エクスポーネンシャルな技術進化 新興国の人材などが破壊の原動力

2017.08.17
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本連載の初回『デジタルジャーニーへ向け 今こそ、旅立ちの時』ではデジタルビジネスがもたらす影響、脅威の一端を見た。だが、そうした状況を理解してもなお、次のような意見もあるのではないか。

「技術の進化によって甚大な影響を受ける企業や業界は、確かに存在する。しかしそれは今に始まったことではなく、浮き沈みは昔からあったことだ。例えば道路網や鉄道、航空機などが普及して人の移動が変われば、関連する産業や企業は影響を受ける。工業製品や繊維の新素材、医療技術など、多くのことが同じだ。デジタル技術の影響をことさら重大視するのはいかがなものか」──。

ここではこの疑問に対して、技術の観点から改めて考えてみよう。

テクノロジーが指数関数的に進化する

表1を見てほしい。1946年に最初のデジタル計算機であるENIACが誕生して以来、コンピュータ技術は着実に進歩してきた。それでも20世紀の間、つまり60年ほどは政府機関や企業の専有物だった。導入も運用も費用がかかったからである。


表1:コンピュータからICT、そしてデジタル化への道程。進化のスピードが加速している

21世紀に入ると様相が一変する。2000年半ばにクラウドコンピューティングが、同じ頃にスマートフォンが登場した。これらが相まって、ベンチャー企業や個人が高性能(=高価)なコンピュータ資源を、それと意識せずに使える状況が生まれた。例えば数百万、数千万の文献を即座に検索したり、数10億件の異なるデータを複合的に分析したりといったことだ。

それから10年を経る中で3Dプリンタやドローンが普及し、スマートフォンの普及率は先進国を中心に70%を超える。IoTやAIも登場した。それらをクラウドやビッグデータを媒介に組み合わせ、「不可能を可能にする」、そんな状況が進んでいる。事実、シェアリングエコノミー、メーカーズムーブメント、Fintechなど話題には事欠かない。中でもAIは破壊的なイノベーションだろう。これらのすべての背景にあり、原動力となっているのが、”エクスポーネンシャル(指数関数的)テクノロジー”と称される非線形の技術進化である。

「米の倍増し」という逸話が、分かりやすいかも知れない。羽柴秀吉の側近が戦功の褒美を問われ、「1日目は米1粒。2日目は倍の2粒という具合に前日の2倍の米粒を賜りたい」と答えた。6日目は32粒、8日目は128粒、11日目は1024粒と大したことはないかに思えるが、21日目は104万8676粒、31日目には10億超へと急増。秀吉が「自分が悪かった。勘弁してくれ」と頭を下げた話だ。

「2000年を境にモードが変わった」

「半導体の集積度は18カ月~24カ月で2倍になる」というムーアの法則(経験則)に従うデジタル技術も、これと同じ(図1)。以前は想定内に思えた進化が、最近では想定外の、想像を超えるレベルになっている。「米の倍返し」に当てはめれば、35日目あたりなのかも知れない。


図1:ICTの基盤であるプロセサ、ストレージ、ネットワークの価格は急速に下がり続けている(縦軸が対数である点に注意)。
出典はKleiner Perkins Caufield Byersが2014年5月に公開した「Internet Trends2014」から

この現象を独自に研究する久保博尚氏(ナカシマプロペラ・イノベーション室長)は、こう話す。「機械や電機、建築などの技術はなんであれ年々、安く、性能が良くなる。しかし進化のスピードはリニア(線形)で、次にどうなるかは予測できる。努力を怠らなければ追いつけるのだ。ICTも以前はそうだったが、2000年を境にモードが変わった。指数関数的な、爆発的なスピードを伴う進化なので、先行きがどうなるかが想像できないし、普通の努力ではキャッチアップできない」。

よく知られていることだが、今日のスマートフォンの性能は、20年前に何十億円もしたスーパコンピュータの「CRAY-1」を凌ぐ。そう遠くない時期に今のスマートフォンが数センチ角ほどの大きさになり、値段も無視できるほどに安くなるだろう。これがエクスポーネンシャルの1つである。

もっとも「ムーアの法則は永遠ではなく、限界が近い」という指摘もある。先端の半導体は14nm(ナノメートル)まで微細化されており、分子(数nm)や原子(0.1nm)の世界はすぐそこ。もう一段の微細化(性能向上)となると、製造技術や電力マネジメントの面で大きな壁があるとされるのだ。それでもアーキテクチャの改良や並列化、量子コンピュータの実用化といった技術も控える。

新興国の人材がデジタル化を牽引

加えてエクスポーネンシャルは、なにも半導体技術に限った話ではない。デジタルビジネスへの参加者の増加もある。世界におけるインターネットユーザー数は2015年に30億人を超え、2019年には40億人になると推定される。一方で欧米や日本、シンガポールなど先進国の人口は12億5000万人。中国、インドなどの新興国や途上国の方が、ネットユーザーが多いことになる。

ここで人口に占める準天才/天才の出現率は0.25%という数字がある。新興国や途上国のネットユーザーを仮に20億人とすると、20億×0.0025=500万人の優れた頭脳を持った人材が言葉の壁を乗り越え、MOOC(大規模オンラインオープンコース)をはじめとする多彩なコンテンツにアクセスできる計算だ。当然、ハングリー精神も旺盛で、こうした人材がイノベーションを牽引するのは明らかだ。

もう一つが巨額の投資。表2にAIに絞って各国政府の施策を示した。米国のBRAIN Initiativeや欧州のHuman Brain Projectなど、膨大な予算と研究者がつぎ込まれていることが分かる。一方、米国では政府よりも民間企業がR&D投資に意欲的。米CB Insightsによると、2016年に550社強のAI ベンチャーが総額50億ドルを調達した。


表2:各国のAI関連施策。米国ではほかに「SyNAPSE」や「Big Mechanism」、欧州では「SpiNNaker」といったプロジェクトがある

ICT大手の投資はさらに巨額だ。米Bloombergによると2016年のR&D投資は、Amazon.comの142億ドルを筆頭に、Alphabet(Google)が135億ドル、Microsoftが120億ドル、Appleが97億ドルと、日本円で1兆円を超える。すべてがAI分野ではないし投資額と成果は必ずしも直結しない。そうであっても、人材や投資の相乗効果で今はまだ見えない画期的な技術進化が起きると考えておく方が、賢明だろう。

執筆者:田口 潤(インプレス IT Leaders 編集主幹)

この記事は、IT Leaders特別編集版『Knowledge Integration in Action 2017 in Summer』からの抜粋です。

トップ写真:nadla/Getty Images

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