者や共同事業体(コンソーシアム)であったりする。これこそが共創における組織間のコラボレーションの姿といえる。

社会・産業のデジタル化が進行するなかで、ビジネスに直結する領域でのIT活用とイノベーションを強く推し進めていくことが求められている。そもそもイノベーションは、既知の事象同士の新しい組み合わせによって創出される。その多くは均質な知恵の組み合わせからでなく、異質な知恵の組み合わせから生み出される。だからこそ社内外の知恵やリソースを最大限に活用する仕組みと仕掛けが必要となるのだ。その土台として自ら未来を切り開いていくオープンでクリエイティブな従業員のマインドと、挑戦を奨励する柔軟な企業の姿勢が求められるだろう。

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