デジタルジャーニーへ向け 今こそ、旅立ちの時

2017.07.27
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AI、IoTをはじめとするデジタル技術がかつてないほどの大きな影響を及ぼし、既存の産業は破壊的な影響を受ける。だから企業はデジタルトランスフォーメーション(変革)に挑まなければ生き残れない──。
2017年の今日、常識といえるほど語られるようになったストーリーだが、懐疑的に見る人や企業は、少なくないのではないか。

経営層はデジタル技術に関心なし?

一例が日本能率協会がまとめた「日本企業の経営課題2016」である。経営層へのヒアリングをまとめたもので、重要な経営課題は順に、収益性の向上やダイバーシティを含めた人材の強化、売り上げ・シェア拡大、などとなっている(図1)。「IT技術の活用・戦略的IT投資」は、17番目に過ぎない。


図1: 日本能率協会がまとめた「日本企業の経営課題2016」におけるトップ5。全部で20項目あるが「IT技術の活用・戦略的IT投資」「企業ミッション・ビジョン・バリューの浸透や見直し」などの項目(選択肢)は、2016年度で15位以下に留まる

別の視点からも見てみよう。20年近く前の2000年頃、EC(電子商取引)のブームが巻き起こり、物理的な店舗や店員を持つ小売業はすべて消えるか、縮小を余儀なくされるという論調が盛んだった。しかし影響がゼロとは言えないにせよ、スーパーや百貨店などの大手小売業、ファッションの専門店や町の電気店、あるいは書店やCDショップのような専門店は、今も存在感を保っている。今日の厳しい経済環境下でも、上場企業を中心にまずまずの業績を上げている企業は少なくない。

マネーの電子化もそれほど進んでいない。「家計の金融行動に関する世論調査(平成28年)」によると、決済手段に占める電子マネーの割合は1000円以下が13.9%、1000円超~5000円以下が11.4%で、それより上になると1桁台。現金、クレジットカードが今なお圧倒的である。こう見てくると「デジタルトランスフォーメーションは大げさ」、「ITを売りたいベンダーの常套手段に過ぎない」といった見方には、一定の説得力がある。

米国では2000年代から“破壊”の嵐

しかし、これは日本の話。海外に目を転じると違う景色が見えてくる。米シリコンバレー在住のITウォッチャーである山谷正己氏(ジャストスキル代表)は、「米国では2000年代から大企業が“破壊”されるケースが相次いでいる」という。

例えばレコード/CDチェーンとして隆盛を誇った米タワーレコード(企業名はMTS)は2006年、米レンタルビデオ最大手だったブロックバスターは2010年、米国第2位の書店チェーンだったボーダーズ・グループは2011年に、いずれも経営破綻した。書店1位のバーンズ&ノーブルも大幅な規模縮小を余儀なくされている。

それだけが原因ではないにせよ、それぞれ「AppleのiTunes、オンライン動画配信のNetflix、Amazon.comといったデジタル企業/サービスが影響したことは間違いない」(同)。

著名なITアナリストである米Constellation ResearchのR“Ray”Wang会長も「iPhoneは音楽、PC、ソフトウェア、デジタルカメラ、カーナビなど、27ものビジネスを破壊した。こうした産業では組織も仕事も人も、もう戻らない」とデジタル技術の脅威を指摘する。

景色の変化は今も続くどころか、さらに加速している。イエローキャブで知られるタクシー業界を窮地に追い込むUberやLyftのような配車サービスや、ホテル業界に挑むAirbnbは最も分かりやすい例だろう。ほかにも弁護士事務所や会計事務所ではAI(人工知能)が存在感を高め、新人スタッフの採用を減らし始めている。株や商品取引の世界でも、人間のトレーダーに代わってプログラムが主役になりつつある。


米国で隆盛を誇ったタワーレコード、ブロックバスター、ボーダーズ・グループといった巨大チェーン店はすでに存在しない。タクシーの代名詞であるYellow Cabにも、配車サービス、自動運転技術などが迫る

破壊を避けるには変革が必要

Fintechの波に晒される金融業、Industrial Internetや3Dプリンティングに直面する製造業、IoTやドローン技術が重要性を増す農業、そして教育産業も、今は目立った大きな動きはないとしても、破壊的な動きに巻き込まれる時期が近づく。急ピッチで進む自動運転技術の影響を受ける自動車や関連産業も同様だ。「デジタル化による破壊的な変革から無縁でいられる業界や企業は、ほとんど存在しない」と言われるゆえんである。

2016年8月には日本でも、人間の医師が気づかなかった治療法をAIが発見。患者を救ったという“事件”が起きた。中古車買取・販売の最大手であるIDOM(旧ガリバー)が自らの本業を破壊しかねないカーシェアリングサービスに乗り出したり、定額で洋服を好きなだけ借りられるairClosetやメチャカリといったサービスも会員数を伸ばしている。破壊的な変革の波は、ひたひたと押し寄せているのだ。

となれば「デジタルトランスフォーメーションは大げさ」、「まだ自分たちが取り組むのは時期尚早」などと言ってはいられない。IoTや3Dプリンタ、ロボットとAIの融合などすでに姿を現したテクノロジーだけではなく、今はまだ存在しない新たな技術が生まれることも間違いないからだ。

デジタルジャーニーに乗り出す

ではどう対応するか?答は、破壊される側から脱して破壊する側に回ることであり、そのための手を打つことしかない。つまりビジネスイノベーションであり、そのための「デジタルトランスフォーメーション(DX:デジタル変革)」である。DXは既存ビジネスの改革や新サービスの創出、データ駆動の迅速な意思決定などを可能にするべく、企業組織や文化をデジタル対応に変えることを意味する。根底にはITがあるだけに、CIOや情報システム部門はDXをリードする責務がある。

このような変革の取り組みを、旅に見立てて「デジタルジャーニー(Digital Journey)」と呼ぶ。TripやTravelと異なり、Journeyには「ある状態から時間をかけて別の状態に変わる」といった、長い旅路というニュアンスがある。DXを成し遂げるための試行錯誤の道のりがデジタルジャーニーであり、そこには予定外の出来事や様々な困難が立ち塞がるだろう(図2)。本連載『今、”デジタルジャーニー”に乗り出す』は、そんなデジタルの旅路に向かう企業や人に向けたガイドブックである。


図2 デジタルジャーニーの道程(一例)

執筆者:田口 潤(インプレス IT Leaders 編集主幹)
柴崎 辰彦(富士通 デジタルフロント事業本部長代理、コンサルタント)

この記事は、IT Leaders特別編集版『Knowledge Integration in Action 2017 in Summer』からの抜粋です。

トップ写真:mbbirdy/Getty Images

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