人による巡回・目視に代わって「ドローンの眼」が教える地形や赤潮の発生、損傷の有無など

2017.05.30
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ドローン(無人航空機)は最早、物珍しい存在ではありません。小型のドローンなら家電量販店でも販売されていますし、最近はテレビ番組などでもドローンによる空撮場面が登場しています。ドローンの活用例としては「宅配」が良く取り上げられますが、空撮映像を撮れるのも、宅配同様にドローンがカメラを狙った位置に運べるからこそ。カメラを運ぶことは単に美しい映像を撮影するだけでなく、そこから色々なことが分かります。「ドローンの眼」で撮影した映像から、どんなことが分かるのか。実際の取り組み例を紹介します。

土木工事の3Dモデルを作成

ドローン活用に積極的な業界の1つに土木建設業があります。土木工事現場をドローンで撮影すれば、現場の3D(3次元)モデルが作成できるからです。3Dモデルが作成できれば、造成のための計画図と比較することで、土を掘ったり逆に持ったりする場所が分かるほか、そうした作業によって移動させる土の量までを高い精度で算出できます。扱う土の量が分かれば、どれくらいの建機をどれだけの期間、稼働させれば良いかも計算できることになります。

こうした3Dモデルの活用によって、土木工事の効率を高めた例として、宮城県南三陸町の復興工事が挙げられます。飛島建設、大豊建設、三井住友建設の3社が共同で実施したもので、東日本大震災に伴う大津波の被害を被った土地に土を盛ってかさ上げする工事です。工事現場の広さは、およそ90ヘクタール(90万平方メートル)で、東京ドーム約90個分に相当します。

3社は、ドローンを利用した測量を手がけるエアロセンスに、工事現場上空の写真撮影から、3Dモデル作成、造成図を基にした土の切り盛りのシミュレーションを依頼しました。エアロセンスは工事現場全体を3日間で撮影。そこから得られた約6000枚の画像から現場の3Dモデルを作成し、土を切り盛りする場所と、その量をシミュレーションしました(図1)。これにより従来なら6週間かかっていた工事を2週間で完了させました。工期が3分の1になったことで、工事コストは従来のおよそ半分に削減できました。ドローンがなければ、測量だけで1カ月以上かかるため、測量が終わる前に工事に着手しなければならず、その結果、工事の進捗自体、正確には把握できなかったといいます。


図1:左は工事現場全体の3Dモデル画像。右は現場の土の量を計測した結果で、グレーの部分は造成が済んでいる部分、色がついているところは計画との高低差(エアロセンスのホームページより)

ドローンを土木工事の現場に投入する動きは国土交通省も推進しています。デジタルな技術を土木建設に適用する「i-Construction」という取り組みが、それです。3Dモデルや、AI(人工知能)によるデータ解析などを取り入れることで、土木工事の効率を高めるのが狙いです。i-Constructionでは、工費が3億円以上の大規模案件にはドローンを活用するよう推奨しており、2020年までに工費3億円以上の工事現場ではドローンを100%導入するのが目標です。この動きを建機メーカーの立場から推進するのがコマツ(小松製作所)の「スマートコンストラクション」で、やはりドローンを活用して現場の3Dモデルを作成しています(関連記事)。

赤潮の発生など海上の様子を監視

ドローンが飛んでいるのは土木現場だけではありません。海苔の養殖で有名な佐賀県の有明海では、養殖現場をドローンが巡回しています(図2)。ドローンが撮影した画像から分かるのは、赤潮やアカグサレ病といった海苔の生育を阻む兆候の有無です。赤潮の発生を検知したら、発生している海域を漁業関係者に伝え、対策を打ってもらいます。海苔の病気の兆候をつかんだときも同様に漁業関係者に連絡します。


図2:海苔の養殖場を巡回するドローンは固定翼型(オプティムのニュースリリースより)

従来、赤潮やアカグサレ病などの兆候は、漁業関係者が船に乗って現場周辺を目視で確認するしかありませんでした。船による巡回では時間もかかりますし、人間による目視では正しく見通せる範囲にも限りがあります。これに対しドローンなら、上空から海水面をくまなく撮影できます。有明海の取り組みは、佐賀県が佐賀大学や佐賀県有明海漁協、農林中央金庫、NTTドコモ、オプティムと共同で実施している実証実験で、ドローンが撮影した画像に加え、センサーブイから得たデータをクラウド上で分析しています。

今後は、養殖場に近づくカモをドローンで追い払うことも計画しています。カモは養殖中の海苔をつまみ食いしてしまうそうですが、人手による巡回ではなかなか防げません。ドローンは今後、赤潮などに目を光らせながら、カモ対策にも当たるというわけです。

高所や足場が不安定な場所の目視点検にも有効

人が巡回する場所は、必ずしも安全だとは限りません。ビルや橋梁、鉄道などのインフラを中心に、各種設備を点検するためには、高所や足場が不安定な場所にも人が出向かなければなりません。しかし、そうした危険場所も、ドローンなら足場を作ることなく直ぐに飛行して点検ができます。撮影した画像を分析すれば、わずかな傷も検知できるようです。そんな場所では足場を作ることからして危険ですし時間もかかります。ドローンなら安全面からもコスト面からも有効というわけです。

例えば、静岡県袋井市の小笠山総合運動公園内にある「エコパスタジアム」では、屋根の点検に、テラドローンが提供するドローンによる点検サービスを導入しています。同スタジアムは、5万889人を収容するかなり大きな競技場で、2002年FIFAワールドカップの会場にもなりました。以前は、人が屋根に上がって目視点検していました。しかし、目視点検は時間がかかるうえに、屋根から転落する危険が付きまといます。ドローンにより、転落の危険を心配することなく、より広い範囲を詳細に点検できるようになりました。

全日本空輸(ANA)は旅客機の点検にドローンを活用し始めました。運行中に雷を受けたとき機体は、傷や凹みがないかを調べなければなりませんが、この作業もやはり整備員が目視で実施してきました。そこでANAはエアロセンスと共同で、ドローンで機体を撮影し、その画像から損傷の有無を調べようとしています(図3)。山形県の庄内空港にあるランプエリア内で、点検作業にどこまでドローンを利用できるか検証しています。ドローンで撮影することで、点検作業にかかる時間を短縮し、運行の遅延や欠航の防止を目指します。


図3:ドローンによる機体の撮影(エアロセンスのニュースリリースより)

いかがでしたでしょうか。「ドローンの眼」が役立つ場面の、いくつかを紹介しました。さらに最近は画像解析の手法や精度も高度化しているだけに、撮影さえできれば、これまで以上のことが分かる可能性も高まっています。まだまだ人が実際に目視点検している場所は少なくありません。「ドローンの眼」をどこに運ぶのかを考えることが,新たなサービスを生みだすかもしれません。

執筆者:大堀 達也(Digital Innovation Lab)、笹田 仁(ITジャーナリスト)

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