デジタルジャーニーを歩む武器 テクノロジーを広く、深く把握する

2017.08.03
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クラウド、モビリティ、ビッグデータ、ソーシャル──米IDCはこれら4要素で構成される情報環境を「第3のプラットフォーム」と名付けた。米ガートナーは同じ4要素のそれを「Nexus of Forces」(力の結節)と呼ぶ。単純に頭文字をとってSMAC(ソーシャル、モバイル、アナリティクス、クラウド)と呼ぶこともある。これら4要素には特別な呼称が付与されるだけのパワーがあるのだ。

すなわち4要素にIoTやAI、ロボティクス、3Dプリンタなどが結節して進展する「第4次産業革命」を牽引する力である。ほんの10年ほど前までは、合理化・省力化の道具と位置づけられてきたICT=デジタル技術は、今では社会や経済、事業イノベーションの原動力になった。本連載のテーマ「デジタルトランスフォーメーションへの旅路=デジタルジャーニー」が必然である理由でもある。

この点で、すでに様々あり、次々に登場するデジタル技術の動向を把握すること、自社の事業変革や新規創出への適用を検討すること、そして実際に活用することはCIOやIT部門、デジタル変革を担う部門にとって、クリティカルなミッションである。そこで、本連載では、適時、クラウド、AI、IoTなどデジタルジャーニーを行くために欠かせない武器=テクノロジーにスポットを当てる記事も用意する。

これから重要となるデジタル技術を俯瞰する

今回はまず、現在、どんな技術があるのか、また今後、生まれるのかを見ておこう。単純にリストアップすると色々ありすぎるので、主要と考えられるものに絞って図1に示した。それでもアプリケーション開発技術、ユーザーインタフェースに関わる技術、コトやモノの自律化/自動化に関わる技術など、実に多様だ。本連載で紹介する7つの技術を赤くマーキングしたが、それらが全体の一部でしかないことをご理解いただけるだろう。なおスマート家電や自動運転車、あるいはナノテクノロジーなどはあえて外している。

どんな場合にどの技術を採用すればいいか、デジタルジャーニーには決まった道筋はない。もちろん何らかの処理を自動化するにはAIを利用するなど大まかには自明であるケースがあるにせよ、常に関連する技術に目を配り、試行錯誤しながら組み合わせて活用していくことが重要になる。体系化が難しい多様な技術を俯瞰的に捉えておくことが必要なのだ。


図1:様々あるデジタルテクノロジーを俯瞰した。赤ブロックについては本連載の別の記事で解説する

コア技術の確立に向けたR&Dへの取り組み

もちろん俯瞰的に捉えることは富士通のような企業にとって、より重いテーマである。したがって力点の置き方に差はあるが、図1の技術に関しては何らかのR&Dや製品/サービス開発を手掛けている。以下では「次世代コンピューティング」と「インダストリー応用」に含まれる技術について簡単に説明しよう。

まず次世代コンピューティング技術である。エクスポーネンシャルな技術進化を支える半導体の微細化技術には限界が見え始めているが、処理性能への要求は留まることがない。例えば災害復旧の手順や投資ポートフォリオの最適化、物流の効率化など、既存の汎用的なプロセサでは解決困難な大規模組み合わせ最適化問題は多数残っており、コンピュータメーカーとしては新たなブレークスルーを起こす必要がある。

その1つが量子コンピューティングであり、我々も研究を進めている。ただこの技術は物理現象を利用するため扱いが難しく、多様な問題に適用するレベルにはまだ遠い。そこで富士通は先進的な研究で知られるカナダのトロント大学と共同研究を実施し、一般的なコンピュータに比べて約1万倍高速に組み合わせ問題を計算できる新しいアーキテクチャを開発して2016年10月に発表した。

実際に試作したのは1024ビットの計算機構であり、実用に供するには10万ビットから100万ビットの機構が必要である。このため実用化は2018年度になる予定だが、既存の半導体技術で実装できる大きな利点がある。一方でスーパーコンピュータ「京」を超えるエクサFLOPS級スパコンのプロセサとしてARMアーキテクチャをベースにした並列化技術の開発や、ディープラーニング専用プロセサの開発も行っている(後者についてはAIのパートで解説)。

新たなUIになるロボット「RoboPin」

人とICTの実世界での接点にフォーカスした技術では、ロボットも手掛けている。「RoboPin(ロボピン)」という名称で、ディスプレイやキーボード、スマートフォンに代わる新しいユーザーインタフェース・デバイスを実現するのが目的である(写真1)。

そのため自走する機能は持たせず、人とのインタラクションを主眼に置く。地図上のPin(ピン)をイメージしたシンプルなデザインで、6軸の関節自由度で頭や腕を動かすことで感情表現や指示を可能にした。わずか6軸で多彩な表現ができるのはRoboPinの大きな特徴である。例えば店舗における来店者への売り場案内、駅や空港のような公共の場における誘導、介護の現場における見守りや会話などのシーンに適している。


写真1: 富士通が開発したRoboPin。市販は行っていない。

ブロックチェーンの「Hyperledger」に参画

非常に重要な技術と位置づけて取り組むブロックチェーンにも触れておこう。周知のようにブロックチェーンは仮想通貨であるビットコインの基盤技術だけでなく、権利や契約条件の記録・管理へと用途が拡大。利用形態も参加者を制限したコンソーシアム型やプライベート型など多様化が進みつつある。取引を承認する合意形成アルゴリズムも性能改善が進んでいる。

事実、分散型アプリケーションやスマート契約を構築できるプラットフォームであるオープンソースの「Ethereum」や、ユーザー独自通貨の発行や、不動産・証券などの金融資産を取引可能な「ColoredCoin」などの数多くのプロジェクトがグローバルで進行している。そんな中で富士通が取り組むのはLinux Foundationの「Hyperledger Project」。オープンソースのブロックチェーン技術だが、金融やIoT、サプライチェーンなどビジネス利用を強く意識しているのが特徴である。

富士通はプレミアメンバーの1社として創設時から参画し、特に安全性や信頼性、ユーザビリティの面で貢献すべく尽力している。並行して、これをベースに参加メンバー管理やアクセスコントロールといった機能を追加し、企業間取引に使えるようにするプラットフォームを開発している。コンソーシアム型、プライベート型での利用を想定したものだ。

なおHyperledger Projectに限らず、OSSへの取り組みは決して一過性のものでないことを強調しておきたい。信頼性、安定性に不安があったLinux OSをミッションクリティカルな用途に適用できるように貢献して以来、富士通は多くのOSSにコミットしてきている。一例がIaaSの基盤ソフトである「OpenStack」。日本企業で唯一、コミュニティのボードメンバーに加わり、ネットワーク制御の「Neutron」やオブジェクトストア「Swift」の強化、運用管理のログ・メトリック分析の機能拡張などを手掛けている。

もちろんOSSに限らず、富士通独自のソフトウェア開発も行っていく。しかし今日では、OSSと無縁のソフトウェアは普及しにくい事実がある。この点で自社開発したソフトウェアのオープン化も含めて、今後さらにOSSに貢献していくのが富士通のソフトウェア技術戦略の要である。こうした取り組みは、デジタルジャーニーにおけるユーザー企業への貢献に直結すると確信している。

執筆者:福井 知弘(富士通 サービステクノロジー本部 技術戦略室 マネージャー )

この記事は、IT Leaders特別編集版『Knowledge Integration in Action 2017 in Summer』からの抜粋です。

トップ写真:scorpp/Getty Images

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