ドローンエコノミーの到来

2015.11.05
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ひと味違った映像の制作、人跡未踏地の探査・測量、農薬散布、施設の監視や点検、さらには物流・・・。従来は困難だったことを可能にする技術の1つとして、遠隔操縦または自律式の無人航空機(UAV)の一種である「ドローン(Drone)」が注目を浴びています。新しい経済価値を生み出す可能性から、“ドローン・エコノミー”という言葉さえ生まれているほどです。

実際、ベンチャー企業や自治体はもとより、様々な企業がドローンの活用に乗り出したり、その計画を進めています。ビジネスパーソンならドローンを巡る動きを抑えておく必要があるでしょう。そこで、どんな活用が進んでいるのか、大手企業はどのような動きをとっているのか、ドローンが社会に浸透していくための条件は何かなどを、紹介しましょう。

ドローンに関心が集まる経緯

まず歴史から。昔からラジコンヘリなど無人航空機はありましたが、ドローンという名称が知られ、注目が集まるようになったのは、米国の有名人であるクリス・アンダーソン氏が「3D Robotics」というドローン専門ベンチャー企業を起業。「そちらに活動の軸足を移していく」と発表した2012年末頃からです。

アンダーソン氏は「ロングテール」という言葉を生み出し、「メイカームーブメント」の火付け役であり、『WIRED』という著名な雑誌の編集長も務めていました。そんな人が「メディアとロボット、どっちに将来性があると思う?」という問いから起業を決めたといいますから、注目を集めるのも当然ですね(当然、答はロボットです)。

もちろんそれだけではありません。例えば誰もが知る米Googleは「ProjectWing」という配送ドローンプロジェクトを立ち上げ、米Amazonは「PrimeAir」というドローン配送サービスを発表。ECに置ける最大のボトルネックの1つである物流を変革するべく、それぞれ試験を重ねています。「注文を受けた品物を配送するのにドローンを活用する」――そう聞けば「なるほど」ですが、落下したらどうするのか、安全性はどう確保するのかなどといった疑問は多く、当初は半信半疑で受け取られました。しかし両社が本気であることが知られるにつれ、ドローンへの関心が広まることになっていったのです。

Facebookが進める太陽光で動くレーザー搭載型ドローン「Aquila」も、知っておく必要があるでしょう。太陽高発電により長期間、滞空可能なドローンを編隊を組んで浮遊させ、レーザー通信を行って、必要なところにインターネット接続環境を提供する計画です。日本では必要性は感じにくいですが、アフリカなどはもちろん米国でもネット環境が不十分な地域はありますから、実用化への期待は大きいものがあります。

こうして離陸したドローン開発の動きは、現在では用途の広がりが認識されたことも手伝って多額の投資マネーを集めています。一例を挙げるとドローンメーカーとして世界をリードする中国企業のDJIは7500万ドルの資金を調達済み。半導体メーカーとして知られるインテルは、やはり中国ドローンベンダーに6000万ドルを出資しています。

一方でLinux財団がドローンソフトウェア開発プログラム「Dronecode」を開始するというオープンソース活動も始まっています。制御プログラムをゼロから開発するには資金が必要ですが、オープンソースソフトウェアの開発が進めば敷居がグッと下がり、様々なドローンが様々な企業から登場するようになるのは歴史が証明しています。

Dronecode

出遅れた感のある日本でも、巻き返しの動きが顕在化しています。一例が、ソニーモバイルコミュニケーションズが日本のロボット技術会社ZMPと提携し、ドローンサービスを開発すると発表したことでしょう。合弁でエアロセンスという企業を立ち上げ、試作機の開発に取り組んでいます。安全安心なハードウェアは日本のお家芸とも言える得意分野ですから、今後は飛躍的に開発が進むと期待されます。

エアロセンス

ドローンによって生まれるサービス

多方面で積極的な開発が行われているドローン。では、どんなサービス、つまり用途が登場してきているのでしょうか。まずドローンにカメラを取り付けることによる報道や映像制作の分野。カメラの性能にもよりますが、個人にも企業にも身近と言えるでしょう。報道では、災害の現場など人の力ではなかなか取材が難しい場所の取材が可能になることが期待されており、例えば大手メディアである米CNNはFAA(連邦航空局)の認可を取得して報道におけるドローンの活用研究に着手しています。

映画の本場であるハリウッドでは、空撮をするためにドローンを用いるクリエイターも増加しており、ドローンを使った映像撮影を請け負うサービスや撮影した映像素材、画像素材を提供するサイトなども登場しています。というのも空撮はこれまでヘリコプターを飛ばして撮影を行うなど、一度の撮影にかなりのコストがかかっていました。ドローンならコストを抑え、ヘリが飛べない場所も撮影可能です。

同様に施設の設備点検や鉱山などの監視といった作業も、ドローンの活用で低コスト化が期待されています。日本の例を挙げると、NTT東日本が作業員が近づくのが難しい地点の設備点検やケーブル敷設、災害時の被災状況の確認などにドローンを活用することを発表。大手企業でもドローンを活用することによる効率化が始まっています。

先ほど紹介した物流も有力な用途の1つです。Amazonなどだけではなく、2015年10月にはシンガポールポスト(SingPost)がドローンを活用して手紙とTシャツの2つの郵便物の配達に成功しています。当然、緊急時においても、ドローンの活躍の余地があります。命にかかわるような事故が起こった際、事故後数分の間に正しい治療が必要になります。

救急活動に必要な自動体外式除細動器(AED)や薬品、心肺蘇生法(CPR)の補助器具といった必要なものをドローンで運ぶ「Ambulance Drone」というプロジェクトもあります。災害時に被災者のWi-Fiを検知して捜索するドローンシステムも開発されており、ドローンの普及は多くの人の命を救うことにもつながることが期待されています。

実用に向けた環境整備が課題に

高い可能性を持つドローンですが、普及には課題もあります。ドローンの発展や先行的な応用の取り組みに対して、法律や制度がまだ追いついていないことです。首相官邸にドローンが落下したり、世界遺産の姫路城を傷つけたりといった事件・事故は記憶に新しいところでしょう。

米国の空港では旅客機とドローンのニアミスが相次ぎ、規制や取り締まりが必要だとの意見も増えています。安全にドローンを運用するために、どんな制限をかけるべきか。どこまで規制を緩和するべきか?社会に浸透させていくためには、技術以外のハードルをクリアしていく必要があるわけです。

日本においては、秋田県仙北市が国家戦略特区となり、様々な実証実験を行える地域となっています。仙北市では、ドローンのスピードや操作技術を競うレースなどが今後開催されていく予定です。海外では、Googleが新型ドローン2機種をFAA(連邦航空局)に申請して承認されるなど、徐々に公的機関からドローンが認められる動きが出始めています。

ルールを整備していこうという動きは公的機関だけではなく、民間企業からも生まれています。AmazonでPrime Airを担当するガー・キムチ氏が、高度152メートル以下の空域を中心に、ドローンが安全に飛行するためのルールづくりを提案しました。提案の内容は、空域内ではドローンは互いにネットワークを介して通信を行い、自動的な制御を可能にしようというもの。さながら、ドローン用のハイウェイを作ろうという構想です。

日本では、ドローンの普及団体である日本UAS産業振興協議会が、ゼンリンなどと共同してドローンの飛行が原則禁止の区域をインターネット上の地図として提供するサービスを2016年度にも開始することを発表しています。ドローンを推進する側が自ら安全を担保する試みと言えるでしょう。

一方でドローンを安全に運行する技術開発の余地も、たくさんあります。Google社内のR&D部門Google X出身のメンバーが設立したスタートアップSkydioは、Andreessen Horowitzという著名ベンチャーキャピタルから出資を受けてドローン用ナビゲーションシステムを開発しています。操縦者の目が届かないところでも、あるいは操縦者がいなくても、飛行できるようにする技術です。

これらの取り組みから言えるのは、ドローンの技術開発や活用はまだ緒に着いたばかりであるということ。今後、より大型/超小型のドローンが開発されれば、用途はさらに広がります。あるいは人工知能や3Dの地図データベース、各種センサーデバイスなどと結びつき、現在は考えることさえできない高度な自律飛行が可能になることも、当然、予想されます。

こうした様々な可能性を持ったドローンに対して傍観者となるか、それとも積極的に利活用に乗り出すか。言い換えれば自社のビジネスや事業には無関係と考えるか、それとも何らかの用途を見出すか。監視、物流などを考えただけでも、前者はありえないでしょう。ドローンは企業やビジネスパーソンに対し、「チャレンジ精神を持て」と呼びかけているようにさえ思われます。

執筆者:モリジュンヤ

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