先行企業はビジネスでAIを活用中、DATUM STUDIOが明かす“必要なデータ”とは

2017.07.18
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人手不足が深刻化する産業界。雇用形態を問わず、人手を獲得できない企業は事業の縮小に追い込まれかねない状況です。その課題を解決するために注目されているのがAI(人工知能)です。「人の仕事を奪う」とも評されるAIですが、企業のデータ活用支援を手がけるベンチャー企業DATUM STUDIOは「AIを上手くに活用できるかどうかが、企業の競争力を左右し始めたのが現実」だと言います。先行企業は、どこにAIを適用させているのでしょうか。

AIのアウトプットは「識別」「予測」「実行」の3つ

DATUM STUDIOは2014年8月に創業したベンチャー企業。社名に冠する「datum」は「data(データ)」の単数形、すなわちデータ1つひとつという意味で、同社は企業のデータ活用を支援することで成長してきました。AIの利用状況について、同社の里 洋平 取締役から聞く機会がありました。ネットワーク分野の専門イベントである「Interop Tokyo」(主催:Interop Tokyo 実行委員会)において『いま本当に実現できている「AI」の話』と題し2017年6月に講演しました(写真1)。里氏の講演内容から、企業におけるAI活用の最前線を紹介します。


写真1:企業におけるAI活用の今について話すDATUM STUDIOの里 洋平 取締役

まず里氏は、AIを「AIは人工的にコンピューター上などで人間と同様の知能=物事を判断する能力を実現させようという試み、あるいは、そのための一連の技術」と定義したうえで、人とAIの違いを、「人が経験と記憶に基づいて物事を判断しているのに対し、AIはデータを基に判断している」と説明します。

例えば、判断の対象をリンゴとすれば、「リンゴを見たことがある」「リンゴを触ったことがある」といった過去の経験・記憶によって目の前にあるモノをリンゴと判断するのが人です。これに対しAIは、「色や形、大きさ、成分などのデータを基に対象をリンゴと判断する」(里氏)のです。つまり、AIが何かを判断するためには「データが必要」(同)ということです。

様々なデータが日々蓄積されるビッグデータの時代は「AIにとってハッピーな時代」(里氏)です。加えて機械学習技術の進化がAIのビジネス利用を後押ししています。「人が物事を判断する際に規則性/ルールを学習しているように、AIは機械学習によって規則性/ルールを学習する」(同)からです。その学習効率が急速に高まったことで、大量のデータからパターンを抽出する速度が飛躍的に高まり「AIは実用化の時代を迎えた」(同)というわけです。

そのAIがビジネスにもたらすアウトプットとして里氏は、(1)識別、(2)予測、(3)実行の3つを挙げます。これらの領域でDATUM STUDIOは企業におけるAI導入を支援してきました。以下、同社が支援した企業のAI導入例をみてみましょう。

(1)識別:人手では困難だった機器の故障を予兆

識別とは、物事の判別や部品の仕分け、機器の異常の検知などを指します。この機能を実現するAI導入の機運が、製造や物流などの領域で高まっています。その一例が、システム運用会社A社が通信機器の故障予知にAIを適用したケースです。

A社はこれまで、故障が発生した通信機器のログを解析して作成した故障検知ルールに基づき、そのルールに該当する通信機器のアラートを上げる仕組みを構築してきました。ただ、故障をリアルタイムに検知できない、故障を検知できる範囲が限られているという課題を抱えていました。

DATUM STUDIOはまず、通信機器のログと故障データに機械学習を適用し、機器の異常予測モデルを構築します。しかし「このアプローチはうまくいかなかった」(里氏)のです。その理由は「機器が故障するケースが少なく“故障データ”が少なかった」(同)からです。

そこでDATUM STUDIOは、機器が正常に稼働している状態に機械学習を適用し、「“正常な状態”のモデルを作ると同時に、通信機器の“現在の状態”も学習させたうえで“正常な状態”と“現在の状態”の関係を機械に学習させた」(里氏)のです。これにより、「通信機器の稼働データが“正常な状態”から外れれば、それを故障の予兆だととらえられるようになった」(同)のです。十分なデータ量がなければ適切な結果が得られないこの例は、AIがデータに基づいて判断していることを良く表していると言えるでしょう。

(2)予測:専門家以上の能力を身につけたAIも登場

予測とは、気象予報や売り上げ・需要の予測などを指します。企業が予測したい対象は様々です。中古車販売を手がけるB社は、中古車の売買価格をAIで予測することで収益拡大に取り組んでいます。

中古車販売会社のビジネスは、中古車という商材の買い取りと販売で成り立っています。買取価格が売買価格より高ければ赤字ですし、提示する買取価格が顧客の期待を下回れば商材は他社に流れてしまいます。買取価格は、車の年式や色、走行距離などから算出した販売価格に基づいて決まります。中古車販社の収益を高めるには「未来にいくらで売れるかを正しく予測すること」(里氏)が重要になります。

ただ一般に販売価格は、専門の査定士が車をチェックして算出しています。そこには、査定士の属人性による予測価格のバラツキ、より多くの査定士を抱えるための人件費負担、査定そのものに時間がかかる、という課題があります。そこでDATUM STUDIOは、過去の査定入力データと売買価格データというB社が保有するデータから機械学習による売買価格の予測モデルを構築しました。

ところが、当初の予測モデルは「査定士の予測精度に達しなかった」(里氏)といいます。そのためDATUM STUDIOは、B社の内部データに加え、オークションデータという外部データを機械学習の対象に追加しました。これにより実現した中古車売買予測モデルは「査定士の精度を超えるレベルに達した」(同)のです。査定にかかる時間も大幅に短縮できました。AIが適切な判断を下せるようにするには、自社保有のデータだけでは限界があるといえそうです。

(3)実行:文章の校正もAIが実行

実行とは、自動者の自動運転などを指します。徐々にですが自動化のレベルを上げながら実利用が始まっています。証券会社のC社は、文章の校正にAIを適用しました。

C社は株式市場の動向に関する情報をWebで提供しています。そこに掲載する文章は専門部署のスタッフが数人がかり校正していました。DATUM STUDIOでは、人が校正した“正しい文章”を機械に学習させることで自動的に校正ができるシステムを構築しました。具体的には、機械学習の結果と異なる言葉があれば、その言葉をハイライト表示し「この部分の表現は怪しい」と校正担当者にチェックをうながします。同システムは「現在、試運転中」(里氏)とのことですが、実用化フェーズに入れば「校正時間を大幅に減らせる」(同)と期待されています。

AIによる業務の高度化が不可欠に

これら3つのケースに共通しているのは、「AIにより、これまで専門家が行ってきたことの高度化・自動化が進展している」(里氏)ということです。AIを上手に活用すれば、業務プロセスの自動化=効率化だけでなく、業務の高度化、つまり「業務の質の向上が図れる」(同)ということです。人手不足に悩む企業にとって、競争力を維持し、さらに強化するためには、AIの活用は既に“待ったなし”のフェーズに入っているといえそうです。

執筆者:小林 秀雄(ITジャーナリスト)

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