繊維や衣服にICTを組み込め!次世代の高機能繊維を米国が産官学連携で開発へ

2016.04.21
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色やデザインを自在に変更でき、何かを見たり聞いたりできる衣服を開発せよ−−。こんな荒唐無稽に思えるプロジェクトが2016年4月から米国で始まっています。米国防総省が主導し、マサチューセッツ工科大学(MIT)やインテル、デュポン、ナイキといった米国の大学や企業が参加します。5年間に合計3億2000万ドルを投じ、これまでにない糸や繊維を開発する計画です。

このプロジェクトの名称は「Advanced Functional Fabrics of America(AFFOA:米国の高機能繊維)」。微細なCPUやメモリー、通信デバイス、ディスプレイ、太陽電池セルなどを組み込んだ糸や繊維を開発し、見たり聞いたり、通信したりエネルギーを蓄えたり、あるいは色を変えたりできる衣服の開発を目指します。繊維の強度や耐火性、軽量性も追求する計画です(動画1)。

動画1:MITのYoel Fink教授による「繊維革命」に関するプレゼンテーション(RLEatMIT’s channelより)

国防総省が主導するだけに、一般消費者向けというよりは、まずは軍用を意識しているようです。色を変えられればカメレオンのように環境と同化する迷彩服が作れますし、重くて邪魔になる通信装置と軍服が一体化すれば、その分、兵士は敏捷に動けることになります。暖めたり冷やしたりといった体温調節や健康状態の監視なども可能になるため兵士の健康管理面でも重要です。さらにパラシュートや軍用車の外装などに応用すれば、それこそステルス型の戦術や戦闘車両などが実現できます(写真1)。

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写真1:パラシュートや軍用車の外装といった用途も見込む(写真はイメージ)

もちろん民生用に転用すれば、従来は不可能だったり見たこともないようなファッションが可能になります。糸や繊維といえば、枯れた工業製品の代表と見られがちです。ですが、誰もが身に付ける素材であることを考えれば、AFFOAが目指す高機能繊維の実用化は非常に大きなインパクトがあると言えるでしょう。

その分、技術開発の難度は高くなります。そこでAFFOAでは、MITの「Revolutionary Fibers and Textiles Manufacturing Innovation Institute(RFT-MII)」を中核に、30もの大学や49もの企業、それに非営利団体などを加えた合計89の組織が参加し開発に取り組みます。いわゆるPPP(Public Private Partnership)です。資金は国防総省が7500万ドル、民間企業などが2億5000万ドルを拠出します。

例えば、繊維メーカーの米FibeRioに、オーディオ機器メーカーの米ボーズ、CPU世界最大手のインテルが異業種連携を図ります。こうした連携企業に対しRFT-MIIは、最先端の設計ツールやナレッジ管理システム、共同作業のためのインフラなどを提供することで、R&D(研究開発)から最終製品のプロトタイプ製造までをサポートします。米国企業間ではありますが、産官学をまたぐ、まさしくオープンイノベーションです。

それにしてもなぜ糸や繊維、衣服なのでしょうか?繊維産業は労働集約型の産業であり、生産拠点は米国や日本などの先進国から新興国へと移りました(図1)。今日では中国が世界シェアの70%近くを占めています。これは繊維に限った話ではなく、製造業大半について言えることです。しかし、雇用という観点からみれば、そうした事態を放置するわけにはいきません。

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図1:日本における繊維産業の事業所数や従業員数は減少の一途(出所:『工業統計』、経済産業省)

そこで米オバマ政権は2012年から、合計20億ドルに及ぶ製造R&D投資である「Network for Manufacturing Innovation (NNMI) 」を推進しています(同活動のポータルサイト)。米国各地にInstitute for Manufacturing Innovation (IMI)と呼ぶR&D拠点を設け、製造業の成長を加速させようというもので、高機能材料の開発や3Dプリンターによる製造イノベーションが、その活動の一例です(図2)。

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図2: 米国は“強い製造業”の復権を目指す(出所:Network for Manufacturing Innovation :NNMI)

AFFOAも、このNNMIの一環です。なにしろ「安価で高品質な繊維」という繊維業界のルールを「ICT内蔵の高機能繊維」というルールにチェンジできれば、繊維産業の主導権を握れます。糸や繊維は、衣服や靴だけでなく、車のシートや住宅のソファなど川上から川下まで多くの企業が関係し、それだけ多くの雇用創出が見込めるだけに米国の力が入るのも当然でしょう。

一方、日本の高機能繊維開発では民間企業が頑張っています。東レが導電性樹脂をコーティングして心拍数などを計測できる機能性繊維「hitoe」を、東洋紡が同様の「COCOMI」を、帝人は関西大学と共同で曲げやねじれを感知する「圧電ファブリック」をそれぞれ開発しています(動画2)。

動画2:東レの「hitoe」を使ってNTTが共同研究を進める生体情報測定の仕組み(NTT研究所「技」チャンネル)

しかし繊維産業という枠を超えているかというと、そうではありませんし、ICT産業や大学などの関与はほとんどないのが実情です。もちろんAFFOAが成果を生み出せるとは限りません。ですが、ものづくり大国の日本としては、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)や着用型のICT機器(いわゆるウェアラブルデバイス)という観点からも、AFFOAは見過ごしてはならない動きでしょう。

執筆者:Digital Innovation Lab

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