顧客体験価値を高める強力なツール AR/VR/MRの意義とインパクト

2017.09.20
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読者はAR(拡張現実)やVR(仮想現実)と聞いてどう思われるだろうか?「VRはゲームや旅行の疑似体験に使える」「AR?一時流行ったけど、最近聞かないな」といった感想が一般的かもしれない。IoTやAIなどビジネス直結のICTに比べ、コンシューマ向け、アミューズメント用途の印象が強いのも間違いないだろう。そしてヘッドセット型の端末が次々に登場して賑やかなVRに比べると、ARは下火でさして注目に値しないというのが実際のところではないだろうか?

しかし、である。デジタルビジネスの重要なポイントの1つが顧客体験価値の向上であり、それを通じた顧客エンゲージメントの強化だとすると、五感に訴えるAR/VRをうまく活用しない手はない。やや大げさに感じるかも知れないが「デジタルジャーニーを進むにあたって無視すべきではない、むしろ意欲的に取り組むべきITの1つである」と筆者は考える。そこで本誌の企画に際して「ぜひAR/VRを解説するページを欲しい」と求めた。その結果が本記事であり、最後までお付き合い頂きたい。

案内、教育など用途広がるAR

ARはどんな用途に使えるのか?例えば観光である。2020年にオリンピックが開催される東京では、訪日客向けに観光案内などの標識を英語や中国語、韓国語などに対応するよう、手当てした方がいいのは間違いないだろう。しかし物理的に多国語対応するには膨大な費用が必要だし、標識のスペースには限りもある。こんな時、ARが役に立つ。

訪日客が案内標識にスマホをかざすだけで、カメラで読み取った文字や画像を認識し、本人のスマホの言語設定に合わせて翻訳できる。眼鏡型のスマートグラスならもっと便利だ。アプリの開発や配付に関わる費用は発生するにせよ、訪日客のストレスを大幅に減らせるし何よりも日本の印象を向上できるだろう(図1)。


図1:ARの一例。函館山の標識に、英訳を重ね合わせて表示する
photo by Hiro1775/Prykhodov/Getty Images

この例から読み取ってほしいのは「AR=拡張現実」だけでなく「現実補完」でもあるという事実だ。分かりやすいので観光を例に挙げたが、現実を補完すると考えるとビジネスの現場でも色々な応用が考えられる。富士通をはじめ多くが取り組んでいる設備保全はその1つだ。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)越しに設備を見る、またはタブレットのカメラを向けるだけで、保全作業の手順が分かるし、センサー情報と重ね合わせることも可能だ。別の場所から熟練者が指示を出すこともでき、エラー削減に繋がる。

あるいは企業が新人や外国人に事業所案内、例えばコピー機の使い方をいちいち案内するのは無駄が多い。ARがサポートできればストレスを減らし、習熟スピードを速められるはずだ。小売店やレストランでも同様に、スマートデバイスとARをうまく使えば顧客体験価値を高められることは容易に想像できる。

しかも、これらは筆者でも思いつく話。情報収集、アイデア創出といったデジタルジャーニーを通じて幅広くリサーチして検討すれば、思いもつかなかった応用が浮かび上がる可能性が高い。それは顧客体験価値の創出、ひいては競争優位に結びつく。だからこそ最新のAR、VRのバックボーンを理解してほしいと考えている。

認識精度、現実感は飛躍的に向上

ここでAR技術を解説しよう。ARは、視覚など人の感覚器官を通じて得られる現実世界の情報に、コンピュータで処理した音声や映像などの情報を重ね合わせて表示(重畳表示)する技術だ。人間が普通に得る情報の量と質を、重畳表示により拡張しているわけである。決して新しい技術ではなく、源流の1つは20年以上前から取り組まれてきた「コンピュータビジョン」、つまりカメラ画像に写っている物体の輪郭や特徴点などを抽出・認識するものである。

20年ほど前は高性能なワークステーションを使っても車のナンバープレートの数字や文字を認識するのがやっとだったが、今ではできることが様変わりした。今日のスマートフォンでは20fps(1秒間に20フレーム)以上のリアルタイム性能でAR画像処理が可能になり、2016年夏に登場したポケモンGOのようなARゲームが登場するまでになっている。

精度やリアルタイム性に課題を抱えていた対象物の認識能力も、急速に良くなっている。クラウドにつながっていれば認識に必要十分なリソースを使えるし、学習済みの機械学習モデルを利用すればスマホのプロセサでも短時間・高精度に認識できる。また認識にはカメラだけでなく、マーカーや位置情報も利用できる(表1)。設備保全などは機器にマーカーを貼って読み取る方が確実だし、位置情報を利用すればカメラで読み取る必要をなくせる。このあたりは利用シーンごとに工夫を活かせるポイントである。残る大きな課題は小型軽量化やバッテリの問題。これらは日々進化しており、状況をウォッチしておく必要がある。


表1:ARにおける対象物や位置認識の手段

訓練シミュレータとしてのVR

VRは「没入型ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」にリアルな仮想空間イメージを投影する。HMDには加速度センサーやジャイロセンサーが備わり、人間の頭の動きを検知して仮想空間を移動・回転・拡大縮小し描画する。頭を右回転すれば、回転分だけ仮想空間を反対の左反転に描画表示する。こう説明しなくても、体験したことのある人なら、その現実感に驚いた経験があるだろう。実際には行けない宇宙空間、観光地、あるいは想像の世界に自分が存在するかのような感覚を得られるのだ。

VRもAR同様、ハードウェアの進歩が大きく寄与している。この2~3年でGPU描画処理性能の進化が著しく、例えばNVIDIAのGTX 1080を使うと4K以上の高解像度を40fps以上のハイフレームレートで表示できる。できることが増えているため、VRを実務に活用する企業も出てきている。ある飲料水メーカーの工場では、需要が集中する夏期にはアルバイトを大量募集する。その教育にVRを用いる。ラインの解体・洗浄・設置を疑似体験させ、習熟期間を従来の2カ月から2週間に短縮したという。ラインでの組み立てを担当する作業者の教育に利用する自動車工場もある。

お分かりだろうか?何十億円もする旅客機のシミュレータがあるが、あれをもっと手軽にどこでも使えるようにするのがVRの重要な用途の1つなのである。決してアミューズメント用途に限らないし、アイデア次第でほかにも広がるだろう。

本命はMR?

最後にMR。つまりVRとARを混在させたMixed Reality(複合現実)である。最近では米Microsoftが発売した「HoloLens」がある。同社曰く、「自己完結型ホログラフィックコンピュータであり、デジタルコンテンツへのアクセスと世界中のホログラムとの対話を可能にします」。

少し分かりにくいが、現実世界に仮想世界の何かを映し出す技術であり、見た目は重厚なグラス型のデバイスである。

例えば、家具メーカーが提供するサービスでは、顧客が自宅のリビングにいてこれを装着すると、あたかも家具があるように見える。手で押すと動かせる(表示された家具が移動する)が、現実のリビングにある壁や既存の家具にぶつかると、それ以上は動かせない。単純な例だが、それでも以前は不可能だったことを可能にしたと言っていいだろう。

最後に改めて強調したいのは、VR/AR/MRは顧客体験に直結する次世代のヒューマン・マシン・インタフェースであること。本格的な用途開発がまだ始まったばかりであることを考えると、これらに着目しない手はないと筆者は確信している。

執筆者:原 英樹(富士通 ミドルウェア事業本部 デジタルウェア開発統括部 統括部長)

この記事は、IT Leaders特別編集版『Knowledge Integration in Action 2017 in Summer』からの抜粋です。

トップ写真:JIRAROJ PRADITCHAROENKUL/Getty Images

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