視察や調査、実践者との議論を通じて 最新の実践事例や技術動向を把握

2017.08.10
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多くの企業がデジタルビジネスへの取り組みを本格化しようとしている。しかし何からどう着手すればいいかが見えない、社内で生まれるアイデアは二番煎じばかり、取り組んではいるが既存事業の改善レベルに留まるなど、斬新なアイデアがなかなか生まれないといったことをよく聞く。

大きな理由が、アイデアを生み出すための情報が不足していることではないか? 例えばIoTやビッグデータ、AIなどに着目し、「自社製品をネットにつなげたら何が可能になるか」を検討したとする。しかし日常がそうではないため、生み出すアイデアや発想には自ずと限界がある。換言すればデジタルテクノロジーに関する新たな知見のインプットがないと、斬新なアイデア創出は困難だ。

もちろん専門誌やインターネットを探れば一定の情報を得られるし、ITベンダーのカンファレンスや有識者を集めたセミナーに参加すれば、より新鮮な情報に触れられるだろう。こうした情報収集が有用であることは間違いないが、OODAループでいう「Observe(監視)」には、不十分なことも確かである。

というのも戦争状態にある時に重視するのは、自ら偵察して得る1次情報。新聞や噂の類は参考にするにせよ、あてにしないのは当然だろう。同様にネットやセミナーの情報は言わば2次情報である。重要なのはやはり自らが直接動き、五感で感じ取り、あるいは深い議論をした上で獲得した情報であると我々は考える。デジタル ジャーニーを行くには、そうした情報収集活動が不可欠だ。

しかし企業が自社の課題に照らして日々変わるデジタルビジネスの情報を集約することは決して簡単ではない。そこで富士通は過去、実践してきたリサーチの取り組みを集約し、「共創のためのサービス体系」の1ステップとしてまとめた。ここではその内容を解説する。なお、これが完成形ではなく、メニューの追加など情報収集プログラムを進化させるのは当然と考えている。予め、ご了承頂きたい。

現地に赴き情報を収集するリサーチプログラム

情報収集のためのプログラムは、大きく現地視察、代行調査、有識者・専門家によるレクチャ、研修の4つで構成している(図1、2)。このうち最重要と位置づけるのが現地視察(実地調査)である。先進的な取り組みの多い海外に出向き、どんな技術や取り組みがあるのか、企業はどんな問題意識で何にどう取り組んでいるのか、現地で実用化されている技術やサービスには何があり、その仕組みや利用手順はどうかなどを実際に体感するのだ。時間も費用もかかるが、百聞は一見にしかずであり、結局のところ最も有効で一番の近道だからである。


図1:現地視察の流れと例

具体的にどうするのか? まず約1.5~3カ月をかけて計画を練る。企業の目的や要望を踏まえ、富士通の社内ネットワークを駆使して訪問先を検討し、アポイントを取って日程を確定する。特定企業向けのプログラムは守秘義務があって明かせないので、ここからは米国シリコンバレー視察を例に紹介したい。それでもイメージは把握して頂けるはずである。

現地に滞在するのが3日間の場合、次のような行程である。1日目はまず現地在住のアナリストや富士通の専門家から最新動向のレクチャーを受けた後、テクノロジーの活用現場を視察する。例えばKnightscope社が製造・販売する2メートル大の卵型ロボットが、警備員に代わって駐車場をパトロールする現場やホテルで客室係をこなす”ロボット執事”などである。視察後は現地のビジネスパーソンやエンジニアが集まるミートアップにゲスト参加して1日目を終える。

2日目は「Plug and Play Tech Center」というインキュベーション施設を見学し、ベンチャー企業を訪問して話を聞く。2016年に訪問した企業の例をいくつか示そう。磁場技術を得意とするArx Paxは、磁力を使ってビル全体を一時的に地面から浮かせることに取り組む。耐震技術の考え方を根本的に変える可能性がある。Modbotはレゴブロックのような部品の組み合わせでロボットを作れるようにする企業。利用者の求めに応じて適切な機能を備えたロボットを低価格で提供することを目指す。

これら企業への訪問と質疑応答を通じて、技術の最前線に触れ、開発の方法やスピード感を体感できるのは現地に行く大きな利点である。3日目も同様だが、例えばFintechの動向を探るために現地の金融機関を訪問し、決済の方法を見るため店舗も視察する。その後にはデザイン思考で知られるスタンフォード大学d.schoolなども訪ねて視察を終える。

以上、駆け足で説明した。日程に余裕があれば毎日のように開催されているカンファレンスを視察したり、足を伸ばして東海岸など他の地域に行くのもいい。1カ所を視察するだけでは十分ではなく、例えば製造業ならドイツや中国、ハイテク分野ではイスラエル、行政では北欧など複数の国、地域を調べる。訪問先もベンチャー企業、大企業、行政機関など状況に合わせて変える。それが立体的な状況把握につながるからだ。

代行調査、有識者会議など3つの情報収集手段を用意

2つ目の代行調査は、現地視察を補完する位置づけである。例えばIoTにおける通信手段を日々、ウォッチして研究している研究者や、ブロックチェーンの技術や応用に関わる技術者が富士通にはいる。企業が自ら現地を視察したりヒアリングしたりする代わりに、彼/彼女らが調査して報告するのである。視察するべきだが時間がない、あるいは視察するほどとは思えないといった場合に有効である。

3つ目は特定の業界や学界の有識者・専門家との意見交換会をセッティングするプログラムだ。富士通社内の専門家や、その専門家が有する人脈を駆使して人材をアサインし、必要ならファシリテーションも行う。現地視察の計画を練るために意見を聞く、もしくは視察した後に具体的なテーマを深堀りするといった、視点を多角化したい場合に適している。例えば、金融業界ではデジタル技術でどのように顧客接点を高度化する動きがあるか、一般企業におけるAI活用はどんな業務から浸透しつつあるか、といった内容だ。

4 番目は、情報システム部門のリーダー層に向けて富士通が2017年にスタートさせる研修コース「Fujitsu Digital Business College」である。システム部門は業務システムの開発や運用に加え、全社のデジタル化を推進する役割が求められる。そのためにはアドホックなセミナーや研修ではなく、体系的な知識・スキルを身につける必要があると考え、開始するものだ。まずは「デジタル戦略」、「デザイン思考」、「AI・Analytics」、「セキュリティ」の4テーマを設定し、各分野の第一人者および当社技術者による講義とワークショップを通してデジタルビジネス推進人材を育成する。


図2:具体的なテーマについて専門家が調査し、レクチャする

ベンチャーやVCとの人脈形成、共同研究を実施

以上が情報収集プログラムの概要である。これらを行うには先端的な技術動向や先進企業の取り組みをいち早くキャッチすることはもちろん、企業や人とのコネクションを形成するなど様々な活動が求められる。グローバル企業として各所にR&Dや事業拠点を持つ富士通は日々、そうした活動に取り組んでいる。

だからこそ現地視察における訪問企業先との交渉や国内外の専門家、研究者をアサインし、ディスカッションの場をアレンジできる。それを企業の情報収集のためにフルに活用することが、共創のためのサービス体系における情報収集の骨子である。では実際のところ、富士通のR&D拠点にはどんなものがあるのか? ここで説明したい。

まず富士通の研究組織は国内研究所に加えて、米国富士通研究所(Fujitsu Laboratories of America:FLA)、欧州富士通研究所(Fujitsu Laboratories of Europe:FLE)、中国の富士通研究開発中心有限公司(Fujitsu Research & Development Center:FRDC)という4拠点体制をとる。

国内研究所は研究員約1200人を有し、先端材料や次世代素子から、ネットワーク、クラウドシステムの研究開発、さらに次世代ソリューションの創出まで、幅広い分野を担っている。この研究員の一部が前述した代行調査や意見交換を行う専門家である。

一方、1993年にカリフォルニア州サニーベールに設置したFLAは現在、テキサス州リチャードソンにも拠点を持ち、研究員は約60人と少世帯。しかし7割が博士号を取得し、プロセサや光伝送装置などのハードウェア技術からブロックチェーンやAIなどソフトウェア技術まで、先端領域の研究開発に従事する。現地の大学やスタートアップ企業、具体的にはFintechやManutech、Meditechなどの有力ベンチャー、有力VCとの共同研究も行っている。

地の利を活かした最新動向の調査・発信にも積極的で、FintechやAIなどの最新動向をまとめ、富士通総研Webサイトでレポートを公開している(http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/column/)。年次イベントである「富士通ノースアメリカ・テクノロジーフォーラム(富士通フォーラム米国版)」を開催し、現地とのコネクション形成を強化している。

ビッグデータ処理に強いFLE画像解析で成果上げるFRDC

FLEは2001年ロンドン郊外に設立、研究員は約40 人、その出身は15カ国以上に上る多様性を持った研究所である。海洋、生体、バイオなどのシミュレーションなどスーパーコンピュータのアプリケーションやビッグデータ、次世代無線を中心とするネットワークサービスなどを研究している。英国サリー大学が主導する5G Innovation Centreに創立会員として加わり、現在、欧州の通信インフラ分野における共同研究プロジェクト5G PPP(5G Public-Private Partnership Association)のメンバーとして技術開発に取り組んでいる。

ヘルスケア分野も手掛ける。例えば富士通スペインと連携して精神病の専門医の意思決定を支援する実証実験に参画。FLEが持つビッグデータ解析技術と富士通研究所の匿名化技術を組み合わせ、アルコール依存患者の潜在的なリスクを85%以上の精度で算出することに成功した。

1998年北京に設立され、上海、蘇州にも拠点を持つFRDCは、情報処理、通信技術、メディア解析技術の3つの研究部門を持ち、約120人が在籍する。分かりやすい成果では次の事実がある。中国では年間9000件、東京ドーム1万個分の森林が火災によって消失しており、早期発見と消火が緊急課題だった。FRDCは画像鮮明化、物体認識技術で初期火災を自動検出する技術を開発。福建省によるベンチマークにおいて検出精度99.36%を達成し、実用化が決定した。現在は火災に限らず、広域映像監視へと発展させている。

各種団体に参画、R&Dや情報収集に生かす

一方で、富士通は様々なICT関連コンソーシアムや標準化関連団体に参画し、技術開発や標準策定に取り組んでいる。表1にその一部を示した。クラウド、IoT、OSSなどの活動にコミットし、その成果を取り込むことが主目的だが、参加・寄与することで人脈を形成し、最新の動向や次の方向を把握できる。それは共創のためのサービス体系を通じて企業に還元できると考えている。


表1:富士通がコミットするコンソーシアムや団体の例。海外拠点かつ、運営委員など中心的役割を担うものだけをまとめた

アプリケーションを迅速に開発・進化させるために欠かせない「コンテナ技術」を例に挙げよう。先進企業の間で技術開発が進む中で仕様が乱立し、2015年初めの時点でコンテナの可搬性に問題が生じる危惧があった。そこでコンテナ技術を擁する米国のベンチャー企業や大手ICT企業が2015年6月に「Open Container Initiative(OCI)」を組織し、標準化に乗り出した。富士通は唯一の日本企業として創設メンバーに加わり、標準化に貢献しているのだ。

欧米で様々な分野で活用が進みつつあるブロックチェーンも同様である。The Linux Foundationが2015年12月に設立した共同開発プロジェクト「Hyperledger」に参画。開発への貢献や実証実験を行っている。一例だが、ブロックチェーンの課題とされるデジタル鍵の誤用・悪用を防止する技術を、富士通研究所とFLAが開発し、実用化に向け大きく前進させる貢献もあった。こうした最前線の活動から得られる生の情報はWebサイトなどでは得られない価値があり、それをデジタルビジネスに取り組む企業に迅速に提供することができる。

以上、リサーチプログラムの内容とそれを支える富士通の体制や取り組みを述べてきた。現在、プログラムのリリースに向け準備を進めており2017年度上期に提供を開始する予定である。富士通のグローバルなネットワークを活かした最新の情報をお届けできると確信している。

執筆者:阪井 章三(富士通 デジタルフロント事業本部 デジタルフロントセンター マネージャー)

この記事は、IT Leaders特別編集版『Knowledge Integration in Action 2017 in Summer』からの抜粋です。

トップ写真:standret/Getty Images

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