テクノロジーが引き起こす変革 〜破壊するか、それとも破壊されるか デジタル時代の企業に求められること〜【前編】

2015.11.11
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米国のハイテク業界を中心に「Disrupt、or be disrupted」という言葉が流行している。直訳すれば「破壊するか、それとも破壊されるか」、つまり「ICTを駆使して変革に乗り出すか、それとも座して死を待つか」である。今、何が進行中で、企業はどう対応するべきなのか。まず起きていることから紐解いてみよう。

ICTの進化と広がりが企業に変革を迫っている。例えばスマートフォン。日本ではiPhoneの1号機が2007年に発売され、2014年には世帯普及率が6割を超えた(総務省による)。この普及の速さはテレビも携帯電話もできなかったことだ。据え置き型やPCを主体とするゲーム業界では、変化に追従できずに業績悪化に追い込まれる企業が続出した。これはICTがもたらす破壊的イノベーションの一例に過ぎない。世界中で、様々な形で既存ビジネスが破壊されるか、退潮を余儀なくされるケースが相次いでいる。

ネットが既存ビジネスの破壊をもたらす

よく知られているのが米国のレンタルビデオ・チェーンの“消滅”だ。2000年代前半まで優良チェーン店として君臨したブロックバスター(Blockbuster)。米国を中心に2004年には9000店舗を擁したが、ネットを介した定額見放題が主流になる中で2014年1月に清算された。倒産ではなく、買い手がつかずに消滅したのである。

同社を葬ったのは、米ネットフリックス(Netflix)だ。当初、郵便でDVDを貸し借りする形態だったが、2007 年にインターネット経由のストリーミング配信に移行。月額10ドル弱で新作を含めた映画やTV 番組を見放題というサービスが受け、今や5000 万人以上の会員を擁するまでに成長した。2015年秋には、日本でもサービスを開始する予定だ。ちなみにNetflixがまだ小さかった頃、Blockbusterに買収を持ちかけたが、同社は申し出を蹴ったという。
書籍の分野では日本でも存在感の高い米Amazon.comが台風の目だ。米国第2位の書店だったボーダーズ(Borders)が2011年に経営破綻に追い込まれ、1位のバーンズ&ノーブル(Barnes & Noble :B&N)が、その事業を継承した。ところがB&Nも毎年のように店舗数と売り上げを減らし続けており、厳しい状況は変わらない。そこでB&Nは2014年8月に米Googleと提携。共通の敵であるAmazonに対抗する姿勢を打ち出している。

「それはデジタルコンテンツの話で、特殊な例では?」──。こう考える読者もいるかも知れない。しかし、どこで買っても同じである家電製品やスポーツ用品などは、熾烈な激安競争を強いられるのが日常になったのは確かだ。それを痛感しているのが世界最大の小売業である米ウォルマート・ストアーズ(Wal-Mart Stores)。巨費を投じてネット販売を強化し、Amazon対抗を急ぐ。「我々はeコマースとモバイル・コマースの能力を追加する。変革的な発展を実現する」(2014年度の同社アニュアルレポート)という。衣料や靴などファッション製品、旅行商品や金融商品なども事情は大同小異。ネットを生かした新しい販売モデルが広がっている。しかもICTによる破壊的イノベーションは、これらの消費者向けのビジネス(B2C)に留まらない。企業間のビジネス(B2B)でも、ICTを生かしたビジネスの破壊が進もうとしている。

IoTが産業や社会のあり方を変える

航空機エンジンのメーカーからエンジンの稼働サービスを提供する企業へ──こんな構想を推進するのが米ゼネラル・エレクトリック(GE:General Electric)だ。航空機エンジンだけでなく、火力発電のガスタービンや医療機器も同じ。価格からサービスへと競争の軸を移し、圧倒的優位を獲得する考えである。

その原動力がIoT( Internet of Things:モノのインターネット)という新しいICTであり、「産業のインターネット化(Industrial Internet)」という発想だ(図1)。難解に思えるが、要は製品すべてにセンサーやチップを取り付けてデータを収集。故障の兆候を検知して予防保全したり、省エネ運転をできるようにする。航空会社は故障に悩まされることなく、飛行機を飛ばせる仕組みだ。
GEは、IoT機器を統合管理するOSやデータ分析ソフトを開発。広く普及させることも狙っている。「産業機器用のiOSにする」(GE)という。ここでiOSとはスマートフォン分野で米アップルを高い地位に押し上げたiPhoneなどに搭載されている基本ソフトのこと。
iOSに範をとって、産業用機器の基本ソフトで標準を握る試みだ。米インテル(Intel)や米シスコ・システムズ(Cisco Systems)といった有力ICT企業とも提携し、必要な技術開発を急ぐ。

IoTについては、ドイツも国を挙げて取り組んでいる。2010年に「Industry4.0」という国家プログラムを発動。自動車メーカーや工作機械メーカーを巻き込み、デジタルビジネス時代の製造業におけるリーダーシップ獲得を目指す。

なぜIoTや産業のインターネット化なのか。あらゆる機器や設備がインターネットに繋がれば、社会や産業、企業、そして人の働き方に、スマートフォンが引き起こした以上の変化をもたらす、といった状況が出現すると考えられるからだ。それをリードする国や企業は、大きな優位性を獲得できる。

IoTは製造業だけでなく、農業や畜産業、漁業などの一次産業にも波及する。日本における農業の例を挙げてみよう。世界的に有名な日本酒「獺祭」の醸造元である旭酒造は、原料米である「山田錦」の確保に悩んでいた。山田錦は稲が倒れやすく収穫量が安定しないなどの難しさがあり、生産者が増えにくい状況だったのだ。

富士通は旭酒造に対し、圃場(田んぼ)にセンサーを設置し、気温や土壌温度、土壌水分などを収集し、分析する方法を提案。共同で山田錦の栽培履歴を見える化し、生産者に提供する試みを実施している。言うまでもなくセンサーだけが重要なわけではない。クラウドやビッグデータ、モバイルなどの技術が取り組みを支える。このような、いわゆる農業のICT化は、トマトやレタスの栽培でも活発に行われており、農業のあり方を少しずつ、しかし大きく変えつつある。

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図1:ICTの進化によって、クルマの自動運転も現実的なものになってきた。ここに示したのは「Google self driving car」の画像認識イメージ(出典:www.digitalafro.com)

執筆者:
中村 記章 富士通 デジタルビジネスプラットフォーム事業本部 副本部長
大石 卓哉 富士通 デジタルビジネスプラットフォーム事業本部 シニアマネージャー

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