アイデア創出法として注目される アイデアソン実施の勘所

2017.08.30
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視察や有識者へのインタビュー、議論を重ね、情報を収集する。OODAループが示すように、情報収集はデジタルジャーニーにおいて常に実践し続ける必要がある。だからといって、そればかりに時間を費やしてはいられない。ビジネスや事業革新につながるアイデアを創出し、実践する必要がある。ここでは、そのための有力な手段である「アイデアソン」を解説する。

現状の延長線上とは異なるアイデアを見出す

過去、アイデアを生み出すために、様々な方法が考案されてきた。KJ法やブレーンストーミング、マインドマップ、マンダラートなど枚挙にいとまがないほどだ。最近では、中長期的な課題やテーマに挑むための対話の場であるフューチャーセンター、問題や行うべきことの本質を追究するデザイン思考(デザインシンキング)も注目を集める。さらに外部の知見を幅広く集めるクラウド・ソーシングも、その1つと言えるだろう。

これらの手法や場を適材適所で利用しながらも、富士通は「アイデアソン」と呼ばれる手法に注目し、3年にわたって実践を積み重ねてきた。アイデア+マラソンの意であり、特定のテーマに対して多数の参加者がチームを組んでアイデアを出し合い、競いながらそれをまとめていく形式のアイデア創出手法である。富士通がこれに注目する理由の1つは複数の組織、あるいは企業が参加でき、その相互作用を通じて現状の延長線上とは異なるアイデアを見出すのに適しているからである。

もう1つ、参加者が同じ時間と空間を共有することによる、共体験効果も大きな利点だ。立場や肩書きを超えた様々なバックグラウンドやスキルを持った他の参加者と、共通するテーマのものとで議論を交わす。この体験を通じて、ともすれば自分の組織や企業を優先したり、あるいは同質化したりしがちな思考や立ち位置に、風穴をあけることが期待できる。少人数の議論やインタビュー、現場の行動観察などとは別角度の気づきを得ることもできる。


表1:アイデアソンの標準的な流れ

アイデアソンの利点と流れ

まとめると、アイデアソンは

 ・何らかの新たな取り組みの必要性を理解したものの具体的な方向性が見えていない
 ・部門間を越えて危機感を共有し、新しいビジネスへの機運や意識を高めたい
 ・より多様な知見や今の延長線上ではないアイデアを見出したい

といった状況に適している。情報収集・問題発見を通じて自社の課題や問題が明らかになった段階で、採るべきアイデアを見出したり、多くのステークホルダーを巻き込みながらアイデアをブラッシュアップできるのだ。

しかしアイデアソンも万能ではない。大きな問題の1つが、一過性のイベントで終わってしまうケースが少なくないことで、アイデアソンの実施が手段ではなく、目的になってしまうのである。富士通でもそうしたことを少なからず経験した。1回のアイデアソンで斬新なアイデアが生まれるとは限らない問題もある。現実には1回で生まれる方が稀なのにも関わらず、一度しか実施しないことが多い。

では一過性のイベントで終わらせず、しかも現実に着手可能な、斬新なアイデアを生み出すアイデアソンを実施するにはどうすればいいか。本題に入る前に、まずアイデアソンの流れ(手順)を紹介しておこう。表1に富士通が実施するアイデアソンを示した。 (1)オリエンテーション、(2)キーノート、(3)アイデア創発ワーク(写真1)、(4)チームビルディング、(5)発展ブレスト(写真2)、(6)発表、(7)審査・表彰、というステップを踏む。


写真1:アイデア創発ワークの1のシーン。手書きでラフに思いついたことを表現するアイデアスケッチ

写真2:チームごとにアイデアを練り上げていく発展ブレスト。アイデアソンの山場である

これは経験上、我々がベターであると考える標準ステップであり、必ず「こうしなければならない」というものではない点に注意していただきたい。例えば社内外の識者によるレクチャであるキーノートは、参加者の意識が十分に高い場合は飛ばしてもいいし、アイデアソンとは別に勉強会形式で実施してもいい。表彰も、必ず行わなければならないという性格のものではない。

それはともかく、通常は1日ないしは2日間をかけ、参加人数は20~40人ほどで実施する。役職や立場に関係なくフラットな関係性の中でアイデアをつくることを重視するほか、ワークでは身体を動かすこともあるため、服装は動きやすいラフな格好が望ましい。テーマや参加者数で要する時間は変わるので、弾力的に考えておく必要がある。2日間で実施する際は、アイデアを練り上げる時間をとるだけではなく、フィールドワークを盛り込むなどを通じてインプット量を増やすことも必要に応じて行う。

実践から生まれた5つの成功ポイント

本題に戻ろう。一過性のイベントで終わらせず、しかも実現可能で斬新なアイデアを生み出すアイデアソンを実施するには、どうすればいいか。そのポイントは大きく分けて5つある。

(1)開催目的・テーマを煮詰める

何と言っても大事なのが事前準備、つまりアイデアソンの目的やテーマ、投入する時間、参加メンバーや審査員などを明確にすることだ。何らかの幸運が働いた場合は別にして、事前準備が成否を決めると言っていい。例えば自動車に関わるテーマを考えるとして、読者は「未来の自動車を考える」、「未来の交通機関を考える」、「未来の移動体のあり方とは」のうち、どれがいいと考えるだろうか?

最初の「未来の自動車を考える」というテーマでは発想が自動車の延長線上から抜け出しにくくなる。「交通機関」にすると発想に拡がりが期待できるし、「移動体」とするとなおさらだ。別の例を挙げると、「○○の魅力を100倍にするには」というような高い理想に設定すると、現状の延長線の発想から転換しようという意識が高まる。しかし極端に行き過ぎると、参加者の「よし、考えてみよう」という意欲を削ぎかねない。何が良い悪いではなく、目的と密接にリンクするので準備が重要になるわけだ。

富士通でも目的やテーマ設定は常に悩むところで、明確な指針があるわけではない。しかしそれだけのコストをかける価値があるのも確かである。加えて準備を尽くすことは、そこに仮説が存在することでもある。仮に思った成果が出なくても、仮説があれば「次は、こう変えてやってみよう」という方針に繋がる。情報収集フェーズで得た情報や知見をもとに事前準備を徹底的に煮詰める必要がある。

(2)”人”に関して検討を尽くす

事前準備の一環だが、人に関することも重要である。社内といっても特定部門や年齢層に偏るとアイデアも偏るから、通常は職種やスキル、年齢、あるいは国籍などの多様性を考慮すると思わぬアイデアが出やすい。参加をオープンに募集するだけだとどうしても特定の部門や層が中心になるので、主催者が人選して声がけすることも必要である。いずれにせよ「多様性」は参加者を募る場合のキーワードである。

したがって取引先や社外の関係者、一般の生活者を巻き込むこともある。機密保持には留意しなければならないが、多様性を外部に求め、社内からは得にくい現場に根ざしたアイデアを生むことを企図するケースが該当する。

キーノートスピーカーはどうか。情報収集フェーズを担った人や外部有識者が適任であり、外部有識者の場合はテーマに近い領域の専門家や異業種におけるデジタルビジネスの実践者など、ケースバイケースで選定する。それほど慎重になる必要はないが、発想のヒント提供がキーノートの目的であることは忘れてはならない。参加者を募ることを目的として著名な豪華ゲストを呼ぶケースが散見されるが、目的やテーマとリンクしないと意味がない。

生まれたアイデアを次のフェーズに進めるために重要なのが審査員である。とはいえ、1日だけのアイデアソンで事業化を判断するのは困難。そこで主催者はアイデアソンが事業創出のどの段階か、どんな展開になるかを予め検討し、準備の段階で審査基準を決める。実際に試す価値があるか、発展性が見込めるか、といったことが基準になる。これを踏まえて事業主体として進める権限・責任を持つ人や投資権限を持つ人を審査員とする。社内だけでなく外部の有識者や投資家などを審査員にアサインするのも有効だ。

(3)アイデアの発散と収束を繰り返す

当たり前だが、斬新なアイデアはチームで議論したからといって浮かぶものではない。1回のアイデアソンの中でも様々な可能性を探る「発散」と、有力なアイデアを絞り込む「収束」を繰り返していくことが重要だ。そのために適宜、様々なアイデア創発手法を取り入れるべきである。具体的には表2に示す手法がある。


表2:アイデアを生み出す手法の例

表2の中で有用なのがアイデアスケッチ。どんな利用者の、どんな課題を解決するのかを文字や図形、擬音などを用いながら落書きする感覚で描く。絵心はあればいいが、特に必要はない。アイデアを具体化し、さらに発想を拡げる上で可視化の効果は意外に大きいのである。

これら以外にも我々は、テーマに関する「当たり前」や一般的な「常識」に対する、「非常識」を考える方法も、よく試みている。例えば「何かを買う=支払う」のが当たり前とすれば、その逆の「使ってみてから支払う」を成立させる条件を考えてみる。「タクシーを呼ぶ」という常識に対し「タクシーが来る」という非常識もある。簡単にできる一方で効果的な発想法を用いてみると、参加者自身の持っているバイアスに気づき、独創的なアイデアを出しやすくなる。

こうした手法を使って、どんなタイミングで発散と収束をどう切り替えるかをコントロールするのは、ファシリテータの役割である。「突飛で、荒唐無稽なことを言っても許される」という雰囲気を作ることや、可能性を探ることも同じである。

(4)権利の帰属など参加規約を明確にする

アイデアソンの参加メンバーに取引先や顧客、ユーザーを招く場合には、権利の取り扱いを含めた参加規約を事前に明確にすることが重要である。「そんなことか」と思われがちだが、それをしないと斬新なアイデアを現実化した時に問題になる可能性が高い。業務の一環で参加している社員でも、そう違わないかもしれない。

アイデアソン自体をオープンな形で開催する場合、生まれたアイデアは、その場に参加した全員のものにすることを推奨している。出てきたアイデアの権利を主催者が得るよりも、主催者と参加者が意見をぶつけ合って創造性を発揮できる環境を作ることが重要だと考えるからだ。

一方で自社の機密情報を開示してアイデアを練る場合などは、参加者にNDA(守秘義務契約)を結んでもらう必要もある。富士通では、これまでのアイデアソンの実績を踏まえて、オープンなアイデアソン、特定の企業内に閉じたアイデアソンそれぞれに適した権利の取り扱い方を整備している。

(5)主催者も参加者と一体となり試行錯誤する

アイデアソンは、同じ会社にいても普段、会話することがなかった人々がつながる絶好の機会である。1つのテーマに対して試行錯誤し、議論をする共体験の効果はすでに述べた通りだが、それも1回で終わっては意味がない。デジタルビジネスの創出に向けて何度も繰り返しチャレンジする土壌の形成にするべきである。

この点でアイデアソンの主催者と参加者は同列に考える必要がある。時には主催者側のメンバーが参加者に混じって課題を深堀りしたり、解決策を考えたりする。生まれたアイデアをビジネスにつなげるには参加者同士、主催者と参加者の創造的な関係性、交流が重要になる。アイデアソンで生まれたアイデアが、あるフェーズに到達したときに参加者の人的ネットワークに助けられて事業化まで進むことも多々あるからだ。

アイデアソンの実施内容を社内報で発表したり、企業内SNSで議論を募ることも有効である。

アイデアから価値を生み出すために

アイデアソンはアイデア創出の手段であり、目指すのはアイデアを実現し、ビジネスとして成長させることである。そのためにはアイデアソン実施後の展開を検討しておくことが重要になる。「アイデアソンで表彰されたが、何もやらせてくれない」「アイデアソンを繰り返すばかりで、何の事業化の動きもない」といった状況では、徒労感が残るだけになってしまう。

この問題を乗り越えるには、主催者は「このアイデアを何としてもカタチにしたい」と思う発案者や当事者がいる限り、たとえ創出されたアイデアが今一歩な時であっても全力でサポートすることが望ましい。追加で情報を収集すれば実現への道が見えてくる場合があるし、例えば世の中にすでに類似のビジネスがあるかどうか確認し、あるとすれば徹底的に不満を分析することでチャンスを見極めることができる。

“今一歩”という判断は審査員のそれに過ぎず、市場は異なる判断をするかもしれないし、何よりもアイデアを試したり実行したりするコストは、昔に比べて大きく下がっている。「小さな失敗を多く実施しないと、いきなり成功は覚束ない」といった趣旨を表す”Fail Fast”(小さな失敗を早く繰り返す)」という言葉もある。アイデアソンはその開催自体に意味があるのではなく、アイデアの実施を伴って初めて価値を持つと明記しておきたい。

執筆者:黒木 昭博(富士通総研 コンサルティング本部 産業グループ チーフシニアコンサルタント)
武田 英裕(富士通 デジタルフロント事業本部 デジタルフロントセンター)

この記事は、IT Leaders特別編集版『Knowledge Integration in Action 2017 in Summer』からの抜粋です。

トップ写真:LvNL/Getty Images

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