進む空港のデジタル化、安全確保と利用者の快適さの両立を追求

2018.05.08
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世界の航空旅客数は増え続ける一方で、2016年には過去最高の37億人に達しています(IATA:国際航空輸送協会調べ)。そうした中、利用者に対し“快適な環境”を提供しようと空港の設備/サービス面での競争も激しくなっています。新たに、チェックインなどの手続きスピードアップに向けてデジタル化を図る動きが本格化してきました。空港で導入が進むデジタル化の例を紹介します。

チェックイン手続きを無人化するチャンギ国際空港

航空旅客数の拡大に伴って、搭乗手続きなどに時間がかかり、乗客の待ち時間も増えています。近年はテロ対策の重要性が高まり、手荷物制限のルールが頻繁に見直されたり保安検査が厳密になったりと、セキュリティ対策が強化されています。安全確保は不可欠ですが、そのために各種手続きが煩雑になると、長蛇の列ができかねません。空港運営会社にすれば、安全性と利用者の快適さをどうバランスさせるのかが悩みどころです。

長蛇の列の代表格がチェックイン手続き。その解消に向けて、チェックイン手続きの自動化に着手したのが、シンガポールのチャンギ国際空港です。アジアのハブ空港の1つである同空港で2017年10月にオープンした第4ターミナルにおいて、カメラで撮影した乗客の顔画像で認証する自動チェックインの仕組みを導入しました。

第4ターミナルの仕組みはこうです。チェックイン端末はまず、乗客のパスポートをスキャンすると同時に、乗客の顔を撮影します。パスポートの顔写真と乗客の顔データが一致していることが確認できると、搭乗券と手荷物に取り付けるタグが印刷されます。同時にチェックイン端末は、顔データと、パスポート、搭乗券、手荷物タグの情報をセットにした認証データを作成します。

この認証データを、乗客がセキュリティゾーンへ入るためのゲートを通過する際にも使用します。ゲートでも乗客の顔を撮影し、認識データと照合します。照合結果がOKならセキュリティゾーンへの通過を許可します。さらに飛行機の搭乗口でも、乗客が搭乗券をスキャンさせたときに顔写真を撮影し、認証データと照合します。照合結果がOKなら機内に進めるというわけです。

自動チェックインシステムは、フランスのIT企業IDEMIA(アイデミア)が開発した「MorphoPass Airportソリューション」をベースにしています(動画1)。この顔認証によるチェックインは、手続きの無人化に加え、セキュリティ対策も強化できるといいます。IDEMIAによれば、人が目視で本人の顔とパスポートの写真を比べる方法では、5回に1回は割合で認証ミスが起きているからです。

動画1:「MorphoPass Airportソリューション」の紹介ビデオ(3分9秒)

複数の空港が生体認証チェックインをテスト運用中

チャンギ国際空港に続けと、世界の複数の空港が生体認証による自動チェックインシステムのテスト運用を始めています。蘭アムステルダムのスキポール空港が、その1つ。KLM航空と協力し、顔認証によるチェックインシステムの精度を検証しています。

テストに参加する乗客は、空港内に設置された登録端末で自身の顔とパスポート、搭乗券をスキャンします。その後、搭乗ゲートにおいて、ゲートに設置されたカメラで乗客の顔を撮影します。登録端末でスキャンした顔データと、ゲートで撮影した顔データを比較・照合し、結果がOKならゲートが開き搭乗できるという仕組みです(写真1)。


写真1:スキポール空港における生体認証手順の説明(同空港による紹介冊子より)

スキポール空港は現在、空港における旅行のためのプロセスをより円滑にするために複数の取り組みを検証しています。顔認証による自動チェックインは、そのうちの1つに過ぎません。将来的には、同空港を利用する乗客は、搭乗券やパスポートを提示することなく出発ホールから飛行機に搭乗できるようになる予定です。

他にも、英国のセント・パンクラス空港、インドネシア・ジャカルタのスカルノ・ハッタ空港、米ニューヨークのJFK空港などが、生体認証を用いた自動チェックインシステムのテスト導入を発表しています。

手荷物の預け入れを容易にする電子タグや人の流れを分析するAIが登場

チェックインで面倒なのは乗客の確認だけではありません。手荷物を預けるためにはチェックイン後に再度、カウンターに並ぶ必要があります。この不便さを解消するために、預け入れ荷物のタグもデジタル化され始めました。ドイツのスーツケースメーカーRIMOWAが開発した「RIMOWA ELECTRONIC TAG」です。スーツケース自体にタグ情報を保存する仕組みです。

RIMOWA ELECTRONIC TAGを使用するにはまず、スマートフォンに専用アプリをダウンロードします。このアプリを使って荷物をチェックインすると、手荷物情報がスマホ経由でスーツケースの電子タグに転送されます。電子タグの情報はスーツケース表面のディスプレイで確認できます。ディスプレイには電子インクが採用されており、電池が切れても情報は表示され続けます。

動画2:「RIMOWA ELECTRONIC TAG」の利用シーンや仕組みを紹介するビデオ(2分47秒)

この電子タグでは、空港に到着する前の自宅や移動中に荷物のチェックインを済ませられます。空港に着いたら専用のドロップオフィスカウンターに預けるだけになるため、スーツケースを預けるための待ち時間はありません。

2018年4月時点で、RIMOWA ELECTRONIC TAGに対応しているのは、ルフトハンザ航空、スイス航空、オーストリア航空、台湾エバー航空の4社。さらなる普及が期待されるところです。

また空港内で行列ができるのはチェックインだけではありません。入国審査なども長蛇の列ができることが少なくありません。この課題を解消するために、マレーシアのクアラルンプール国際空港は、AI(人工知能)を使って空港内の人の流れを改善する計画を打ち出しました。乗客の流れや人数をAIによって分析し、乗客の多寡に応じて空港スタッフの配置を最適にすることで、各種手続きにおける待ち行列を解消できると期待します。

さらに同空港は乗客にモバイルアプリケーションを配付し、フライト状況や飛行機の予定到着時間をリアルタイムで知らせるほか、セルフチェックインやセルフバッグドロップの施設を利用できるようにする予定です。

空港のデジタル化が進み、航空業界全体が、さらなるサービス向上に投資する動きが広がれば、空の旅は、今よりももっと快適になるのかもしれません。

執筆者:岸 亮太郎(Digital Innovation Lab)、小林秀雄(ITジャーナリスト)

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