米国ITトレンドで見通す デジタルな近未来【前編】

2015.05.14
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ITはもっと賢く人の行動をコントロールする

モバイル・コンピューティングが向かう先

「①あらゆる場所のコンピューティング」から何をイメージするでしょうか。おそらく90年代に広がった「ユビキタス・コンピューティング」や、最近の「モバイル・コンピューティング」といった言葉を想起された方が多いかも知れません。ガートナーの言う「あらゆる場所のコンピューティング」は、これらとは多少意味合いが異なっています。ガートナーの説明によれば「モバイルデバイス(スマートフォンやタブレット、ウェラブル・デバイスなど)の普及が進むなか、多様なコンテキストと環境の中で、モバイル・ユーザーのニーズを満たす重要性が高まる」となっています。

この中で大事なのは“コンテキスト”。英単語(のカタカナ言葉)なので取っつきにくい感がありますが、日本語では「文脈、事情、背景」を指します。意訳すると「モバイルデバイスを通じて、人のいる場所や空気を読んだサービスを提供しましょう」という意味になります。周知のようにモバイルデバイスにはGPSや加速度センサー、カメラ、マイクなど様々な装置が備わっています。これらを利用すれば相手がどんな状況にいるのか、それはなぜか、を推測可能になります。例えば、GPSで高速に移動していることを検知できれば旅行中、加速度センサーで普段とは異なる加速度を検出したときは事故に遭ったとか転倒した、といったことが分かるわけです。

モバイルデバイスを使えばそういったことが可能になり、サービスに反映すれば人を惹きつけられるわけですね。逆にKY(空気が読めない)的なサービスを提供していても、競争には勝てません。まとめると「モバイルデバイスを使っている人がどんな状況・場面・環境下にあり、(モバイルデバイス以外に)どんなデジタル機器に囲まれているか、あるいは、何を、どうしようとしているかのコンテキスト(文脈・場)をとらえたうえで、サービス/情報を提供することが重要になる(=ビジネスの主戦になってくる)」ということです。

人をとらえるIoT

そんな「あらゆる場所のコンピューティング」を具体化させるには、人とそれを取り巻くすべて事象のデータをどう集めるかが重要となります。その課題を解決してくれるテクノロジが、②の「Internet of Things(IoT)」です。実のところ、ガートナーのIoTのトレンドは、もっと広範な領域での「IoTがもたらす変化」について言及しています。ですが、「あらゆる場所のコンピューティング」との関連の中でIoTをとらえた場合、「人」の動態・嗜好の動きを的確にとらえるための技術として、IoTの進化・利活用が進むと考えたほうがシンプルであると言えます。

IoTで集めたデータを「意味ある情報」「ビジネスに役立つ情報」へと転換するのが、アナリティクス(分析)であり、この技術が、よりパーベイシブ(=組み込み型)になり、見えないかたちで、ITの中に入り込んでいきます(上記「④」のトレンド)。以下は、この点に関するガートナーの見解をまとめたものです。「現在、すべてのアプリケーションが分析アプリケーションであることが求められている。企業・組織はIoTやソーシャル・メディア、ウェアラブル・デバイスなどから入ってくる膨大な量のデータを最適な形でふるいにかけ、適切な情報だけを適切なユーザーに適切なタイミングで提供しなければならない。アナリティクスは、目に見えないかたちで深く、あらゆるところに組み込まれていく」。

ITのスマート化

インテリジェント化に限りなし
このようなかたちでアプリケーションのインテリジェント化が進み、その流れとIoTなどの潮流が組み合わさることで、「周囲の状況に応じて、さまざまなアラートを発したり、適切な対応を促したりするシステム(『⑤コンテキスト・リッチ・システム』の開発が促進され、結果、『コンテキスト・アウェア(状況認識型)』のアプリケーションが登場する」と、ガートナーは指摘します。

アナリティクスや機械学習の技術が進化・発展を続ける中で当然、デジタル技術をベースにした「機械(マシン)」もますます賢くなります。それが「⑥スマート・マシン」のトレンドです。ガートナーは以下のような見解を示しています。「スマート・マシンの技術は、深い分析(アナリティクス)と高度なアルゴリズムによって、周囲の環境・状況を理解し、自己学習を進め、自発的にアクションを起こすようになる。結果、自律走行車やロボット、仮想パーソナル・アシスタント、スマート・アドバイザなどが急速に進化し、マシン・ヘルパー(あるいは、「マシン・コンシェルジュ」)の時代を切り開いていく」。

ITが人と現実世界をつなぐ

昔前のeコマース・サイトの「レコメンデーション機能」や、スマートフォンのエージェント機能に「便利さ」よりも、「煩わしさ」を感じた方も少なからずおられるはずです。ですが、コンピュータが賢くなるスピードは、人よりもはるかに早く、ITの知性は加速度的に高められています。

周知のとおり、高速なマイクロプロセッサと高度化したアルゴリズムのおかげで、すでにチェスのプロやクイズの全米チャンピオンは、コンピュータにかなわなくなっています。音声認識の世界でも、大量の文章・音声を読み込ませるだけで機械が自動的に文法を解析するようになっているようです。これにより、かつては、文法・構文が複雑で「コンピュータによる認識が難しい」とされてきた日本語音声も、今や(母音の数が少なく、単語の識別が容易なことから)「音声認識が簡単なモノ」へと変容しているのです。

こんなふうにITが賢くなり、IoTを通じた(人を含めた)実世界の把握が進めば、間違いなく、我々の日々の暮らしや仕事は、より快適に、安全にもなるでしょう。ただし、その裏を返せば「人の日々の行動が、人の最も身近にあるデジタル・デバイスによってコントロール(良い言い方をすれば、ナビゲート)される機会が増える」ということです。言い換えれば、人はITを通じて、実世界とつながるようになるわけです。ある種の仕事がコンピュータに置き換えられ失業が増加する副作用も指摘されています。

それは遠い将来の話ではなく、すぐそこにある未来です――今日の企業は、それを踏まえたうえで、ビジネスの新しい方向性やイノベーションのあり方を考えていく必要があるのです。人もそうですが、コンピュータも、インプットされるデータが多くなればなるほど、そして「経験」を積み重ねれば重ねるほど賢くなり、導き出す「答え」や「判断」の精度が上がっていきます。この点では、機械学習の仕組みを使って何らかのサービスを始めるなら、他に先んじたほうが得策と考えることができます。

以上で、前編は終了です。「あれ? 『③3Dプリンティング』の話はどうしたんだ」と、思われる読者がいらっしゃるかも知れませんが、「3Dプリンティング」が少し異質な技術であることから、今回はスキップしました。これについては、後編の最後で触れる予定です。

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