デジタル破壊の震源地たるベンチャー企業を生みだすシリコンバレーの風土とは

2016.10.13
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「デジタル・ディスラプション(Digital Disruption、デジタルをテコにした創造的破壊)」が大きなうねりとなって世界を揺さぶっています。最近は大手企業が破壊される側から自らが破壊する側に回ろうとする動きも出始めました。そのために「オープンイノベーション(Open Innovation、共創)」によってベンチャー企業の力を利用しようとしています。ベンチャー不在といわれる日本は、米シリコンバレーなどと何が異なっているのでしょうか。こうした疑問に答えるイベントをDigital Innovation Labが企画し開催しました。

「Digital Disruptionの体現者に学ぶ」と題したイベントに登壇したのは、ベンチャーキャピタルおよびコンサルタントの校條(めんじょう)浩 氏と富士通総研の石井 宏明 氏の2人。校條氏は2002年にNet Service Ventures Group(NSVG)を米シリコンバレーに設立。現地のベンチャー企業と日本の大手企業を引き合わせたりしています。石井氏は、米国のFujitsu Laboratories of Americaに駐在し、ビジネスアナリストとして、新しいビジネスモデルの動向を抑えるために現地の大手企業、ベンチャー企業そして大学の研究者・エンジニアと交流。帰国後は、そこでの知見を生かし日本企業の新規事業企画をサポートしたり、米国のベンチャー企業と日本企業の協業を支援したりしています。イベント全体は、インプレス編集主幹の田口 潤 氏がモデレートしました。

日本のものづくり企業が安易にIoTに取り組むと失敗する

最初に校條氏は、「(日本が得意としてきた)ものづくりの世界は、ものすごい勢いで変化している」と指摘しました。ハードウェアの開発にもリーン革命が起こっていると言うのです。リーンとは、品質を落とさず開発時間をそぎ落とすための取り組み。ソフトウェア開発の現場では既に、オープンソースやモジュール(構造)化、クラウドといった技術や開発コストの低下によりリーン革命が起こりました。

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写真1:ベンチャーキャピタル/コンサルタントの校條(めんじょう)浩 氏

ハードウェア開発のリーン革命が起きているのは、オープンソースやモジュール化に加え、クラウドファンディングなど開発費用の捻出にも新たな手法が登場しているためです。さらに、例えば3Dプリンターによる、ものづくりでは、データを配信すれば「モノ」を届けられ配送コストが限りなくゼロに近づいていくなど、開発現場以外にもイノベーションの波は伝搬していきます。

「IoT(モノのインターネット)」は今や珍しいキーワードではありません。ただ校條氏は「IoTのIはソフトウェアであり、Tはハードウェアだ。両者の間には大きな違いがある」と説明します。例えば、Iの世界ではTry&Errorの手法が多用され「まずやってみよう」となりますが、Tの世界では、しっかりと設計し不具合がないことを確かめることから始まります。結果、「Iはシリコンバレーやアメリカが強く、Tは日本が強い」(校條氏)という構図が成り立ちます。さらにIとTが融合していくIoTでは「単純にものづくりだけの世界では競争にすら参加できない」(同)ということになります。

そのうえで校條氏は「日本企業の経営トップはITが分かっていない人が多い」とし、「ITが分からないトップがシステム部門にIoTを任せようとすると失敗する」と警鐘を鳴らします。「Iではリーダーシップが必要なのに対し、Tでは受けの意識が強いなど、マインドセットから異なる」のが、その理由です。この違いを校條氏は特に強調しました。

キャンパスを持たずに世界を旅する大学に世界最高峰の学生が集まる

一方の石井氏は、教育分野でのディスラプションを紹介しました。米国で2014年に開校したMinerva Schools at KGI(以下、Minerva Schools)です。ハーバード大学に代表されるアイビーリーグやUCバークレー校といった全米トップ大学に合格した生徒が、そこを蹴ってまで入学しているといいます。

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写真2:富士通総研の石井 宏明 氏

MINERVA Schoolsは“キャンパスを持たない”大学で、授業は「Active Learning Forum」と呼ばれるオンラインプラットフォームで実施します。学生は1年目こそ米サンフランシスコに集まりますが、その後は、独ベルリンやアルゼンチンのブエノスアイレスといった国際都市に移動しながら学びます。MINERVA Schoolsの狙いは、学術的な研究において効果があるとされている教育手法を現実の学校で実現させることです。そうした教育手法はこれまで、教える側の運用の負荷が非常に高く実現が困難でしたが、そこをITで実現しようというわけです。

例えば、授業中の学生の表情をビデオカメラで記録し、その受講態度や発言内容を分析して評価したり、先生の質問への答えを音声から文書に変換して分析したりします。その結果をMINERVA Schoolsの評価基準に照らし合わせ、学生の弱点を明らかにし次の授業で適切な投げかけを行うのです。逆に先生の側も、学生と、どのようなコミュニケーションを取ったかなどが記録・分析されます。従来なら主観的・定性的にしか分からなかった教える側のパフォーマンスも、データに基づいて定量的に評価・改善できるようになります。

授業をオンラインプラットフォームで実施するからキャンパスが不要になる。キャンパスに投資をしなくてよいため世界を旅できる。世界を旅する中で学生は現地でプロジェクトを始められる−−。「こういったユニークな体験が他校との差異化になり、優秀な学生の確保につながっていく」と石井氏は説明します。ツールがあるからできるという発想ではなく、何を実現したいのかが重要なのです。MINERVA Schoolsは教育の例ですが、「社会課題を解決するための取り組みが新しいビジネスサービスを生みだす」(石井氏)ということでしょう。

失敗は許されるが“良い失敗”でなければならない

両氏の指摘を受けて、モデレーターの田口氏が「ベンチャー企業では一体、どんな人たちが働いているのか」との疑問を投げかけました。これに対し校條氏は「ベンチャー企業に入ることは、特別な選択肢ではなく普通のこと」と答えます。「米スタンフォード大学の卒業生が約半数がベンチャー企業に進む。ベンチャー企業はだめになったら一気に人を切ってしまうものの、決して貧乏ではなく、きちんと給料を出している。黙っていても人が入ってくるGoogleのほうが給料は安い」(校條氏)のです。

ただし、「シリコンバレーの人は全員が起業家」というのは嘘のようです。校條氏によれば、「起業家は少なく『そういう人に、ついていきたい』という人が大勢いる」。とのこと。つまり創業期の最初の20から100人くらいの段階で入社する人はいても、最初に立ち上げる人はなかなかいない。そして「ベンチャー系が苦手な人は大企業に入社する。もっとも全員が起業家だったら会社は大きくならない。優秀な社員が入ってくることも大切だ」と校條氏は補足します。

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写真3:シリコンバレーの風土について語る登壇者とモデレーターの田口 潤氏(左)

こうした背景には、「起業も3回目ぐらいで成功すれば良く、できなくても大企業に戻れば良いし、実際に戻れる」(校條氏)ことがあります。ただ彼らも、失敗すれば、がっかりし死にそうにもなるのは変わりません。それでも起業するのは「やらなかったことに対するコストのほうが高いため。これを「Opportunity loss」と言います。『あのときにやっておけばよかった』という後悔の度合いが、日本人の100倍くらい大きい。やらないことのほうが不安で仕方がない」(同)ということが、日米の最大の違いのようです。

石井氏は「米国は人材の流動性が圧倒的に違う」と指摘します。一つでも成功すれば、それが実績になり、その実績を基に次を始めるのです。その意味で石井氏は「意外に米国はコネ社会だ」とも言います。あるプロジェクトに参加して何かができたことが実績になり、信頼になっていくからです。「デジタルが発達し、色々な人が入れ替わるからこそ、1対1の関係性が今まで以上に大切になる」(同)ということでしょう。

ただ、「米国は失敗が許される社会」だと言われるものの、校條氏によれば「失敗も、ひどい失敗をする人には次の就職はない」とのこと。例えば、仮説に沿って、くまなく頑張ったけれどもマーケットがなかったという失敗は、個人の責任にはならない。これに対し、マネジメントが悪くチームが崩壊してしまったという失敗は、その人のマネジメント能力がと問われるからです。「2つの失敗は意味が違うし、その違いは人のつながりで大体分かってしまうので隠せない」(同)のもシリコンバレー流なのです。

日本では、ベンチャー育成策の不備や、失敗を受け入れない環境などが多々指摘されます。ですが、校條氏のコメントによれば、「あのときにやっておけばよかった」と後悔したくないと個々人が強く感じることとが、より重要なようです。そして、そんな個人の考えや理想などを仲間や企業と共有しながら、少しずつでもリスクを取っていくことが求められているのでしょう。

執筆者:奥野 大児(ライター/ブロガー、https://twitter.com/odaiji)

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