リーンスタートアップの実践例 ソニー銀行との「チャットボット」開発

2017.09.27
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インターネット専業銀行のソニー銀行。店舗を持たない効率性を特徴とする半面、以前から利用者の問い合わせ応対が課題だった。金融商品やサービスを案内・説明するコンタクトセンターは日中オペレーションが基本だが、利用者の多くはビジネスパーソンであり、夕方から深夜の利用が多くを占める。ミスマッチが生じていたのだ。もちろんWebサイト上にFAQはあるが、検索に手慣れた人はともかく、そうでない利用者には能動的な操作を強いてしまう。

チャットボットに着目

一方、富士通は米シリコンバレーに米国富士通研究所(Fujitsu Laboratories of America)というR&D拠点を置き、日々、技術動向やビジネストレンドを探っている。そんな中、浮かび上がったのが顧客接点を高度化するテクノロジーとして注目を集め始めていた「チャットボット」だった。チャットボットはWeb画面での対話により、相手とコミュニケーションできるソフトウェアである。「これなら24時間365日、いつでも問い合わせの意図を汲み取って回答できる」と考えたのである。ソニー銀行のスタッフを招き、一緒に現地のエンジニアや金融機関などを実地ヒアリングして、この考えの正しさを検証した(情報収集・問題発見)。

しかし、これで終わったわけではない。自然文による問い合わせ対応や金融商品の案内を行うことはできるが、その内容は日々変わる。それに追従するには、機械学習のチューニングや問い合わせデータの編集をユーザーで実施できる必要があることも、情報収集する中で明らかになった。これまでのように富士通サイドで構築や運用を担当するやり方では、費用もさることながら機能向上のスピード面で問題があるのだ。

いったい、どうするか──。我々は、機械学習のチューニングやスクリプトの編集といった工程を、ユーザー企業が実施できる仕組みを開発することにした。具体的には、富士通がクラウドサービスとして仕組みを提供し、チャットボットそのものはソニー銀行が作り込むというパートナーシップである。

実装に向け共創の場を活用

「ユーザー企業が自らチャットボットを作れるサービス」という骨格は決まったものの、どんな機能を持たせるかは別の話だった。外部にリファレンスとなる取り組み事例があるわけではないので、自分たちで考えなければならない。あらゆる質問に応対できる汎用的なチャットボットは技術的に難易度が高いし、意味がない。逆に特定の金融商品の案内に絞り込めば作りやすいが、多数のチャットボットが必要になる。また利用者がどのチャットボットを使ってやりとりするのかを、何らかの方法で案内する必要も生じる。

方針を決めるため、対象とする利用者(新規顧客、既存顧客、年齢など)を洗い出し、それぞれ、あるいは利用者層を跨がってどんな種類のチャットボットが必要なのか、チャットボットに求める機能は何かといったことを、ソニー銀行と富士通の人材が協力して検討した(アイデア創出)。サービスをどんなツール(Web、メッセンジャー、ネイティブアプリなど)で実現するかもテーマの1つだった。ユーザーインタフェース設計やサービス実装における検証項目を検討する際には、その領域の専門家である富士通デザインのデザイナーも呼んで議論・検討を重ねた。

この時、実験的な試みとして共創の場「HAB-YU」を、議論/検討の場所に使った。通常の会議室でも問題はなかったはずだし、比較実験したわけでもないが、例えば「チャットボットの応答では標準的な日本語だけでなく、関西弁などもサポートする」といった突飛なアイデアが複数出たのは、議論の場が作り出す何らかの効果だったのではと推察している。HAB-YUのような、普段とは雰囲気の異なる場で議論するメリットはあると考えている。

“作りながら捨てる”を繰り返す

必要最低限の機能を決めたら次は開発(サービスの実装)である。IT基盤にはクラウドを利用し、JIRA(チケット管理)、GitBucket(ソース管理)、Jenkins(自動ビルド、自動テスト)といったアジャイル開発ツール、コミュニケーションのためのSNSなどを駆使して進めた。富士通がプロトタイプを作ったら、ソニー銀行と富士通からそれぞれ4~5人が参加して操作し、問題や改良点を議論する。出たアイデアや要望は2~3週間で実装する。それを繰り返す流れである(サービス実装=PoC)。妙な表現だが、”作りながら捨てる”がこの時の姿を的確に表現している。

使えるものができた段階で、ソニー銀行の事業部門へアプローチし使ってもらった(図1)。前述した機械学習のチューニングやスクリプトの編集といった工程を、ユーザー自身ができるかどうかを確認しながら事業部門のニーズを深堀りしたのだ(PoB)。この間にシリコンバレーに視察に行ってもいる。チャットボットに焦点を合わせて、最新のAI技術やユーザーインタフェースの動向を調べたり、ディスカッションしたりするためだ。


図1:ソニー銀行と富士通が共創した「チャットボット」の構成

前回の情報収集からさほど時間が経ったわけではないが、常に最新事情を知っておくことは重要である。それにプロトタイプという実現したいイメージに近いものを持った上で現地調査に行くことで、プロトタイプをより深堀りすることができる。現在、2017年上期のサービスインに向けて、ソニー銀行と富士通が協力しながら最終の検証を進めている。

執筆者:中村 政和(富士通 デジタルフロント事業本部 デジタルフロントセンター)

この記事は、IT Leaders特別編集版『Knowledge Integration in Action 2017 in Summer』からの抜粋です。

トップ写真:JIRAROJ PRADITCHAROENKUL/Getty Images

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