第4回 デジタルイノベーションを牽引する体制とは

2015.12.25
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コンシューマーITの進展や社会インフラのデジタル化などの潮流が、経営やビジネスに大きな影響を及ぼしつつある。企業はこれを積極的に取り入れる必要があるが、専門の組織や人材なしには上手くいかないことは明らかだろう。今回は組織のあり方を、IT部門を中心に考察する。

モバイルやソーシャルのようなコンシューマーIT、クラウドやビッグデータといった技術革新の潮流が、企業の経営やビジネスのあり方に大きな影響を及ぼしている。この潮流に対応しデジタルイノベーションを実現するためには、それをリードし、実践する組織が必要である。今回は、その組織体制について考えてみよう。

デジタルはITがベースであるだけに、既存の組織の中ではIT部門が適任に思える。しかしこれまでのIT部門の役割は、経営者や事業部門の戦略・課題を受けて、それを実現・解決する手段を提供することに主眼が置かれていた。経営方針や経営課題を踏まえ事業部門の課題やニーズに対応して、解決策や実現手段となる情報システムの企画・開発・運営を担当するという、どちらかといえば受け身の役割である。

しかし例えばモバイルによる顧客との関係のデジタル化はマーケティングのあり方を変え、IoT(Internet of Things)による社会・産業のデジタル化はモノづくりや物流を大きく変容させていくことが確実だ。既存のビジネスのあり方に変革を迫ると同時に、既存のビジネスを破壊する可能性もある。そうした状況に対応し、デジタルイノベーションを実現するには受け身ではまったく不十分である。

したがって次々に出現する最新のテクノロジーを積極的に活用する、組織体制やチームが必要になる。そのチームは経営者に対してデジタル化の推進によって実現できる将来像を提示し、理解とコミットメントを得なければならない。加えて事業部門の課題や変革ニーズを理解したうえで、適切なデジタル技術やその活用方法について能動的な提案を行い、変革を促すことも重要なミッションとなる。いずれにしても既存のIT部門とは大きく異なる役割であり、行動特性でもある。

デジタルイノベーションにおけるIT部門の役割

ではデジタルイノベーションを率いる組織やチームはどう作るべきなのか?結論を言えば、既存のIT部門の組織を拡張するか、まったく別に専門部門を設置するかのいずれかになる(図1)。IT部門内に設置する場合は既存のエンタープライズITの構築・保守・運用に加えて、IT部門がデジタルイノベーションの可能性の発掘、企画・構想化を行う。

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図1.企業に求められるデジタルイノベーションの機能(出典:ITR)

この場合IT部門ではまずR&D(リサーチとディベロップメント)機能を強化することが重要となる。具体的にはデジタル技術に関する調査研究はもとより、自社が所属している業界の動向、社会・産業全般の動向、市場や顧客の動向などの幅広い分野に対してアンテナを張り巡らせることが求められる。デジタル技術に関する調査研究1つとっても簡単ではない。様々なコンシューマーITを自ら購入するなり借りるなりして試用し、目利きできるようになる必要がある。例えばBYOD(私物端末の業務利用)も自ら率先する必要があるだろう。旧来のIT部門の行動特性、例えば信頼性、安全性、安定性とは逆の、アグレッシブな姿勢が求められるゆえんである。

事業部門との関係も受け身では済まない。IT部門から当該部門に提案したり巻き込んだりしながら、共にこれを推進していくことになる。全社的な適用が想定されれば、企画・構想化にとどまらず、試験的実行から実装までをIT部門が主体的に行うことになるだろう。全社横断でデジタル技術を扱うには、中立的なIT部門が適任であることは言うまでもない。ただし具現化されたイノベーションやそのための仕組み(システム)を運用するのは、デジタルイノベーション・チームではなく業務部門または従来のIT部門チームに委ねるのが望ましいだろう。

IT部門とは別に、デジタルイノベーションのチームを設置する方法もある。かつてEコマースが注目されたときにEビジネス推進室を設置したり、ミッションは各社さまざまだが業務改革室のような組織をIT部門とは別に設置したりするのと同様のアプローチである。一般には事業部門、本社企画部門、IT部門からビジネス変革に意欲のある人材を参集し、混成部隊を形成する。

いずれのケースでもIT部門が重要な担い手となる

この時、IT部門はデジタルイノベーション・チームの良き支援者と位置づけられる。既存のITプラットフォームを堅牢で柔軟なものへと進化させながら、デジタルイノベーション・チームに対して技術的なアドバイスやサポートを提供するのである。モノ作りであれ、物流であれ、ワークスタイルであれ、デジタルイノベーションによって成果を得るには、従来のエンタープライズITとの連携が避けられないから、これは当然だろう。デジタルイノベーション・チームが別組織であるからといってIT部門がその活動に無関心でいるわけにはいかない。

いずれの組織形態を採る場合においても、デジタルイノベーションの推進には強力なリーダーシップと権限が不可欠である。従来のCIOすなわちChief Information Officerに求められていた組織、業務、情報を最適化させる任務に加えて、ビジネスとテクノロジーの両面を理解し、イノベーションを指揮していくCIO-Chief Innovation Officer-の役割が必要となるだろう。

業種・業界によってデジタルイノベーションがビジネスに及ぼす影響の大きさと、企業に大きな変革が求められる時期は異なる。しかし、この潮流が止まったり、歩調を緩めたりすることは考えられないし、考えるべきでもない。すでにこのようなデジタルイノベーションの潮流の渦中にある企業もあるからだ。

IT部門がこの領域にどの程度踏み込んだ責務を担うかは、今後のIT部門の存在意義を左右する大きな分かれ目となる。新領域に対するスキル向上、個々人の意識改革を含む組織変革、採用やローテーションなど、IT部門の人材戦略にも転換が求められる。とりわけ人材育成とスキル転換には時間を要するため、長期的な視野で、しかしタイムリーに組織機能の拡張を計画することが重要となることは間違いない。
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